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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

剣と魔法のファンタジー世界にVRゲームと恋愛要素をぶち込んでみた。

作者: てつぶん

「オラアアアアアアア!」

「はああああああああ!」


 大剣と大鉾がぶつかり、辺り一帯に衝撃が走る。


 大剣に宿る魔力が大地を砕き、大鉾に宿る破魔の力が天を衝く。


 数秒のつばぜり合いを経て、両者は同時に距離を取った。


「ハァッ……ハァッ……」

「はぁ……はぁ……」


 戦闘が始まってから約一時間。常に全力の状態で戦い続けてきた両者は共に息を切らしている。


 両者はどちらからともなく武器を構えた。そして、再び衝突が始まろうとしたその時、事態は急変した。


『ヴェイル様!奇襲です!我が軍の全線基地が敵軍の攻撃を受けています!』

「なんだと!?」


 大剣を持つ男『ヴェイル』の脳内に声が響いた。離れた場所との交信を行う『念話』と呼ばれる魔法が作用したのだ。


 ヴェイルは目の前にいる敵を睨み付けた。その顔は苦渋に満ちている。


「クリア……テメェ嵌めやがったな!?」


 大鉾を構える女性『クリア』は、したり顔で口を開いた。


「エルフだって、いつまでもやられっぱなしじゃないわよ」


 そう。これはクリア率いるエルフ軍の策略だったのだ。


 邪道な戦法を用いる魔族軍に対抗するには同じく邪道を用いるしかない。


 クリアはエルフの国の首都を守る最終防衛戦力を秘密裏に進行させていたのだ。


 王都を無防備するという極めて危険な作戦だったが、その作戦は見事成功した。


『ヴェイル様!どうかご帰還を!このままでは拠点が持ちません!』

「……チッ!」


 劣勢を悟ったヴェイルは自軍の拠点へ向かおうとするが、それはクリアによって阻まれる。


「行かせると思う?」

「テメェ!」


 ヴェイルは殺意を込め剣を縦横無尽に振るう。クリアはその猛攻を完全に見切り防ぐ。


 攻めっ気が見られないクリアにしびれを切らしたヴェイルは逃走を図る。しかし、クリアはそれを予期していたかのように素早くヴェイルの進路へと回り込み大鉾を振るう。


 ヴェイルは理解した。クリアは時間稼ぎをしている。エルフ軍が魔族軍を壊滅させるまでの時間を稼いでいるのだと。


『……撤退だ』

『ヴェイル様……て、撤退でございますか?』

『二度も言わせるな!その拠点は放棄する!撤退しろ!』


 自分の到着および後続の援軍が間に合わないことを悟ったヴェイルは撤退の指示を出した。


 これまで無敗を誇ってきた魔族軍の、初めての敗北。その事実がヴェイルに重くのしかかる。


「ふふっ。お早い決断で助かるわ」

「……クッ」


 大きく後退したヴェイルは武器を収めた。


 全身に魔力を纏いふわりと宙に浮いたヴェイルは、地上で笑みを浮かべるクリアを睨む。


「覚えていろ。この屈辱、いつか百倍にして返してやる!」

「上等よ。私達が今まで受けた苦しみ、千倍にして返してやるわ」


 お互いに恨み言を吐いたところで、戦いは終息した。


 ヴェイルはクリアに背を向け、空の彼方へと消えた。それを確認したクリアは大きなため息をつき、遠方で戦う仲間へ念話を送った。


『カルラ。そっちに魔王の息子が向かったわ。早急に撤退してちょうだい。私もすぐに合流するから』

『了解しました。姫』


 魔族の猛攻を初めて退けることに成功したエルフ軍。彼らの陣地では勝鬨の声が上がっていた。


 どの種族が対抗しても、一度たりとも侵攻を阻止できなかった魔族軍を撃退した。その事実が、エルフ達の喜びを更に際立たせている。


 絶望と不安の中でエルフ達が手にした大金星。これが反撃の狼煙になると信じて、彼らは今一度大きな声を上げた。


