14
短くてごめんなさい
朦々と立ち込める土煙。
舞い上がった木の葉がパラパラと落ちてくる。
放たれた一撃は俺の体ごと周りの土塊を派手に撒き散らし、大穴を穿った。
………つーか、ヤバいな。
一撃で体の七割が砕かれた。
『黄昏』の障壁が残っていたはずなのにこの威力、どう考えてもおかしいだろ。
俺の状況?
この狼の右足の下で粉々になってるよ。
頭は……木の上に引っかかってるっぽいな。
要するに、首なし体ほぼなし、白骨状態だ。
ただの死体じゃねえか。
『黄昏』も何処かに飛んでいったらしく、頭の中で呼んでも返答がない。
…まぁ、俺がここまでやたらと冷静なのはおかしな話だがな。
スケルトンになった影響か、痛みが無いことは前から知っていたが…………どうやら死ぬ事も怖くなくなるようだ。
死にたくないとか考えていた割には、普通に冷静だったのもこのせいか。
と、死の間際でだらだらと余計なことを考えている俺の頭に
『………聞こえ、るか』
という声が響いてきた。
………誰だ?
『黄昏』の声とは違う響きだ。
まさか、ティティヌス神が死の間際にでも呼びかけているとでも?
まぁ、それはないか。
声の響きは、深く重い。
そして、その響きはどうやら目の前に立つ狼から発せられているようだ。
それが分かる。
直接声が出ているわけではないからか、声に意識を集中した瞬間、パッと狼の顔が浮かぶのだ。
まぁ、余計な思考はここまでにしよう。
はい何でしょうかね?
と返した俺に、狼は震えが来そうなほどの怒りを滲ませながらこう伝えてきた。
『怒り。耳、被害、痛打。目、閃光、痛み。赦せず。』
言葉が、途切れ途切れの単語で飛んでくる。
まぁ、それでも話せるのが凄い話だが。
それはすまん。だがこっちも必死でな、やり方を考えたらこうしか出来なかった。
そう弁解する俺に、先ほどよりわずかに怒りを緩ませ、こう告げた。
『格下、侮り、痛打、我、責任。怒り、然し、憎悪、ならず。』
どうやら怒ってはいるようだが、それは仕方ないと言ってくれているようだ。
…多分。
『我、讃える、健闘、然し、怒り』
まぁ、許してくれそうにはないな。
当たり前か。耳に叫ばれて、目に大光量だ。俺でも殺意が湧く。
んで、このまま俺を殺す訳か?そりゃまぁしょうがないがーーー
そう伝える俺に静かな声で、
『否』
とのみ返し、言葉を続けた。
『我、去る。役目、排除、認定、あり』
そこで言葉を切ると、わずかに考え込むような間を感じた。
そして、
『感謝』
と言い、俺から右足を退かす。
そして、
ウォォォォォォォォォォォォォォォォン!
と遠吠えしたかと思うと、一瞬のうちに消え去った。
残された俺は、それをぼおっと見て、一言だけ思った。
………………感謝?
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
………あれからどれだけ経っただろう?
地面に半ば埋まりながら魔力の回復を待っている訳だが、ただ何もしないでいるというのはとても退屈だ。
そして思い返すのはさっきの狼が告げた、
『感謝』
の意味だ。
……流石に被虐趣味があるって訳じゃ無いだろうしな…。
うーん、謎だ。
ま、考えてもしょうがないんだが……。
あー、暇だ〜…。
ティティヌス神に祈りでも捧げておくか…。
地に祈りを、恵みに感謝を、営みに喜びを。
我ら抱きし大地よ、我ら試せし大地よ。
至らぬ我らを見守り給え。
……はい、おしまい。
暇潰しにもならないな。
そういや、あの女の子は起きてるだろうか?
特段何か物音は聞こえないが、それなりに時間は経っているはずだ。そろそろ起きてもおかしくは無い。
…起きられると本当に利点が無くなるんだが…。
ローブが欲しいのにわざわざ出て行った挙句格上に勝ったと思ったら粉微塵にされるし、全く厄日ってのはこのことか。
ま、粉微塵で済んだんだから良しとすべきか。
ザワザワと風の通りに合わせて森がさざめく。日の光で厚い枝葉の間がチラチラと輝いている。チチと鳴く鳥の声が何処からか聞こえてくる。
まったく、まるで最初から平和だったみたいな様子じゃないか。というか戻ってくるの早くないかお前ら?
さらに時間が経ち、ようやく体の修復が始められるほどにまで魔力が回復した。
よーし、俺の体たち集まれー。
全身に魔力を通す。
粉々になったはずの骨が形を整え、元の場所に、木の枝に引っかかっていた頭は定位置に。
そして右手に引っかかったままの『黄昏』が戻ってきた。
よし、完璧だな!
ーー………………………………………………ーー
ん?どうした『黄昏』?何かあったのか?
黙ったままの『黄昏』に声をかけると、
ーー……はぁ、まったく。初っ端から大変な戦闘だったな…?ーー
とてつもなく疲れた声が返ってきた。
剣にも疲れってあるんだな。
そんな馬鹿なことを思いながら、俺はお疲れと言った。