邪魔
再び両者の拳が交わろうとしたそのとき。
銃声が上がり、一発の弾丸がグレープの右足を貫いた。
グレープはバランスを崩し、地面に横転した。
銃弾が飛んできた方向を見ると、敷島が銃を構えて立っていた。
地面に転がったグレープは無傷な方の左足で立とうとした。
敷島は再び銃を放った。
銃弾が右肩を貫いた。
利き手、利き足は使えなくなった。
「何をぐずぐずしてる! 早く捕まえろ!」
敷島は広道に怒鳴った。
右手に銃、左手に手錠を下げていた。
広道に近づきながら手錠を放り投げた。
広道はキャッチしたものの、事の展開に唖然として動くことができなかった。
「さっさと手錠をかけるんだ!」
敷島は催促するように再び声を上げた。
広道はグレープを見下ろした。
右肩、右脚から血を流してはいるものの目は死んでいなかった。
仰向けに倒れながら広道を睨みつけていた。
苦々しい思いが広道の胸に込み上げてきた。
勝つにしろ負けるにしろ決着をつけたかった。
グレープと同様、広道もまた互角に闘える相手を求めていた。
長年の潜入捜査で警官としての自覚が薄れたのだろうか。
彼を逮捕するより、格闘の血が勝った。
「貸せ」
敷島は立ち尽くす広道から手錠を奪い取ろうとした。
しかし広道は渡さなかった。二人で手錠を引っ張り合う形になった。
「何してやがる」
敷島は広道を睨みつけた。
「邪魔しやがって」
広道は敷島を睨み返した。
「お前は警官だぞ!」
敷島が諭すように声を上げたとき、何かが顔に当たった。
2人が揉めている間にグレープが上体を起こしていた。グレープが敷島の顔に向かって唾を吐いたのだった。被弾していない左足一本で立ち上がり、左手だけで構えて見せた。
「まだ終わっちゃいないぜ」
敷島は袖で顔についた唾を拭い、無表情でグレープの左太腿を撃ち抜いた。
グレープは膝をついた。
左手はまだ構えていた。
敷島はグレープの左上腕部を撃ち抜いた。
左手はダラリと下がった。が、顔はまだ構えていた。目はまだ闘う意思を放棄していなかった。
敷島はグレープの上体を靴裏で蹴り倒した。
敷島はグレープを見下ろした。
「ホチョーッ!」
グレープは敷島に向かって気合いを投げ、鼻で笑った。
「やれよ…俺を撃て。殺せ」
敷島は無言でグレープを見下ろした。
「俺は殺し屋グレープだ。殺家ー随一の殺し屋として数え切れないほどの人間を葬ってきた。お前の弟も殺した。俺をやる理由は十分にある。だろ? 今、俺をやらねえと後で後悔することになるぜ」
そう言われて、敷島はグレープの額に銃口を向けた。
グレープは静かに目を閉じた。
敵ながら大した奴だ、敷島はそう思いながら銃をしまった。
グレープを足で転がし、うつぶせにした。
「貨せ」
敷島は広道の手にぶら下がっていた手錠を奪い取った。
広道は抵抗しなかった。
もはやグレープとの勝負は叶わなかった。
放っておけばグレープは出血多量で死ぬだろう。回復しても手足は使い物にならないかも知れない。
敷島はうつ伏せになったグレープを跨ぐと、ダラリとした彼の両手を後ろ手にして手錠をかけた。
(つづく)
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