空という不安定な言葉
「空の下にみんながいるんじゃなくて
みんなの上に空があるんだって」
そんなことを誰かが言っていたのをふと思い出した。
朝から開けていないカーテンを思いっきり開け放って
いつもは座らない冷たい床に腰を下ろす。
この部屋の窓から見えるものは何にもないと思っていたけれど
遠くまで広がる青い空がそこにはあった。
いつもは部屋の一部としか思っていなかった窓が
今だけは何故かとても価値のあるものに思えた。
窓枠がまるで絵画の額縁のようで
その中に飾られた絵をより一層引き立てている気がしたからだ。
縁取られた空には雲さえも浮かんではいなかったから
奥行きも、実体も何もないように思えてきて
空っぽの心に虚しさという感情を生み出した
そして私は空という名前が付けられているのはなんだろうと考え始めた。
昔から一人になると物思いにふけるのが私の癖だ。
「みんなの上に空があるのなら
その上にある空とはなんだろう」
今私が見つめているものは
現実的には空気であったりオゾンであったりするんだろうけど
それじゃどこか味気ない。
空は宇宙だと言えばそれはそれで神秘的だけど
あまりにも果てしない話になるから収集がつかなくなる。
そんなことを言い出したら
宇宙も空と呼べばいいことになってしまう。
「人が空と呼んできたものって
そういうものじゃないと思うんだ」
こんな風に空を見上げたのはいつぶりだろうか。
子供のころに見上げた空は
確かもっと青かったように思う。
見つめ続けた空が徐々に紅がかっていくのを感じた。
部屋に落ちる光も透き通る白から
熱を帯びた朱色へと変わり始めている。
そっと床に落ちた光を拾うけど
手に乗せられる光は目に見えない。
私は見えない光を空へと投げながら
「空というものは
光を指すのかもしれない」
そう思った。
床に座っているのに疲れてきて
そのままごろんと仰向けに寝転ぶ。
床は思ったよりも暖かかった。
ずっと空を見ていたせいか
視界が緑がかっている
今私の上にある天井は
空に比べたら暗すぎてよく見えない。
そっと目を閉じてみる
そして分かったんだ
その瞼を閉じればいつだって
私の心の上に空があったってこと
その暗い天井の上に
私の上に
心の中に
空という名の暖かい光があるってこと
そしてきっと今いる全ての人の上に
大切なあの人の心の中にも
この不安定な言葉が示す光がある
「空」
それはまるで分からなく
不安定で神秘的な言葉だよ
でも見ているだけで心が落ち着くんだ。
部屋はすっかりもう暗い
だけどこの床はまだ暖かかい。
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