 天高くまで響き渡る喝さいの声と共に、今日という日は幕を閉じた。









「糞がッ!」


 後衛の拠点まで出戻る羽目になったヴェイルは機嫌を損ねていた。


 自室に戻ったヴェイルは特大のベッドに勢いよく飛び込み大の字で寝転がった。


 これまで負けのない人生を送ってきたヴェイルが初めて味わった敗北。そのショックはヴェイルが想像していた以上に大きいものだった。


「……はぁ」


 ため息をついたヴェイルは枕元のデスクにあった『物体』に手を伸ばした。


 一見丸形の兜のように見えるが、用途は身を守るために使用するものではない。


 その『物体』は今、世界規模で普及している娯楽製品なのだ。


 かつて別の世界からやってきたと言われる『異世界人』が残した知識をこの世界の魔法技術で再現したもので、名前を『ダイブギア』という。


 ダイブギアで頭部をすっぽりと覆ったヴェイルは目をつむり、つぶやいた。


「ドウキ・カイシ」


 キーワードを唱えたヴェイル。彼の意識は徐々に現実から切り離され、仮想世界へと潜っていった。


「……ん」


 ヴェイルはゆっくりと目を開いた。


 そこは既に彼の薄暗い自室ではない。誰もが平等で、誰もが自由に生きることのできる場所。緑と光の溢れる煌びやかな学び舎。


 その名も『ベツセカイ学園』。


「ここに来るのも久しぶりだな」


 ヴェイルは以前からこの世界に頻繁に出入りしていた。


 魔王の息子という肩書。周囲の期待と畏怖の念。現実での生活に嫌気がさしてたヴェイルは仮想世界で自由を謳歌していたのだ。


 『アヴァタ』と呼ばれる仮想世界での姿と、『ネイム』と呼ばれる仮想世界での名前。


 皆が『ヒューマン』と呼ばれる種族で統一され、現実世界のように見た目で差別されることもない。


 この世界にいる間は、現実のしがらみをすべて忘れることができる。


 殺伐とした現実世界を生きる誰もが一度は思い描いた理想。『自由』と『平和』が、この世界には当たり前のように存在しているのだ。


(さて、あいつはいるかな……?)


 最初は自由を謳歌するつもりで来ていた仮想世界。


 だが、今のヴェイルにはこの世界を訪れる理由がもう一つある。


「……いた!」


 ヴェイルの視線の先には一人の少女がいた。


 学園の中庭にある白いベンチに腰掛け、読書にふける黒髪の少女。


「チカ!」

「え、リョウタ?」


 チカと呼ばれた少女はパタンと本を閉じヴェイル、もといリョウタに笑顔を向けた。


「久しぶりね。元気だった?」

「ああ。チカは元気だったか?もしかして、俺に会えなくて寂しかった?」

「もう!久しぶりに会ったのに、なんでそういうこと言うかな」


 リョウタの冗談に顔を赤らめ、はにかむチカ。彼女の表情を見たリョウタの胸は高鳴った。


 リョウタがこの世界を訪れるもう一つの理由。それがこの少女、チカである。


 リョウタは今、チカと恋仲にあるのだ。


「ごめん。最近現実の方が忙しくてさ」

「ううん。私も最近ずっとこっちに来てなかったから」


 リョウタがチカと出会ったのは、仮想世界に来てからすぐのことだった。


 リョウタは周囲のヒューマンが気軽に声をかけてくれることがうれしくて、誰彼構わず声をかけていた。そんな時、中庭で白いベンチに座るチカを見かけた。


「ねえ!君は何をしてるの!?」

「えっ!?え、えっと、本を読んでるの」


 その会話をきっかけに、二人の仲は急速に発展した。


 お互いに似たような境遇の中育ったらしく、同じ悩みを抱える仲間として二人はすぐに打ち解けた。


 夜な夜な仮想世界に潜っては今日あった出来事に対する愚痴を言い合い、時には悩みを聞いたり、逆に悩みを聞いてもらったり、慰めたり、慰められたリと、互いが互いを支えあうようにして生きてきた。


