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想い出ケシゴム

作者: さなぎ

 三月五日、〇〇と遊びに行く。互いのコーディネートをし合った。私は春物のセーター、〇〇はワンピース。試着して、似合ってる? って聞いたら、満点の笑みで、もちろん、と返してきた。嬉しさと気恥ずしさで顔が赤くなった。ランチにパスタを食べて、充実した一日だった。


 これは楽しい思い出。


 四月三日、〇〇と喧嘩してしまった。発端は、くだらないことだ。確か、私が約束をドタキャンしたんだ。何度も謝ったけど許してくれなくて、昔のことを持ちだしたら怒られて……。その日は仲直りできずに終わってしまった。


 これは悲しい思い出。


 久しぶりに開けてみた日記帳には、昔の思い出と、想いがたくさん詰まっていた。日記帳は途中で終わっていて、それは〇〇との関係が終わった日と同じだった。昔の出来事が、懐かしく思える。もう四年も前の話だなんて、驚きだ。


 日記の最後の日から、私はそこそこの大学に行って、そこそこの会社に就職して、順当な人生を歩んでいた。


 〇〇なんて、すっかり記憶の片隅に追いやっていた。もう名前を聞いても、顔を朧げにしか思い出せない。だから、あの時のことが克明に書かれている日記帳が、とても新鮮なものに思える。


 楽しかった思い出ほど想い出せなくて、悲しい思い出ほど案外きちんと覚えていた。記憶というのは、不思議だ。


 きっと頭のなかにはケシゴムがあって、所構わず消していってしまうんだろう。楽しい思い出も悲しい思い出も一緒くたにされて、消されて、忘れていく。想いも一緒に、消えていく。消してほしくないものも、想い出ケシゴムは消していってしまう。


 忘れたくない想いを留めておくために、人は何かに思い出を書くんだろう。それこそ、昔の私がしたように。昔の想いに溺れながら、思い出していくために。


 昔の日記を読みきり、弾かれたように私は思い立った。長らくしていなかったけど、また日記を書こう、と。そう思ったのは、昔の自分に感化されたからだ。良い思い出も、嫌な思い出も、頭の中のケシゴムに消されないよう、書き留めよう。


 そしたらまた、昔のように輝いている日々が、想いが還って来るような、そんな気がした。

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