聖剣が抜けない
聖剣皇国の中心である聖剣皇城の地下では聖剣が勇者を待っている。
魔王が現れた今日この頃、我こそは勇者だという人達が次々と皇城を訪れているが、未だ聖剣は突き刺さったままだった。皇子が中心となって勇者召喚の儀を執り行っているようだが、そんな眉唾物に期待はできない。
このままでは魔王の手によって人類は滅ぼされてしまうだろう。
「君、油を持ってきてくれ」
そもそも聖剣がなぜ抜けないのかというと、皇城の地下の岩盤に突き刺さっているからだ。油を注してやれば滑りが良くなるんじゃないだろうか。
邪道? 抜ければよかろうなのだ。
というわけで私の助手のピーター君にお使いを任せたのだ。
俗に言うパシリだ。
頭がペーパーなピーター君にできるのか実に心配である。
結局、ペーパーもとい、ピーター君はしっかりとサラダ油を持ってきてくれた。微妙に健康に良さそうなメーカーのサラダ油だったが、余計なお世話だ。
さっそくサラダ油を注してやる。抜けた聖剣が油っぽくなっているだろうことは私の責任ではない。
「君、抜いてみてくれ」
私の従順な人形と化し……てはいないピーター君は、言われるがままに聖剣を引っ張っているが抜ける気配はしない。
もしも抜けたらピーター君に魔王を討伐させよう、ではなくて討伐させてあげようと思っていたのだが残念だ。
やはり、そう簡単にはいかないのか。
だとしたら次の手としては、聖剣を冷やしてみるとかだろうか。基本的に温度が下がれば体積も縮むだろう。抜ける気がしないでもない。
「君、液体窒素を持ってきてくれ」
ずっと聖剣を引っ張り続けて顔が赤くなっているピーター君に任せるのは不安だが、パシリとしてのプライドもあるだろうから仕方ないのだ。
液体窒素用の容器をちゃんと借りてくるかどうか非常に怪しい。
ピーター君が液体窒素を持ってきてくれる間にまた一つ町が滅んだようだが、液体窒素は無事に届いた。
さっそく液体窒素を聖剣にかけてやると、辺りが涼しくなった。気持ちいい。
「君、抜いてみてくれ」
聖剣はピーター君に任せて私は残った液体窒素に金魚をつけて遊んでいた。
ピーター君ならできると信じていたが(笑)、残念ながらピーター君の手が低温火傷しただけだった。
実に残念だ。
やはり聖剣を抜くことは無理なのか。
だが、諦めるわけにはいかない。私達が聖剣を抜けるかに人類の命運がかかっているのだから。
勇者でなければ抜けない剣……か。
抜かなくてもいいのではないか。つまり聖剣を掘り出せば使えるではないかということだ。
人類はまだ助かるかもしれない。
やってやろうじゃないか。
「君、聖剣を掘り出してくれ」
人類の命運はパシリことピーター君に委ねられた。
ピーター君はさっそく地面を掘り始めたが、まだ時間がかかりそうだ。私は休ませてもらうことにする。
最近流行りの魔王城3泊4日3食付きツアーを満喫して帰ってくる頃には聖剣の回りに底の見えない穴が作られていた。
ピーター君曰く、どれだけ掘っても聖剣の鉛直上は掘れなかったらしい。
骨折り損のなんとやらだろうか。
やはり――聖剣は勇者にしか抜けない――のだ。
絶望の感に埋もれそうになる私だったが、しかし私の瞳は希望を捉えた。
聖剣は勇者にしか抜けない、しかし勇者になら抜けるではないか。
ここ最近たくましい成長を見せたスーパーペーパーピーター君なら勇者になれるはずだ。
そして、勇者になるためには――
「君、魔王を倒してきてくれ」
私から100ゴールドを受け取ったピーター君。パシリもとい、勇者になるために魔王を倒しに向かった。