 月日が立つにつれ、二人の距離はぐんぐん縮まっていく。二人がお互いを異性として意識するようになるのは当然の結果だった。


「物騒な毎日が続いているから、なかなか時間を作れなくって」

「ッ……そうだね」


 チカとの会話の最中、リョウタは罪悪感を覚えていた。


 チカの言う物騒な毎日を引き起こしている張本人がリョウタ自身だからだ。


 争いに巻き込まれないよう他の国へと非難するというのはよく耳にする話だった。


 避難の準備が忙しくて時間が取れなかったのかもしれない。チカの「最近こっちに来ていなかった」という言葉から、リョウタはチカの近況を推測していた。


(チカも俺のせいで祖国を離れることになってしまったのだろうか……)


 リョウタは内心を表に出さないよう努めていた。


 リョウタは笑顔を浮かべ、チカとの掛け合いに応じる。チカはリョウタの微妙な変化に気付いていたが、あえてそのことに触れなかった。


 長年の付き合いから、それが触れてほしくない事だとわかっていたからだ。


「そういえば、南の大陸で新しい古代遺跡が見つかったって話聞いた?」

「……ああ。その話なら俺も聞いたよ」


 リョウタはチカの急な話題提供に感謝した。


 チカの気遣いを無駄にしないよう、リョウタは会話を弾ませることに専念した。


 久しぶりの再会だったためか、二人の会話は大いに弾んだ。


 自分の周りで起こった出来事、自分の国の情勢、世界のどこかで起こった珍事、様々な話題で言葉を交わす。


 数十分後、二人の話題は思い出話へと移っていた。


「あはははっ!そうそう、あの時リョウタが変な勘違いしたせいで余計に話がこじれたのよね」

「思い出させるなよ……今でも恥ずかしいんだからさぁ」

「ふふっ。でも私、うれしかったよ。リョウタが必死になってくれて」

「そりゃ……まあ……必死にもなるだろ」


 お互いに顔を赤らめながら、その出来事を振り返る。二人が恋仲になるきっかけとなった出来事を。


 事の発端は上級生の『コウイチ』がチカに恋愛相談を持ち掛けたことから始まった。


 コウイチの恋する相手がたまたまチカの知り合いだったのだ。


 コウイチはどうすれば意中の相手が振り向いてくれるのか、アプローチの方法をチカに相談していた。


 こそこそと密会を繰り返す二人。それは部外者から見れば、二人が親しい関係にあると勘違いしてしまうような行動だった。


 当時チカに自分の思いを伝えていないリョウタは嫉妬と焦りに駆られ行動を起こした。


 二人の密会現場に突撃したリョウタはコウイチとチカの間に割って入り、思わずこう口走ってしまった。


「俺の女に手ェ出してんじゃねえ!」


 その後、チカの弁明によって誤解はすぐに解かれることになる。だが、今度はチカが暴走した。


 リョウタの叫びを聞いてしまったチカは言葉の真意をしつこく追及。


 半ばやけくそになったリョウタが思いを告げ、チカがそれに答えることで、二人は晴れて恋仲となったのだった。


「あの頃はさ。ずーっと楽しい毎日が続くんだって思ってた」

「そう……だね。私も同じことを思ってた」

「現実の世界でも会ってさ、本物のチカと今みたいに楽しく話をしたり」

「本物って、ここにいる私も本物だよ?」

「そうじゃなくって、その、現実世界にいるチカと実際に会って、話とかしてみたいんだよ」

「ふふっ、わかってる。私も同じこと考えてたから」


 現実の世界で顔を合わせ、言葉を交わし、絆を深めたい。


 リョウタもチカも、考えていることは同じだった。


 この学園で出会った異性が、現実の世界で結ばれたという話を何度も耳にしている。


(俺もいつか……)


 自分も彼らと同じ結末に至りたい。リョウタはチカと結ばれる未来を夢想する。


 だが、その結末にたどり着く可能性は限りなく低い。


 リョウタは魔族だ。世界の平和を脅かす存在であり、リョウタ自身もその手で多くの命を奪ってきた。


 『夢』のためとはいえ戦争の片棒を担いでいる事に変わりはない。


 自分にチカの隣に立つ資格はあるのか。魔王の息子である自分を、チカは受け入れてくれるのか。


(もしチカに拒絶されたら俺は……)


