04
「おっす、ユートにミリア」
「もっす」
パンを口一杯に頬張っていたせいでサイラスに挨拶し返したが、変な感じになってしまった。
隣を見ればミリアがこちらを見ていたが、その表情はあまり良い感じではない。
「ユート」
ミリアのお咎めに俺は慌てて、口の中のものを飲み込んだ。
慌てて飲み込んだせいで胸あたりが少し苦しくなったので、ジュースを一口飲んで一息ついた。
そんな俺に対して、サイラスはテーブルごしに体をのりあげそうな勢いでこちらに、紙を突き出してきた。
「それでよ、この依頼見てくれよ!」
「えっと、カーリックの駆除か…カーリックってどういう魔物なんだ?」
サイラスから紙を受け取り、その内容を確かめる。
その内容はカーリックという魔物の駆除の依頼だった。
「詳しくは俺も知らないんだけどよ。
昨日話した冒険者の先輩が、この時期ならカーリックって魔物が居すぎるほど多くて畑とか荒らしまくるから、その駆除のために良い感じの報酬の出る依頼が貼られるって教えてもらったんだよ!
今はいい感じの依頼もないし、とりあえずそれで繋ごうと思ってな!」
「へー」
俺はカーリックという名前の魔物は初めて聞いた。
俺はこのカーリックという魔物がどういった魔物なのか分からないが、こういう駆除の依頼というのは時々存在する。
それらは季節によって発生する事が多い。というのは繁殖期などが関係しているのだが特に虫系の魔物に多いだろう。そして駆除の依頼を出すのは虫の魔物が大量発生して困る農民だ。今回のカーリックろいう魔物も農民が依頼を出しているみたいだ。
あとはオークなどの魔物は数を増やすと積極的に人を襲うようになるので、そうならないように駆除の依頼が出されることもある。
しかしオークの場合、稀なことだが大群になると冒険者だけではなく国の兵士が動くこともあるらしい。
これはあくまで本当に稀な話で、歴史に残るようなオークの駆除ではオークが千にも近い数と冒険者と国の兵士の混合部隊がぶつかり合った事があったはずだ。
普段のオークなら頭も使わず、量は多いが上手くやれば簡単に処理もできるのだろう。しかし、その時は何千というオークを一つとして操る特別な存在がいたせいで人間側にもそれなりの被害が出た。
俺の曽祖父が子供だった頃に近くの国であったはずだ。
「カーリックね」
「俺知らない魔物なんだけど、どんな魔物なんだ?」
「俺も先輩に少し聞いた程度だから、説明してくれると助かるな」
「一応知ってはいるけど私だって、それほど詳しいわけじゃないけど…いいの?」
「知ってる事だけでいいから宜しく」
カーリックという魔物は豚鼻で犬の顔を持つ、そして鶏の体を持ち二足歩行で歩くが羽があるわけではなく代わりに小さな前足がある。
豚鼻を使い匂いで餌を探し短い前足を使い持ちながら餌を食べ、その耳は周りの音を聞き逃す事なく何かが近寄れば、2本の後ろ足を使い素早く逃げる事ができる。警戒心も強く、一人前の冒険者でも気づかれることなく近づくことは困難らしい。
ただし、こいつに攻撃する能力はない。
警戒心が強く逃げ足も早いが、まともに物事を考えられるような頭を持っていないので駆除が難しい魔物ではない。
元々こいつが生まれたきっかけは、どこかの魔術師が偵察用の魔物を制作する実験の過程として創りだしたのがアホをして逃げ出し、それが野生で増殖していった結果、魔物として知られることになったらしい。
その偵察用の魔物はカーリックが逃げ出した事を理由に停止させられたが、カーリックの頭の悪さを考えると結局失敗したのではないかと言われている。
「ふむ…今回は罠重視って感じかな。
まあ、罠と言っても簡単なものでいいんだろうけど」
「だな」
「ありがと、ミリア」
「どういたしまして、と言っても私も全部覚えてるわけじゃないし改めて調べたほうがいいと思うけど」
まあ、結局は図書館でカーリックという魔物の生息エリアなどを調べる際にカーリック自体の事も知ることも出来る。
だが…。
「そういえば、俺がこいつについて聞いた時に先輩が蜂蜜使うと良いって言ってたぜ。
なんでも甘い匂いで寄って来やすくなるってよ」
時々ではあるが本に載っていない事も人から聞けるので、こういう風に知り合いや冒険者の先輩などに聞くことは大切だ。
こういう情報があるだけで難易度が大きく変わる。
これはこういった駆除の依頼だけではなく、討伐にダンジョン…など様々なものに当てはまる。
「じゃあ、さっそくカーリックとその他もろもろについて調べるか」
「お、じゃ次の依頼はコレでいいんだな?」
「ああ、それやろう。サイラスが見てきて決めたんだし、無謀な依頼じゃなければ否定はしないよ」
「じゃあ、おっちゃんにこの依頼とっておく様に言っとくから、先に図書館に行っててくれよ!
