二話
設定回です。
大陸の列強5国において、三番目の国力と歴史を持つ国、ラインフォール王国。
大陸の中心に位置し、農業が盛んであり、強力な騎士団を擁する上、積極的な魔物討伐を行うかの国は「規律と秩序」を重んじ混沌を討つことを使命とする国家である。
その中心都市「王都ロウブレード」は政治・経済の中心地であり大陸のヘソにもあたることから交易も盛んである。東西南北に伸びる街道は整備され、絶えず騎士団が巡回し盗賊やモンスターの脅威から人々を守っている。
王都の周りは田園風景が広がり、牧歌的な光景である。
人々は質素で倹約的な生活を好み、「正義と法の神」を信奉している。
ただし、20年前に起きた降魔戦争が王国を世界を混沌の渦に巻き込み、騎士団・冒険者ギルドも甚大な被害をこうむっており、暗い影を落としていた。
その王都ロウブレードの郊外の館で祖父と孫の最後の別れが行われていた。
あの頃はよかった・・・祖父は孫に言い遺す。
「冒険者は冒険者として生き、騎士は騎士としての務めを全うできた。しかし、世界は探求しつくされ、外敵のいなくなった今、彼らは自らのあり様を変えてしまった。
敵を内に作るようになってはもう、先はなかろうて・・・お前はどのような人生を送ろうともかまわない、生きるだけならどのようなギルドに所属してもかまわんだろう・・・じゃが、裏ギルドにだけは関わってはならん・・・あれは・・・いつの世にも存在するもの・・・もし、関われば人の強さと弱さ、その全てを知ることになる。真実は闇の中にあってこそ世界は自身は平和でいられるのだから・・・」
少年にとって祖父の言葉は絶対であった。幼いときに両親を亡くし育ててもらった恩義があった。
ただ、よくわかっていなかったのだ。
生きるということは与えられた環境に適応するだけではなく、自ら環境を作り出していくということに。それが世界の法則であるという事、それを彼はこれから数年後思い知ることになる。
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その日は晴天で空は青く、燦燦と光のシャワーが降っていた。
そんな光も届かない街の裏側で、一人の青年が途方にくれていた。
なぜなら先ほど所属しているギルドから脱退したからだ。
彼はよくわかっていなかった。いや、わかっていたとしても結果は変わらなかった。
幸いにして他のギルドに入ることはできる。ただ、同じ業種はできないというだけの事。
別の業種につく分には問題ないし、まだまだ若いのでやり直しはきくだろう。しかし、クビになったばかりの彼には何の慰めにもなりはしない。
自分がなりたいと思い、勉強し、努力してやっとの思いではいれたギルドが夢や希望とはまったく違ったものだったなんてよくある話。
でも、それは自分以外の人の話だと思っていた。彼は一生懸命に仕事に励んだ。周りの同業者、依頼人にも信頼されはじめ、結果も少しづつ出してきていた。
このままギルドへの貢献度を高め、ランクを上げる事ができれば家や嫁さんをもらって老後はのんびり暮らす。そんな夢を見ていた時期もあった。
夢はいつか醒めるもの、彼の人生が順風満帆にいくなんて誰も保証してくれていなかったのに
祖父と死別した彼は自分で生きるために稼がねばならなかった。
まず最初に選んだ方法は騎士団に入ること。
騎士団は貴族の子弟が所属する幹部候補生のほかにも下級兵士や補給や経理などを行う裏方まであり、ラインフォール王国においては最大のギルドといってもいいだろう。
祖父は騎士団の一員でもあったし、福利厚生もしっかりしている誰もが憧れる職業だ。
少年が憧れを持って騎士団にはいってしまったとしても彼を責めるのは酷なことであろう・・・
彼がまずはじめにやらされたのはとにかく走る事だった。早朝、起きたら走る。昼も走る。夜も走る。
休みの日も走る走る。
理由を聞くと、「足の遅い奴は行軍でも逃げる時でも、足手まといだから」という単純な答えだった。
慣れてくると自分から走るようになるらしい、足の遅さが生死を分けるとなれば必死にもなるだろう。
そもそも戦場まで馬になんて乗れる身分でもないのに足腰が弱くては話にならない。
・・・少年は騎士団の最初の仕事が走る事だと聞いてがっかりしたが、せっかく入れてもらったのにすぐにやめてしまっては申し訳ないし、他の人間にできている事が自分に出来ないはずもないと思いなおし、自ら進んで訓練に励んだ。
騎士団の団長から見た少年は、特筆するべき能力は特に無く、それほど目立つと言うわけでもなかった。指示にはきちんと従うし、性格も温厚であり、組織において問題となるような行動は見られなかった。
ただ、向上心や野心といったものも見受けられず、上級職へ希望も出さない変わり者として認識していた。
ところが騎士団にはいって三年経ち、彼が脱退したいと申し出てきた時、その見方が誤りであることに気付かされた。
彼の所属していた部隊は不思議と盗賊やモンスターと出会う回数が多く、数多くの戦果を上げていたが、それだけ損耗もひどく何人も病院送りになっていた。
その中にあって常に戦場に立ち続け、若くして最古参の少年兵は部隊の中ではとても地味な存在であった。
脱退にあたり、彼の記録を取り寄せたが彼個人の功績というものが存在しない。
他の者は商人を襲っていた盗賊に敢然と立ち向かい傷を負ったため、名誉の負傷をしたことになっていたり、モンスターの首級を挙げたとの記録もあるにもかかわらず、彼だけは何も無く、ただ横でそれを見ていたかのようなものであった。
実際の戦場であればそういうことはまずありえない。部隊というものは一つの運命共同体である。
突出した一人の武勇だけでは孤立して討ち取られてしまう。
お互いが補い合ってこそ成果を上げる事ができるのである。成果を挙げた者が傷病兵となり、戦線を離脱し、新たな補充兵がやってくる。これではまるで、出来の悪い英雄譚のような記録である。
報告者を見てみるとどの記録も同じ人物、すなわち最古参の少年兵が書いていた。
これもありえないことである。そもそも報告者は誰でもいいというわけではない。
現場を見ていた者が書かなければならないのは当然だが、当事者の中でも上位の者が書くのが通例であり、いくら古参とはいえ新規にきた幹部が書いていないのは異常事態である。
直属の部隊長に話を聞くと、彼以外にまともな報告書をかける人材がいなくなっていた為、とのことであったが、どうやら事務仕事を全て押し付けていたようである。
しかも、斥候から荷物運び、情報収集等、部隊の生命線である補給申請の全てをかれに任せきりになっていたという事実が判明する。
一体この部隊は何をしていたのだ・・・?
部隊長は完全に思考停止に陥り、何が悪いのかすらもわからずそのまま直立不動で立ち尽くし、
部隊は彼が脱退した事により解散し他の部隊に吸収されることになった。
騎士団の建物から退職金をもらった彼は後ろを振り向きながらこう呟いた「これで無職か・・・」と
まだ、序章です。