 リョウタはそこから先を見る勇気はなかった。


 思考を振り払い、目の前にいる少女へと集中するリョウタ。二人の視線がぶつかる。


 リョウタの目つきがいつもの自信に満ちたときのものと異なっている。表情の小さな変化から、チカはリョウタの不安を見抜いた。同時に、リョウタが何に対し不安を抱いているかも理解した。


 チカもまた、リョウタと同じ不安を抱いていたからだ。


 言葉がないまま見つめあうこと数分、一度視線を落としたチカが、意を決したように口を開いた。


「あのね!あの……私、会いに行くから!」

「えっ?」

「お互い面倒な立場にいて、外に出るのも一苦労だけど……」

「あ、ああ」

「でも、でもね。私、リョウタに会いたい!」

「ッ!」


 たどたどしい言葉で思いを告げるチカ。だが、その声色には彼女の意志の固さを示す力強さがあった。


 そう言われてしまえば、リョウタはもう拒否できない。


 もしかしたらひどい言葉を浴びせられるかもしれない。拒絶されてしまうかもしれない。二度と会えなくなるかもしれない。それでも、リョウタは前に進もうと決めた。


 ありのままの自分を見せて、後の判断は彼女に委ねよう。腹をくくったリョウタは、押し込めていた言葉を全て吐き出した。


「わかった。俺も会いに行くよ。いつか争いが終わって平和になったら、必ずチカの所へ行く。約束だ」

「ッ!!……うん……約束。約束だよ!」


 張り詰めた表情から一変、笑顔の花を咲かせたチカはリョウタに抱きついた。リョウタもまたチカを抱きしめた。


 互いの体温を、匂いを、存在を感じ取る。


 ほどなくして、二人はどちらからともなく離れた。


「そろそろ時間だから。私、行くね」

「ああ。またここで会おう」

「うん。おやすみ、リョウタ」

「おやすみ、チカ」


 チカの姿は青い粒子となって消え去った。現実世界へと戻ったのだ。


 青い粒子がふわふわと宙を舞い、空の青へと溶けていく。一人残されたリョウタは青い粒子を目で追い、そのまま空を見上げた。


「……戦争なんて糞食らえだ」


 誰にも言えない本音をこぼした後、リョウタは仮想世界から姿を消した。









 数日後、後衛拠点にて体勢を立て直していた魔族軍の前にエルフ軍が現れた。


(俺らを撃退したことで調子づいたのか?なめやがって!)


