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よっしゃ、剥ぎ取りの時間だぜーーー!

うおおおおおおおおお!

さぁ、ローブを寄越せ!

あと手袋とブーツもだ!

あとなんか仮面とか持ってないですか?


うおおおおおおおおおおお!


ーー……よくふざける気力が残っているなー。オレは結構キツイんだが…ーー


こうでもしないと女性から衣服を奪うという蛮行に耐えられなくなりそうだからな。


ーー………そうか…ーー


俺は今、倒れた赤髪の少女のローブを奪おうとしている。

やっていることが山賊そのものすぎて、正直気分は良くない。今すぐにでもやめたいぐらいな訳だが、こっちも必死なのだ。ここは心を冷たく、意思は固く行こう!


…しかしあれだな、こいつ、なかなか綺麗な顔立ちしてるなぁ。


短髪の、男のような髪型だが、顔の形は卵形、顎もあまり尖っておらず、耳の形も綺麗なもんだ。鼻は高くもなく低くもなく、正直そこらの貴族にでも気に入られそうな見た目をしている。肌の色は、ちょっと褐色がかってるな。健康でいいことだ。


「………ん……」


そう呟きながらモゾモゾする少女。

どこの国でも、こういった時に漏らす声はそんなに変わらんな。


とと、いかんいかん。あんまりじろじろ見るのもどうかと思うからな、さっさと衣服を…


ローブにかけようとした手が止まる。


………………………


……とりあえず、場所を移動するか。


俺は膝と腰に手を当てて、よいしょっと持ち上げる。

こんなところに置いてたら、今度こそ食べられてしまうかもしれないからな。

……なんか、結局取れないような気がするが、確実に気のせいだろう。


それはともかく。


…『黄昏』をどうするかな。


手は塞がってる訳だし。


ーーうーん、確かになぁ。お前がそいつをどうするかは、オレには関係無いけど、ここで置いてかれるのはな〜ーー


まぁ、置いて行く気はないから安心してくれ。


そう会話しながら、俺は一つ案を思いついた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜



ーー……ちょっとこれは予想外だったな。ーー


『黄昏』の呆れた声が響く。


仕方ないだろ?実際これでいけてる訳だし。


ーー…まぁ、手で持ってもらいたいとかそんな事は思ってなかったが、これは新鮮すぎるなーー


俺は今、頭蓋骨の右の眼窩に無理やり『黄昏』を突き刺して運んでいる。

ちなみに後頭部まで突き抜けている。穴は魔力で出来る限り塞いだ。


…両手に少女を抱きかかえているから仕方ないとはいえ、やってみて俺もこれはどうかと思った。


周りから見たらヤバい度数が急激に上昇してるな…。


骨は紫のまだら、頭蓋には鉄のような棒一本突き刺さり、おまけに生きた少女を抱えて森を歩いているって訳だしな。


夜だったら、もう完全に怪談だろう。


それはともかく。


今俺たちが進んでいるのは、おそらく少女と狼が戦っていた痕と思われるのがいくつも残っている場所だ。どうやら移動しながら戦っていたようで、その跡を容易に辿ることができた。

もしかすると、こいつもあの狼に追い込まれたんだろうか。


一旦は逃げたものの、途中で追いつかれそうになって応戦した、といったところなのかもしれないな。

というかあいつ、追い込むのが役目なんだろうか。排除、認定が役目とか何とか言ってたし。

それにしては殺意が高すぎる…って、もしかしてこれが認定のための戦いだったんだろうか?

……スケルトンの俺までそれをやってくるなんて…。

手当たり次第すぎでは?


というか何を認めるんだ?

そもそもこの森は?

あの感謝の意味とは……?


頭を振り…そうになって、『黄昏』を思い出しやめる。

考えても分からないなら、後回しにすべきだろう。外国には外国の不思議があるってだけ、うん、今はそう思っておくとしよう。


…あ。


川……だ。


そして俺はようやく森の外に出ることになった。






〜〜〜〜〜〜〜〜〜


よいしょっと。

俺は少女をゆっくりと地面に下ろす。


…そういえば思い出したが、この娘一撃もらってたな。


もしかしてそのせいで起きないのだろうか。

俺は少女を良く観察してみる。


…いやなんか、くかーって寝てるな。

本当に攻撃が当たったんだろうな?

ローブを脱がせばわかる話なんだろうが…。


…いや、なんか少し苦しそうでもあるな。

口の端に血の垂れた跡が残っている。


一応、回復魔術を…ってそういや俺魔術使えるんだろうか?


今まですっかり自分が使えることを忘れていた訳だが、そういえば俺は一応魔術も使えるのだ。


…しょぼい上に、地属性しか扱えないが。


…とりあえず、一番簡単なアレからだな。


よし、


『ウ゛』


ここではやめよう。こんなことで少女が起きたら、俺は死んでしまう。


ていうか、いい加減まともな発音がしたい………!