少し遅れるかもだけど」
サイラスはそう言うと、すぐに受け付けのおじさん…つまりミリアの父親の方へとかけて行った。
「ミリアはどうする?」
「私は…せっかくだし手伝おうかな。
多い書物の中からカーリックについて載ってるものを探すってだけでも結構勉強になるのよね」
「じゃあ宜しく」
─ ─
ミハイト国立第二図書館。
まあ、大量の本が保管されていてそれが無料で読める凄い所…それが俺の中での図書館へのイメージだ。
だが、どんな人間でも入れて本を読めるわけではない。
冒険者ギルドならランクE以上、などと言った条件付きで職業に属しており、その職業に属している事を証明できるものを持参していかなければ図書館に入ることはできない。
これは本を管理する上で、誰が図書館に来たかなどの管理するための処置である。
本は高価なものだ。それらを盗むような輩もいるので、それ対策と考えていいだろう。
まあ、文字の読み書きが出来る人も多いわけでもないので図書館を利用できる人も限られる。俺とサイラスはまだ雑用の頃に学ぶ機会があったので簡単なものなら読めるし、シリウスは魔術師なので文字の読み書きなど朝飯前…というか出来なければ魔術師にはなれないのだが。
とりあえず俺はミリアが探してきてくれた本を読んで、地形程度しか分からない安い地図にマークをつけていく。
「あとこれ、周辺に生息している魔物リスト」
「ありがと」
俺の目の前にまた新しく本が追加された。
先輩の冒険者にもなると魔物の生息地なども覚えている人もいるのだが、俺達はここいらに移ってきてまだ二年だし、先輩冒険者でも全てを覚えているわけではない。
なので、図書館を利用する冒険者は多い。
「そういえば、このカーリックの駆除依頼のある森の近くので大規模な討伐の依頼があるみたい。
ユート達は明日までは休みだろうから明後日に依頼に出発するつもりでしょ。多分被るはずだわ」
「大規模ってどのくらい?」
「オーガとか強力な魔物が多く現れるようになっちゃったから、Cランク以上の冒険者が20人近く集まったみたいよ。
このままにしておくと近くの村にも被害出てくるレベルなんだって。
確か、最低でもC以上の魔物15匹、Bランク以上の魔物20匹の討伐が目的みたい…あ、そういえばガイルさんも参加するらしいわね」
「へぇ、ガイルさんも参加するのか、めずらしいな。
オーガってBランクの魔物じゃん」
この前相手したトロルよりは小さいが比べるのがトロルに申し訳なくなるほど強い力を持つ人に近い形をした魔物。そして鈍らの刃じゃ通らないような皮膚を持つ。
刃が通っても持ち前のタフさで倒すまでいくには相当苦労するだろう。
Bランクという事もあり、多分俺達じゃまだ倒せない…というか逃げれるかも怪しい。
「オーガ以外にもいろいろ、基本的に危険度がCかBランクに属するような奴ばっかだよ。
オーガスも居たはずだし、後はキメラとか…まあ、全部覚えてるわけじゃないんだけど」
「はー…一匹相手するだけで寿命縮まりそうなのばっか」
確かオーガスとキメラはCランクのはずだ。
そんな事を話している間にも、本に載ってる内容を分かる程度に簡単にメモったり、地図に付け足していく。
「あー、そのオーガとかの生息地エリアギリギリふぁね」
「ん?」
俺が少し反応するとミリアは恥ずかしそうに、そっぽを向いた。
「…ちょっと噛んだだけ。
オーガとかの生息地の範囲から少し出ただけでユート達の依頼の場所になっちゃうから気をつけた方がいいかもね。
もしも予想外の事が起きたら大変だし」
「そうだな。
サイラスとシリウスにも言っておかないと」
ミリアに教えられた討伐依頼について新しくメモを加えておく。
一応、その討伐の依頼で駆除されるであろう強力な魔物を名前もメモっておく。簡単な生態まで書いておけば、いざという時の対策になるだろうか。
対策になると言っても、本当にいざという時には意味は無いんだが…とりあえず調べておいて損はしないだろう。
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