 ヴェイルの視界には太陽に照らされ鈍ぶ輝く白金色の鎧が映っていた。


 エルフ軍の象徴であり、ヴェイルが今最も怒りを燃やしている相手。


 エルフ軍の長、クリアだ。


「行くぞテメエら!あの調子づいた連中を今度こそ八つ裂きにしてやれ!」


 ヴェイルを筆頭に、拠点の中から続々と魔族軍の兵士達が飛び出してくる。


 エルフ軍はすぐさま臨戦態勢に入った。それぞれ武器を構え、クリアの合図と共に一斉に動き出した。


 クリアはエルフ軍を置き去りにし前へ出た。魔族軍の先頭にはヴェイルがいる。彼と対抗できる彼女が先頭を行くのは当然のことだった。


 クリアは大鉾を構えた。呼応するようにヴェイルも大剣を抜く。


 加速の勢いを乗せて、両者は武器を振るった。


「よォ!会いたかったぜェ!!」

「それはこっちの台詞よ!」


 斬る、躱す、衝く、防ぐ、唱える、放つ。両者一歩も引かないせめぎあいが続く。


 リベンジに燃えるヴェイルはいつも以上に攻め手を増やしていた。目の前にいる少女を仕留めるために、自身の持つ最大限の力を用いて戦ってた。


 もし、ヴェイルがいつもの通りであれば、この時気付くことができただろう。


 クリアにばかり意識を向けていなければ、最悪の事態に陥る前に対処できたかもしれない。


 そう、ヴェイルは気づけなかったのだ。周囲の景色が微妙に変化している事に。魔法によって隠蔽された空間がある事に。


「なんだッ!?」


 ヴェイルが現実へと引き戻したのは、エルフ軍から打ち上げられた大きな閃光魔法だった。


 クリアは笑みを浮かべると同時に、ヴェイルの大剣を大鉾で抑えた。


「さあ、いよいよ終わりが近づいてきたわよ」


 ヴェイルはクリアの言葉に顔をしかめる。


 勝手に決めつけるな。ヴェイルがそう口にしようとした、その時だ。戦況が大きく動いた。


「うおおおおおおお!」

「今こそ魔族を根絶やしにする時だー!」


 隠蔽されていた空間から、第三の軍勢が飛び出してきたのだ。


 全ては作戦だったのである。エルフ軍は魔族軍の油断を誘うための囮。本命は高度な隠蔽魔法を纏い山中に潜んでいた『ビースト軍』と『ドワーフ軍』だったのだ。


 勢いづいたエルフ軍が愚直に攻め込んできたと思わせ、対抗しようと飛び出してきた魔族軍を左右から奇襲する作戦だったのである。


『右側面からビーストが接近中!』

『左からも獣人共が来てるぞ!』

『畜生!こいつらいがみ合ってたんじゃねえのかよ!?』


 互いに隣接するエルフ、ドワーフ、ビーストの国々。彼らは長年にわたって争い続けていた。領土問題や種族問題は特に根が深く、その因縁は数百年にも及んでいる。


 だからこそ、この連合軍は魔族軍にとって想定外のものだった。いがみ合っていた者同士が結託するなど思いもしなかった。


「くそっ、なんだこいつら!攻撃が通じねぇ……ぐあッ!?」

「畜生!汚ぇ真似ッぎゃああああ!」

「あいつら、魔法を弾いてるぞ!?」


 生産業においては他の追随を許さないが、それ以外の能力は並みのドワーフ族。


 魔法という力を操る能力を持っているが、身体能力が低いうえに魔法の発動までに時間がかかるという弱点を抱えていたエルフ族。


 身体能力だけなら魔族にも引けを取らないが、魔法への対抗手段をもっていなかったビースト族。


 この同盟は、それぞれの弱みをカバーしあう完璧な布陣だった。


 ドワーフが鍛えた最上級の装備に、エルフの魔力を宿らせる魔法『エンチャント』が施され、それらを身に纏ったビースト達が先陣を切る。


 互いが互いを高めあい、その力はついに魔族軍へと届いたのである。


「チッ、雑魚共が狡い真似しやがって!」


 戦況を把握したヴェイルはすぐさま動いた。


 だが、ヴェイルの行く先にクリアが立ちはだかる。


「行かせないわよ」

「……ハッ、俺に勝てねえからってこんな真似すんのか。エルフにはプライドってもんがねえのか?」

「安い挑発ね。それとも本気で言ってるのかしら?」


 クリアはヴェイルの行く手をことごとく阻む。


 ヴェイルは我武者羅に大剣を振るうが、どれもいなされ無力化された。


『ヴェイル様!もうこれ以上は無理です!我が軍は壊め……』

『助けてくれよリーダー!助けてぇえええー!』

『もうおふざけしてる場合じゃねえだろ!早く本気出してこいつ等片付けてくれよぉ!』


 念話を通じてヴェイルの頭に響き渡る阿鼻叫喚。