という訳で、少し森の中に入って確かめてみるとしよう。


『イ゛ア゛ウ゛ア゛オ゛イ゛オ゛ウ゛ア゛ウ゛イ゛オ゛ウ゛(悪戯土鬼のつまづき瘤)!』


俺の短縮詠唱が響くと同時に、地面の一部がぼこりと膨らみ、固まる。


……以上。


…さっきのあいつらの魔術を見ていると悲しくなってくるな。

良いんだ、あいつらには無い剣技があるんだから、それだけなら勝ってるさ。


ーー先に言っておくが、お前の剣術ダメダメの極みだからな?我流のまま頑張りましたって感じだが、基本も何も無いからな?ーー




死にたい。死んでた。


いや、ここはこう考えよう。これからさ、と。


ーーまぁ、基本的な技術だけならオレが教えてやれるから、少しずつ頑張ろうやーー


どこか優しい口調の『黄昏』が少しムカつくが、非常にありがたい申し出だ。


お願いします、『黄昏』先生!


ーーうむ、オレに任せておくが良いわ!うっはっはっは!ーー



それはともかく。


魔術の発動自体は可能のようだ。なら、回復魔術も発動できる筈だ。


戻って俺は、少女の前に手を組みひざまづく。


回復魔術は苦手だからな、ちゃんとしないと発動すらしない可能性がある。


詠唱開始。


『大地よ、すべてを受け止めし慈愛の地よ。我に、その身に宿す生命の力を貸し与えたまえ。土に飲み込み、草木を通じ、痛みを取り除きたまえ。《大地の癒し》』


詠唱と共に、体から魔力が吸い出され土の中に潜って行く。そして少女の横たわる地面が僅かに光る。

その光はゆっくり、ほわりほわりと少女の体に纏わり付き、やがて全身を覆う。


少し経ち、輝きがふっと解ける。

それと同時に地面の光も消え失せた。


……ふぅ。上手く行っただろうか?


姿勢を崩し、座り込む俺。

自然治癒の力を高めつつ、傷の治療を行う魔術のはずだが、俺では切り傷や擦り傷程度しか治せなかったからな…。アンデッドの魔力が変に作用したりしてないかも不安だ。

本来なら聖属性が治癒の最上適合なんだが、地属性だけなんだ。勘弁してくれ。


「………ぅう…ん…ふぅ……」


うむ、どうやら処置は成功しているようだ。

魔力量で回復力も上昇するとは聞いていたが、中身の傷も癒せるなんて…いやぁ、アンデッド様様ってところか?


いやまぁ、そのかわりほぼ全ての人種と敵対しただろうが。

利益と不利益が釣り合ってない。

むしろ不利益の側に天秤の皿が叩きつけられるぐらいの比率だろう。


それは良いんだが。


問題は、下手げに癒したせいか少女が目覚めそうだ。


……………あぁ、やっぱり剥ぎ取りなんて無理だなぁ…。

女の子の衣服なんて剥ぎ取れないぜ…。

先輩冒険者のおっちゃんたちが見たら、この腰抜け野郎が!って怒鳴られるんだろうな…。

まぁ、今の俺を見たらこの骨野郎がッ!って斬りかかられるんだろうが。

世知辛い世の中だ。

俺でもそうするけど。


ーー………で、結局取らないのか…。お前本当に街に行く気あんのか?ーー


『黄昏』の呆れも最もだ。

行く!やる!って意気込んだくせして、無理です!だもんな。

もういっその事、この娘起こして逃げた方がまだマシなんじゃ……?


ーー……………………いやまぁ、止めはしないがーー


『黄昏』は、もうどうとでもしろという意思しか感じないような声である。

うん、今回は諦めよう。

もっとこう、ゴツくて、裸でもゴブリン殴り倒せます! みたいな、そんなおっさんを狙おう。何か理由がない限り、確実にローブなんて着ないだろうけど。


よし、決めた。起こそう。

俺は少女の体にゆっくりと手を置き、ゆさゆさと揺らす。


…起きない。


顔をペチペチ。


…………起きない。


手をゴリゴリと顔の前でこすり合わせる。


…………………起きない。


なんで起きないかな!?

なんで気持ちよさそうに眠ってんの、この娘!

君ィ、戦いに来たようなもんだよね!?

気絶してからそのまま爆睡に移るのおかしいよ!

おっかしいなぁ、さっき起きそうな気配してたよね?

しょうがない、最後の手段、絶叫を叩き込んで…


「うぅ……ん?bnpjmwt……?」


あ、目が覚めた。

しばし見つめ合う俺と少女。

そしてその沈黙は、一瞬にて破られた。


「apejhmjdtpnptm!?agpmpp!!!」

『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!?』




頭がァーーーーーーーッ!?




起き抜けに叫んだ少女の放った火球は、過たず俺の頭蓋を天高く吹っ飛ばした。







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