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ふわふわ

「しゃぼんだまに乗ってさ、ふわふわ空飛べたらおもしろない?」

 ぶら子は時々、真顔でこういうことを言う。

 人が乗れるようなシャボン玉なんてあるわけがない、と俺が言うと、ぶら子は頬を膨らませてぷいっ、と顔を背けた。

「チクリンはそーゆーおもしろないことを言うからキライやわ」

 俺が、夢のないことを言ってすまない、と謝ると、ぶら子は「そういう素直なところは好きやけどね!」と言って、いきなり抱きついて来た。

 どう反応したものかと微妙に対応に困っていると、ぶら子は満足したのか、抱きついてきた時と同様にいきなり俺を突き飛ばすように離れて言った。

「う~ん。じゃあ、も少し現実的なところで……モモタローが入ってたみたいな、おっきな桃で、どんぶらこぉ~どんぶらこって川を流れてみたない?」

 先ほどのシャボン玉といいもしかして君は何か浮遊感のようなものを求めているのだろうかと尋ねると、ぶら子は言われて初めて気がついたように「そうやね。そうかも」と何度もうなずいた。

 では、手っ取り早いところでこういうのはどうだろうか、と俺はぶら子の両脇に手を差し込んで、ぐいっと一気に持ち上げた。思っていたよりも軽かったので、力が余って一瞬ぶら子が宙に浮いた。

「え、ひゃぁ、何するん、チクリン!」

 高い高いされた格好のぶら子が恥ずかしそうに足をばたばたとさせる。

「や、いやや、はようおろして~!」

 浮遊感は得られたかだろうか、と尋ねるとぶら子は

「あほー、何かやるときは前もって言わなびっくりするやろ」

と俺にいきなり膝蹴りをしてきた。

 アゴに食らって少し意識が飛びかけたが、なんとかぶら子を落とすことなく地面に降ろす。

「……いきなりやったから、ブラ片方ずれてしもた。スポーツブラはあかんなー」

 すまない、と謝るとぶら子は「チクリンえろすぎや~」と言いながら服の上から着衣を直した。それから俺の前に立って、両手を真横に伸ばす。

「じゃ、もっぺんお願いな。今度は変なとこにツメひっかけたらあかんで?」

 努力しよう、と言いながらぶら子の両脇に手を差し込む。

 ぐっと足に力をこめて一気にぶら子を持ち上げる。

「ひゃー」

 今度は力加減がわかっていたので失敗はしない。ぶら子を持ち上げたまま、何度か上下させると、持ち上げるたびにぶら子が楽しげな声を上げた。

「まわって! チクリン、このままぐるぐるまわって」

 リクエストに答えてその場で回りながら高い高いを繰り返す。

「……そらを飛んでるみたいやわ~」

 満足したようで何よりだ。って、あ。

「ふひゃぁ~……」

 バランス感覚には自信があったのだが流石に回りすぎていたらしい。足がからまって、気がついたときにはぶら子を思いっきり投げ飛ばしていた。

「ぁぁ……」

 ぶら子の悲鳴が風にかき消された。マンガのようにキラっと光ってぶら子の姿が見えなくなった。思いっきり遠心力をつけて投げ飛ばしてしまったとはいえ、俺の腕力から考えると第三宇宙速度を超えたとは思えない。飛んでいった角度と方角からから考えて……アメリカまで行くかそれともこれは人口衛星コース……か……。

 必死で計算していると、携帯電話が首領ぶら子のテーマを奏でだした。

 いまどこだろうか、と尋ねると『チクリン、殺す』という言葉が返ってきた。

 すまない許してくれ、と謝って、しょうがないのでぶら子の携帯の位置をGPSで検索する。

 ぶら子の体重と、移動速度、それから高度と方角から、ざっと暗算。

 どうやら地球を何週かしつつ落っこちるコースのようだ、銀河の彼方へさらばコースでなくて何よりだ、と言うと、『チクリン、殺す。ゆるさへん』という言葉が返ってきた。

 だいたい一時間十分後くらいに地球と反対側に靴か何かを放り投げれば、日本のそばに落ちられると思う、と言うと『チクリン、殺す。絶対チクリンの上に落っこちる。よけたらいかんよ?』という言葉が返ってきた。

 絶対に受け止めるから安心して落ちて来い、と言うと『チクリン、殺す。愛してる』という言葉が返ってきた。




 一時間二十分後、赤い流れ星が見えたので受け止めようと腰を落として待ち構えていると、摩擦熱で真っ赤に燃えるぶら子がウルトラマンのように右手を突き出して落っこちてきた。

 よし来い。って、あ。

「チクリン、殺す。ぶら子ぱーんち!!」

 頬に衝撃を受けて受け止めきれず、ぶら子を抱きしめたまま、ごろごろごろと数十メートル転がってなんとか勢いを殺した。

「チクリン、ただいま! 宇宙はすっごいふわふわだったわー」

 燃えたのかそれとも軌道を変えるために靴と一緒に投げたのか、ぶら子はほとんど裸同然の格好だった。

 おかえり、と折れた右腕を上げると、

「ちゃんと受け止めたから、許す」

 ぶら子はそう言って微笑んだ。









○チラシの裏


黒井(くろい) 幸子(さちこ)

 ブラック・サチコ略してぶら子。悪の秘密組織ららら団の首領。

 通称、首領(ドン)・ぶら子。

 夢見る少女(自称)。

 なんか適当なことを思いついてはチクリンを振り回す。


竹林(たけばやし) 半太(はんた)

 ららら団に所属する悪の改造人間パンダ男。

 ぶら子にはチクリンと呼ばれている。

 怪人形態と人間形態に変身可能。


ららら団

 ぶら子の祖母が作った悪の秘密組織。

 正義の味方に壊滅状態に追い込まれ、

 現在はぶら子とチクリンの二人しかいない開店休業状態。

 【しゃぼんだま】【竹林】【どんぶらこ】のお題で書かれました。

 ぶら子とチクリン。実は初めて書いた三題話。三題話のくせにお題のうち二つが人名とか。

 書き始めたときは普通の高校生カップルのつもりだったのに、チクリンがぶら子をぶん投げた瞬間に改造人間になってしまいました。オチを考えないで書き始めると自分の暴走っぷりが楽しいです。


 ものすごく簡単に設定を語ってしまうと、悪の秘密組織ららら団は既に正義の味方に壊滅状態に追い込まれ、生き残ったぶら子とチクリンだけが追っ手から身を隠しながら当てのない逃避行を続けているという感じです。

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