 共に戦ってきた仲間が、同じ釜の飯を食った同士が、今この瞬間に命を散らしている。その事実がヴェイルから冷静さを徐々に奪っていった。


「クッソがぁあああああー!どきやがれぇえええー!」


 上段から大振りの一撃を放つヴェイル。それは、普段の彼ならば決してあり得ない隙だらけの一撃だった。


「もらったっ!!」


 クリアは特大の隙に向けて必殺の一撃を放った。ヴェイルの胸板から下腹にまで及ぶ大鉾の巨大な刃は、ヴェイルをいともたやすく貫いた。


「ふんっ!」


 クリアは大鉾を容赦なく引き抜く。同時に、ヴェイルの傷口から鮮血が飛び散った。


 ヴェイルは想像を絶する痛みに思わず両膝をついた。


「ゲほッ!!がハッ!?」


 既にヴェイルの足元には血の池が広がっている。


 碌に呼吸もできず、ヴェイルは息の代わりに鮮血を吐き出す。


 ヴェイルは最後の力を振り絞って回復魔法を行使するが、それも焼け石に水だ。傷口からは未だとめどなく血が溢れてきている。


 そんな彼の様子を、クリアは静かに見ていた。


「終わりよ」


 ヴェイルの霞んだ視界に大鉾を振り上げたクリアの姿が映る。次の瞬間、ヴェイルの過去が走馬灯のように走った。


 魔王の息子として英才教育を施される日々。


 誰もが恐れおののき、いつも一人で過ごしてきた毎日。


 毎回格下を相手に手加減しながら行われる訓練。


 何をしてもつまらない。夢のない日常。いつも景色は灰色で、これが自分の世界なんだとあきらめかけていた。


 そんな時に、あの少女と出会った。


 あの少女のおかげで自分は変われた。他者との関わりを持てるようになった。相手の気持ちを汲み取れるようになった。夢を持てた。世界が色づいた。


 そして、その少女と約束した。



 わかった。俺も会いに行くよ。いつか争いが終わって平和になったら、必ずチカの所へ行く。約束だ。


 うん……約束。約束だよ!



 脳裏にはっきりと浮かんだ少女の笑顔を前に、ヴェイルもまた笑みをこぼした。


「悪ぃチカ……約束……守れねえや」


 謝罪の言葉を口にしたヴェイルは静かに目を閉じ、終わりの時を待った。


「…………?」


 しかし、終わりの時はいつまでたってもやってこない。


 疑問に思ったヴェイルは再び目を開いた。


 ヴェイルの前にはクリアがいた。だが、先ほどと違う点が二つある。


 一つは彼女が振り上げた武器を下している事。そしてもう一つは……。


「な、なんでその名前……待って、なんでアンタが……えっ、なんで……」


 大量の血を垂れ流すヴェイルを前にしても表情を崩さなかったクリアが、その顔を驚愕に染めていた。


「なんでアンタが……その名前、いえ、約束って……」


 よろよろと数歩後ずさったクリアは、声を震わせながら言った。


「私はッ……リョウタ以外の奴と約束なんて……」

「ッ!!?」


 今度はヴェイルが驚愕する番だった。


 その名前は自分のもう一つの名前であり、現実の世界では誰一人として教えていない名前だからだ。


 そして、あの世界で約束を交わした相手はただ一人。ヴェイルを孤独から救ってくれたあの少女だけ。


 しかし、ヴェイルの目の前にいる相手は、まるでその約束の事を知っているかのように振る舞っている。


 誰にも教えていない秘密の約束事を、第三者に急に暴露され困惑している。そんな様子だ。


「……ま、まさか」


 認めたくない。しかし、ヴェイルの直感がそれは事実だと告げていた。


 クリアもヴェイルと同じ気持ちだったのだろう。まるでこの世の終わりだと言わんばかりの表情でヴェイルを見ていた。


「お前……チカなのか?」

「リョウタ……なの?」


 約束通り、二人は現実の世界で出会った。

 宿敵という最悪の形で。

本編に書かれてない設定(適当)


・現実世界に人間は存在しない。


・主人公のダイブギアはお父さん(魔王)の部下が略奪してきたものをもらった。


・侵略行為はお父さん(魔王)の方針。主人公は下剋上を狙っている。


・主人公の夢は魔族の古い考え(力こそ全て!)を捨てて魔族を優しい種族にする事。


・ベツセカイ学園は1学年1000名×4年の合計4000人を収容できる。現時点で既に10の分校が存在している。


・エルフ、ドワーフ、ビースト(獣人)をまとめ上げたはヒロイン。

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