3つの問題~グレープ、犬、コンパニオン
事務所のソファに身を沈め、チェリーに自慢の真珠入りを含ませているものの、快楽に溺れているわけではなかった。いや、溺れているのかもしれないが、《《ただ》》溺れている《《だけではなかった》》。
解決策を思案していた。
ボスが真剣に物事を考えるときはいつもそうだった。ペニスを刺激された方が、頭が冴えて、いい考えが浮かんだ。
子供の頃は、ズボンの上から自分でこすりながら考え事をした。すると決まっていいアイデアが浮かんだ。
しかし、オルガスムスが近づくともう何も考えられなくなった。頭は射精への欲望でいっぱいになり、ピュッピュと共にアイデアも飛び散ってしまうことがあった。それでも残ったアイデアは本当に素晴らしいものだった。
イクイクイクイクイクイク、ウッ!
ボスの思考は中断され、チェリーの口内に聖水をぶちまけた。
チェリーは最後の一滴が放出されるまで辛抱強く待ち、これ以上出ないと判断すると口を放して聖水を飲み下した。
ボスは天井をぼんやりと見つめながら快楽の余韻に浸っていた。
「チェリー、今まで何本加えてきたんだ」
「真珠入りはボスのが初めてです」
答えになっていなかったが、ボスは満足した。
ズボンを上げながらさらにお決まりの質問をした。
「俺のが一番だろ?」
「はい、ボスのが一番です」
ボスは財布から一万円札を何枚か抜き取り、チェリーに差し出した。
「取っとけ。今日はもう帰っていいぞ」
チェリーは礼を言って金を受け取ると組長室を出ていった。
ボスはタバコに火をつけた。
彼はタバコと葉巻、両方を吸うが、射精後はタバコだった。
大きく息を吸いつつ煙を肺に入れ、口と鼻から吐き出した。
食後の一服と射精後の一服どっちが美味いだろう?
そんなことを考えながら、フィルターぎりぎりまで吸うと灰皿で揉み消した。
「さて」
リフレッシュの時間は終わった。
組織のボスとして問題と向き合うときだった。
問題が持ち上がっていた。
それも三つだ。
暗殺ビジネスから事業を始めて今年で10年。そろそろ綻びが出る頃なのかも知れない。
早めに手を打たなければならない。
「入れ!」
扉の向こうに声をかけた。
ストロベリーとラズベリーが入ってきた。
問題が三つあったので、ベリー三兄弟に一つずつ担当させるつもりだったが、ブルーベリーがいなかった。
ボス「ブルーベリーはどうした?」
ストロベリー「まだ来てないっす」
ボス「しょうがねえな。まあ座れや」
ストロベリーとラズベリーはボスと向かい合わせに腰を下ろした。
ボス「早速、本題に入ろう」
ボスは、現在、組織に持ち上がっている三つの問題を列挙していった。
ボス「まず一つ目だ。グレープが逃亡した」
ラズベリー「逃亡!?」
ボス「さっき弁護士のレモンから報告があった。留置場から逃げたそうだ」
ストロベリー「どうやって?」
ボス「詳しいことは分からん。レモンが今朝方面会に行ったら逃亡したとサツに言われたらしい」
ラズベリー「さすがだな」
ボス「感心してる場合か。グレープは『殺家ー』を潰すつもりだ」
ストロベリー「潰す? 俺たちを?」
ボス「今朝方レモンが面会に行った。その時グレープはこう言ったそうだ。『黙って消されると思うなよ』」
ラズベリー「ちょっと待ってくださいよ。なんであいつが消されるんですか!?」
ボス「それが『殺家ー』の掟だからだ。お前らもわかってんだろ? サツに面の割れた殺し屋は用済みだ。生かしておくわけにはいかねえ。組織のことを知り過ぎてるからな」
ストロベリーとラズベリーは言葉を失った。
昨日の味方が今日の敵。
グレープの場合は最強の味方だったけに、最強の敵となった。
