クズとカス、その内情
久方の呼び出しに応じてみれば言い出されたは突然の別れだった。
「他に、好きな人が出来たんだ」
家運の零落に作られた負債を肩代わりする事を条件に
とある邸宅の奉公人として勤めていた婚約者逢坂空也は
自らの主人であるその妻の女性、北村あやめに恋してしまったらしい。
北村家は今現在婚約破棄を言い渡された、桐生薔子の住まいからほんのすぐ傍である。
そこの奉公人となっていたというのも「婚約者である薔子を見ていられるから」
という事で選んでいたものだったが
まさかこのような結果になるであろうとは、一体誰が予想出来ただろうか。
去るものは追わず、潔く婚約破棄を了承しようとした所に
ふとそれは始まるのである。
「大体、君ってさ」
彼曰く、北村あやめやその母親である雪子から聞いたのだそうだった。
以下、延々と続くは桐生家と薔子の悪口である。
「朱に交われば赤くなる」という諺があるが事実、その通りであった。
北村家の当主の母雪子は
以前から事ある事に桐生家を観察しては
ほんの些細な事にいちいち口を出し、噂を広める事で有名であった。
草花の実るその庭を見れば「花粉や枝が邪魔だ」と言い更地にさせ、
更地になった土地を見れば「雑草が邪魔だ、切れ」とのかす。
その癖、他の家には口を出さず
自らは他所の邸宅と一緒になり、駐車違反などの
違法行為を平気で犯すような人物であった。
その娘のあやめも表面的に、特に異性の前ででは
その人物などをかばうようなそぶり等を見せてはいるものの
その実は通行人の顔を見て「醜い」と罵倒するような
心根の人物である。
ようするに
「特定の人間だけはいじめるがその他の人間には異常に外面がいい」
ので善人扱いされるようなもの。
長年北村家から標的にされている薔子はその実内情を知っていた。
そしてそんな北村家では表向き奉公人として扱われている婚約者の空也も
今ではただのヒモ同然のような暮らしをしている事も。
一方的に近寄られた挙句
一方的に婚約破棄を言い渡され、最終的に罵倒されるのは
この上なく迷惑で、不快である。
(どうしてこんなクズに、言われなくちゃならないのかしら・・・)
屈辱的な心情を抱えたまま、婚約破棄は滞りなく終わった。