プロローグ5
「ああ、こっちとしても有り難いな。――良いだろ? 2人とも」
俺は2人の方を向き、返答を伺う。
「わしは構わんぞ」
「……うん」
ましろの奴、やけに不満気だな。せっかく揃ったんだから喜べばいいのに。
「ま、そういう事で、よろしく頼みます。華月先輩」
「うん、よろしくね~」
ゆっくりとした口調で、垂れてる袖をぶんぶんと振る仕草は、……何というか、癒されるな、うん。
こんなお子様体型で3年生っていうのも中々……いや、なんでもない。
「それじゃ、お互い了承って事で。――じゃあ、部室についてだけど」
「あ、それでしたら――」
ましろが部室……というよりも、勝手に使ってた部屋についてを先生に説明していた。
「――はい、わかりました。じゃあ、私は部活申請書と許可を取りに行きますので、皆は部室で待っててね」
そう言うと、華月先生はそそくさと部活関連を担当している先生の所へ向かっていった。
意外とすんなり済んで何よりってところだな。
△
くどいだろうけど、この学園は広い。
俺達は、また十分ほど掛けて部室に戻ってる最中だ。
「そういえば、華月先輩は華月先生と姉妹なんですか?」
「うん、そうだよ~。それと、私のことは遥で良いよ。まどろっこしいでしょ? ――桐咲悠里、君」
「まあ、そうですね」
――ん? 俺ってこの人とは初対面だよな?
(実はどっかで会ってるとか? いやそうだとしたらたぶん覚えてるだろうな)
そうこう考えてる間に、部室へと着いた。ああ疲れたな。
ましろと亜理紗は入るなり、椅子に座る。俺も座るとしよう。
あ、そういえば、部員数が足りたんだっけか。
「じゃあ、部員も足りたことだし、今お互いに自己紹介でも――」
「必要ないよ~。……刀を持っている君が藤原亜理紗ちゃんで、私の事をまだ認めてない感じに睨んでいる君が神崎ましろちゃん。でしょ~?」
バッチリ正解だ。
――まあ、それよりも。
「どういう事だ? ましろ」
「どうもこうも、そのままの意味よ。だって、タイミングが良すぎるじゃない。何か狙いでもあるんじゃないかって疑ってんの」
疑いの眼差しをすんとも変えないましろ。
「確かにタイミングにしては良すぎるけど、でも結果的には部が結成出来たんだから気にする事でもないだろ」
「アンタが気にしなくても、私が気にするの!」
どういうこったい。
というか、俺部長だよな? 部長の意見もなしときますか。
「――それじゃ、テストするわよ」
不意に言い放つましろ。本当に突然だな。
「いいよ~」
微笑みながら応える遥先輩。あ、そこ乗るのか。
「課題は簡単。私を何でも良いから満足させてみなさい。出来たら認めるわ」
確かに至極単純だが、それは結構ハードル高いぞ。
(しょうがない、狙うと危険な弱点でも教えよう。あれなら一発KOだ)
「遥先輩――」
「うん、大丈夫だよ~。じゃあ、隣の部屋来て来て~」
教えようと思ったら、袖をひらひらさせながら手招きし、ましろと一緒に隣の部屋(たぶん今の時間だと誰もいない)へと行ってしまった。
俺と亜理紗は呆然と見送った。
△
俺達はゆっくり茶でも飲んで待つ事数分。
ガチャ!
突然ドアが開き入って来たのは、ましろ。
だが、様子がおかしい。体をぷるぷる震わせながら千鳥足で俺の近くに寄るなり、倒れた。
「お、おい、どうした?」
抱き起こしながら問うと、少しの風音でも消えてしまいそうなほどに細く、甘い声が聞こえた。
「……も、もう、らめ。……お、お嫁にいけ……ない」
今度は全身をピクピクと痙攣させながら俺にもたれる。微かに体が熱を出してる。
(この感じは弱点をやられた時と似てる。でも、ここまでは……)
「なはは~、やり過ぎちゃったかな~?」
頭をぽりぽりしながら戻って来た遥先輩。
「ちょっ、これ、先輩一体何したんですか!?」
「え~? 何って、ただ〝足の裏〟をマッサージしただけだよぉ~」
――そう、ましろの弱点は足の裏だ。一度そこをやられると、何故か体が火照り、数十分間は動けなくらしい。
補足すると、家族全員そうなるらしい。まあ、遺伝って事だな。……変わった体質だよな。まあ、俺もそこまで言えないんだけども。
そういえば前に一度、俺がちょっと触っただけで、腰抜かしたからなこいつ。
……いやしかし、ここまでにするとは恐るべしだな。
「じゃあ、ましろがこうなったから遥先輩の勝ちで、認めるって事で良いよな。もう」
「……な、なに勝手に決め……はぅ」
反応的に俺へと抱き付いて来るましろ。
――いやしかし、今の状況どうしたものか。
抱き付かれてて、甘い声洩らすわ、なおかつ涙目の上目遣いで見るし、更に体は火照ってると来た。
(ドキドキすんなって言われても、無理だろ!)
ガチャ!
「皆、お待たせ。ちゃんと部活動としての許可を貰ってきま――」
タイミングバッチリだ先生。どうかこの状況を――
バタン!
何で、閉めるの!?
それに心なしか顔が引きつってたのが見えたぞ。絶対に勘違いしてるよ、あの先生!
「では、わしもそろそろ御暇しようかの」
「明日からよろしくね~、2人とも。ごゆっくり~」
2人は微笑か苦笑かわからない顔でそそくさと俺達を置いて帰って行きやがった。
(ええ!? そ、そんな!)
――という感じで、『何でもお助け部』は結成され、俺の平穏な生活は壊された。
とにかく、誰か……助けてくれ。
プロローグ END