ボス「そこで、だ」
ボスはテーブルの上にあった木箱の蓋を開けた。
葉巻が綺麗に並んでいた。ボスは一本取って火をつけた。
ボス「お前たちの誰でもいい。グレープを殺れ」
ラズベリー「そんなん無理っすよ! 逆にこっちが殺られちまう」
ボス「殺るしかない、さもなければこっちが殺られる」
ストロベリー「ボス、問題が3つあるって言ってましたよね?」
ボス「ああ。だからお前ら三兄弟に一つずつ担当してもらうつもりだ」
ストロベリー「じゃあ、グレープの件はブルーベリーに振りましょう」
ブルーベリーでは役不足に思えたが、実のところストロベリーでもラズベリーでも大して変わらなかった。
ボス「まあ、いいだろう」
いざとなったら三人でかからせればいい。
ボス「次は犬の件だ」
ストロベリー「犬の犬?」
ボス「サツの犬が組織にいる。グレープ逮捕はサツに情報が漏れたからだ」
ラズベリー「つまり裏切者がいて、そいつがサツに情報を流してるってことですか」
ボス「間違いない」
ストロベリー「いったい誰が・・・」
ストロベリーにもラズベリーにも全く思い当たらなかった。
現時点ではボスにも検討がついていなかった。この2人でないことは確かだった。裏切り者になるにはアホ過ぎたからだ。
ボス「犬の特定は俺がやる。始末は頼む」
ストロベリー「お任せください」
ストロベリーがすかさず引き受けた。
裏切り者がグレープ以外の誰かだとしたら始末するのは簡単だ。
次に出される案件が面倒だったときのために、早めに手打ちにした。
ボス「さて、最後はコンパニオン失踪事件だ」
コンパニオンとはボスが経営するソープランドのソープ嬢のことだった。
ボス「三日前の夜だ。あるコンパニオンが客をとった後で店からいなくなった。店長は、客と駆け落ちしたとみている」
ラズベリー「いなくなったってどういうことですか?」
ボス「コンビニに行ってくると言って出ていったきり戻らなかったそうだ。それから三日間出勤していない。店長が自宅に行ったが不在だった。電話も応答がない」
ストロベリー「どうして駆け落ちだって思うんですか?」
ボス「店長の勘だ。確信に近い勘だと言っていた」
ストロベリー「最後の客って常連ですか?」
ボス「いや初めての客らしい」
ラズベリー「じゃあ、わからないじゃないですか。駆け落ちしたんだとしたら常連客かも知れないし。一体何を根拠に」
ボスは答える代わりにタブレットを操作した。壁に架けられた65インチテレビの電源がオンになった。
ボス「さっき店長が動画を送ってくれたんだ」
ストロベリー「動画?」
ボス「『ダイヴァース』に設置してあるカメラの映像だ。ここに最後の客が映ってる。俺もまだ観てないんだが、これを観れば分かると言っていた」
ラズベリー「設置してあるって、まさか部屋の中じゃないでしょうね」
ボス「部屋の中に決まってんだろ。マジックミラー越しに設置してあんだよ」
ストロベリー「てことは、俺たちのセックスも録画されてるってことですか?」
ボス「まあ、とりあえずはな。店長がチェックして、いいのはサイトにアップするし、まずいのは消去する。組織の貴重な収入源だ。あ、お前らのは当然消してあるから心配すんな。AV男優が殺し屋ってわけにもいかねえからな」
ラズベリー「軽くショックだぜ・・・」
ボスはニヤニヤしながらタブレットをタップした。
「アァッ!!! アァッ!!! アァッ!!!!」
動画は女の喘ぎ声で唐突に始まった。
四つん這いになり後ろから突かれていた。
親に隠れてAVを観ている高校生のようにボスはあわてて音量を下げた。
別に下げる必要はないのだが、ついそうしてしまうのは若い頃の名残だろうか?
