仮面ライダー復活
走るグレープの後ろ姿を潜入は追った。
ところで潜入の名前は広道と言う。
姓が広道だ。
サッカービルヂングを出て、飲食店が軒を連ねる裏通りを二人は駆け抜けて行った。
グレープの瞬足は相当なものだった。
広道も走ることにかけては自信があったが、グレープとの距離は広がらなくとも縮むことはなかった。
他の警官たちはついてこなかった。いや、ついて来れなかった。
今頃、路上にたたずみ途方に暮れていることだろう。
グレープはときおり振り返った。
彼がついて来るのを確認してしているようだった。
広道の姿を認めると、笑みを投げた。
ついてきているのを喜んでいるようだった。
広道は違和感を覚えた。
グレープは広道から逃走しているはずだが、そのような感じがしなかった。
本気で広道を巻こうとしているなら、建物に隠れるとか、フェンスを飛び越えるとか、立て看板を倒して障害にするとか、そのような行動に出てもよいはずだった。
しかし、彼はただひたすら走り続けるだけだった。
曲がり角を曲がる時などは広道が見失わないように意図的にペースダウンしてる気さえした。
グレープの走りは広道から逃走しているというよりは、広道を先導しているようだった。
彼の前を走り、何処かに誘おうとしているようだった。
やがて広道はピンと来た。
グレープは広道と対決できる場所を探しているのだと。
最後まで誰にも邪魔されず決着をつけることができる場所を。
そんな場所を見つければ、彼は走るのをやめて広道と対峙するはずだ。
その時、ある建物が広道の視界に入った。
それは軒を連ねる小さな建物の背後にそびえ立っていた。
あれだ!
「いい場所がある!」
広道はグレープの背中に向かって叫んだ。
グレープは走るのをやめなかったが、後ろをちらりと振り返った。
聞こえているというサインのように。
広道は乱れつつある呼吸の間隙を縫って続けた。
「俺と…お前が…決着をつけるのに…最高の場所がある!」
グレープは減速し、ついに立ち止まった。
彼の背中は、その言葉を待っていたとでも言いたげだった。
広道も足を止めた。
グレープとの距離は保った。
電車で向かい合わせに座る程度の距離だ。
呼吸が乱れていた。
すぐに言葉を継ぐことができなかった。
グレープが振り返った。
彼も肩を上下させていた。
グレープの息が上がっていることを知って広道は安堵した。
あれだけのスピードで走った後で平然とされては、持久戦にもつれたとき勝ち目はない。
「どこだ?」
「案内しよう」
「先に場所を言え。潜入捜査官は信用できねえからな」
「あそこだ」
広道はグレープの後方にある大きな建物を指差した。
グレープは振り返った。
デパートだった。
その屋上で広道は仮面ライダーに扮し、ショーのステージに立っていた。
潜入捜査の日々において、己が正義であることを見失わないために。
子供達の声援を浴びながら、正義の鉄拳を振い続け、いつだって勝利を収めた。
あそこなら勝てる。
広道は確信した。
(つづく)




