三話
冒険者ギルド
少年時代から騎士団しか知らなかった彼はよく言えば真面目であり、悪く言えば世間知らずであった。
騎士団を辞めた後も、これからは自分の力量次第で給料も休みも自由に取れる。そんな風に思っていた。
とりあえず、新しいギルドに入らなければならない。
騎士団を脱退するものは結構多い、なにせ、もともとが危険な仕事であり、給料もそこまで高くはない。幹部になればそれなりにもらえるが貴族の子弟の特等席だ。
ある程度の経験と技術を習得し、事務方の資格もとれればさっさと抜けて傭兵ギルドや商人ギルドに転職するのがほとんどである。
転職者の中には料理ギルドで店を出したり、鍛冶ギルドで武器を作ったりするなど元騎士団というのはつぶしがきくことでも人気なのだ。
青年は騎士団に所属している間に一通りの技能は全て修めていた。
さて、騎士団を辞めた彼だが真っ先に思いついたのは冒険者ギルドであった。
古い遺跡や貴重なお宝なんてロマンがある!
祖父の館で育った彼は所蔵してあった書物のなかにある冒険譚が大好きであった。
その日のうちに冒険者ギルドの門を叩き、新規の申し込みをするのであった。
冒険者ギルドとは危険地帯を探索し、薬草・生物・貴金属・地理などを探索し報告するギルドである。
一般人が入手し難いものほど、その価値は高く一発当てれば大儲けができる人気の職業だ。
個人で活動することもできるが、パーティを組むことで安全性や成功率を高め、ランクを上げる事によって指名されるようになれば、貴族専属のお抱え冒険者となることも夢ではない。
そう、夢ではなかったのだ・・・あの頃までは
青年が意気揚々と入った冒険者ギルドの建物はがらんどうとしており、活気がまったく感じられない。他に冒険者の姿も見えず。薄暗く、静かなホールを一人進み、受付に新規の登録を願い出る。
「新規登録?まぁ、別にいいけど新人に回せるような依頼なんてないよ」と受付の女性職員はあっさりと言う。
どういうことか聞いてみるとこの付近一帯には危険地帯は調査しつくされ、騎士団の巡回もあり、平和そのもの。常時依頼である薬草採取やモンスターの間引きなども冒険者同士で協定を結んでおり、根絶やしにしないように乱獲をしないようにと細かい法律が定められているとのことである。
「して欲しい依頼がないわけでもないんだけどね、結局実績と信用がものを言う業界だからねぇ」そう意味ありげに視線を向け、「よその国と違ってうちの国は『正義と法の神様』がおられるでしょう?」
だから、関係各位にいろいろと手続きが必要なんだといわれる。
だが、青年の意味がわかっていない様子を見てため息をひとつ、「ときどきいるんだよねぇあんたみたいなのが・・・」
とりあえず新規登録を済ませ、晴れて冒険者となった彼だが肝心の依頼の受け方がわからない。他の新規登録者はどうやっているのか聞いてみると、ややあきらめ顔の職員が丁寧に教えてくれる。
「基本的には他のパーティのひとと一緒にやって、仕事は覚えていくものだね、冒険者登録はしなくても、下働きや荷物運びなんかをやってる若い奴はいるよ、逆に登録してしまうと賞罰がついてしまうからねぇ色々と動きにくくなってしまうからさ」
色々ってなにと聞くと、そんなのギルドの職員が答えられるはずがないという答え。
察しろということなのだろう。
「まあ、せっかく登録してくれたんだ、本来ならこっちの領分の仕事なんだけどしょうがないからまわしてやるよ」
そういって女性職員は分厚い冊子の中から一枚取り出す。
「これは顧客情報っていってね、依頼人の情報が詰まってる。本来なら部外者に漏らすような真似はできない。あんたはもうギルドの一員だからある程度は教えてもいいけど扱いとしては臨時雇いみたいなもんだから詳しい事は教えられない。」
女性職員によると、冒険者ギルドには持ち込まれる依頼だけでは登録者との調整がうまく行かない場合もあり、仕事にあぶれてしまう者もでてくる場合はこちらから持ちかけることもある。
依頼人と冒険者をうまく調整するのがギルドの仕事というわけである。
「名目上は冒険者ギルドからの依頼にしとくよ、そこに書かれている場所に行って依頼を取ってくるんだ、それで得た報酬はあんたのものになるってワケ」
依頼が自分でやれそうだと思えば受ければいいし、無理なら断ってもいいとのこと。
「ま、ある意味お互いの相互理解みたいなもんだと思えばいいよ、冒険者に夢見てるやつは大体あきらめるし、現実見れば給料が低すぎてやってられないと思うさ」
青年は顧客情報に目を落とす・・・載っていた場所は王都のはずれにある水路引き込み口の管理棟であった。
簡略にしてます。あまり凝りすぎても進まないので。