女は尻をつきだし、顔をベッドに埋めていた。
男は胸半分から上がフレームの外だった。
顔の見えない男女のカラミだった。
が、男の突きが早く強くなったとき、女はああっ!と絶頂に達し顔を上げた。
垂れ下がる長い黒髪の隙間から見えたのは、
「ソヨンじゃねえか!」
ストロベリーとラズベリーは同時に叫んだ。
ソープランド「ダイヴァース」一番人気の韓国人コンパニオンだった。
二人とも行けば必ず彼女を指名した。
ストロベリー「失踪したのはソヨンですか!?」
ボス「そうだ。『殺家ー』といい『ダイヴァース』といい、ナンバーワンがいなくなって大打撃だ」
「アアッ!アアッ!アアッ!」
ソヨンが絶頂に達しても男は突くのをやめなかった。
ストロベリーとラズベリーは下半身を膨らませながらスクリーンに見入っていた。
二人は衝撃を受けていた。
ソヨンが感じているのを見たのはこの時が初めてだからだ。
ラズベリー「韓国のセックスは黙ってやるのかと思ったぜ…」
二人とカラむときの彼女はまるでダッチワイフだった。
金を払ってるのにサービス精神は皆無だった。
ただ横になり、されるがまま、行為の最中にスマホを見ている時もある。
しかし、いまスクリーンに映る彼女は唇の端からよだれを垂らし声を上げているではないか!
この味が忘れられなくてこの客と駆け落ちしたということか?
ラズベリーは悔しさと共に、生まれて初めてエロ本を見たときと同様の興奮を味わっていた。
一人だったら、確実にズボンを下ろしていただろう。
ストロベリーにいたっては無自覚のうちにズボンの上からペニスをモミモミしていた。
「アアアアアッ!」
ソヨンが再び絶頂に達した時、男は腰の動きを止めペニスを抜いた。
ソヨンはうつ伏せでベッドに潰れた。
男はまだイッてなかった。
ソヨンを容赦なく仰向けにし、正常位で挿入しようとした時、男の顔が初めて画面に映し出された。
ボス「こ、これは・・・!」
ボスはあわてて画像を静止した。
美しい顔の若者だった。
ボス「九一くん!」
ボスは65インチのテレビ画面にすがるように張り付いた。
顔を近づけ画面に映る若者にキスせんばかりだった。
ボスがゲイなのは当然知っていたが普段の冷静さを欠いた忘我の様子に二人のベリーは嫌悪感を覚えた。
ストロベリー「知り合いっすか? 随分、若いっすね」
取り繕うように聞いたが、ボスは答えなかった。
代わりに画面の若者に向かって呼びかけていた。
「九一くん、ああ、九一くん、あなたは一体いまどこにいるんだ?」
「アッ!アッ!アッ!アッ!」
ボスの呼びかけとは裏腹に画面では九一とソヨンの激しい行為が進行中だった。
九一は正常位でひたすらソヨンを突き上げていた。
ソヨンはよがりなから両足で九一の胴体をかにばさみしていた。
その若者はボスが愛してやまない木口九一だった。
愛を告白したものの、あっさりフラれ、それでも想いを断ち切れなかった夢の恋人だった。
サキを殺すことにしたのも、彼がサキの愛人だと知ったからだった。
二人が体を重ねているのを想像しただけで怒りと憎悪が腹の底から突き上げてきた。
そうなったときボスにとっての選択肢は「殺す」しかなかった。
ガタン!
突然、大きな物音がした。
テレビではなかった。
組長室の扉の向こうからだった。
ボスはAV鑑賞中に親がいきなり部屋に入って来たたきのようにあわてて動画を消した。
ラズベリー、ストロベリーは同時に立ち上がり銃を構えた。
ラズベリーが扉を開けた。
そこは組員の事務所だが、誰もいなかった。
ボスはラズベリーに向かって頷いた。
ラズベリーは足音を忍ばせ、今度は外に通じる扉に近づき、そっと開けた。
警官が足元に倒れ込んできた。
ラズ&ストロベリーは瞬時に銃を向けた。
警官は床に倒れたまま、ぴくりともしなかった。
ラズベリー「こ、こいつは!」
ボス「何だ」
ラズベリー「ブルーベリー!」
横たわっているのは警官の制服を着たブルーベリーだった。
目を見開いて死んでいた。
ラズベリーとストロベリーは銃を構えて辺りを見渡したが誰もいなかった。
しかし、誰かがたった今、ブルーベリーの死体をここに運んできたのだ。
ボス「ん?」
死体を見下ろしていたボスが声を発した。
死体の唇の隙間に何かが見えた。
ボスはかがみ込んでブルーベリーの頬を指で挟み、唇を開かせた。
もう一方の手の指を口の中に突っ込み、取り出した。
葡萄の果実だった。
「グレープの野郎・・・」
(つづく)




