プロローグ4
「――そういえば、結局部員はこれだけか? 3人じゃないか。あと1人足りないぞ」
それを聞いた瞬間にましろはピクッと反応する。
(あ、こいつ。本当は足りてないのに、見栄を張ったな。……まったく)
勧誘するならするで構わないけど、もうちょっと計画性のある部活であってくれよ。こう、部員数的意味でさ。
俺は肩をすくめながらため息を零した。
「しょうがないじゃない。他の子は来てくれないんだから」
まあ、こんな部とも決まってないような所には誰も来ないだろうな。……普通。
(じゃあ、なんだ。俺達なら少し変だから良いってか? 変って事に否定はしないが、それはちょっと複雑だぞ)
「ま、まあ、この人数でも良いかどうか聞いてみるわよ。――ほら、職員室行くわよ!」
言い終える前にましろはドアを開けて、部屋の外へ。まったく、行動の早さだけは一人前だ。
てか、俺は職員室行くのにさほど抵抗があるってのに。……しょうがないな。
もう一度ため息を吐きながら、俺が部屋を出ようとしたところで、亜理紗に袖を引っ張られた。
「あやつは、毎度あんな感じなのか?」
――あやつ? ……ああ、ましろの事か。
(う~ん、これはあまり他言する事じゃないけど。この場にあいつはいないし、こいつになら……少しは大丈夫か)
「〝こういう所〟では、いつはああなっちまうんだよ。……まあ、なんだ。ワケあり事情ってところだな。――お前もそんなもんだろ? だから、あまり悪く思わないでやってくれ」
俺の後半部分の発言で反応したんだろう。
袖を掴む手を離して、その場から一歩後ろに下がる亜理紗。
「――俺は何も気にしないさ」
「目付きが悪くて、怖い顔をしているが。信用してよいのか?」
「ああ。それはちゃんと保証してやる。……ちなみに、この顔は元からだ」
こういう顔にしとかないと、色々面倒事を頼まれそうだからな。
「……ふぅ」
ため息とは違う、安堵の息を洩らす亜理紗。
「完全にではないんじゃが、悠里。お主を一応信用しておこうかの」
微笑みながら俺を通り過ぎ、ドアを開けて出る。
まあ、言ってみるもんだな。
俺も続くように出て、ましろを追った。
△
俺達は職員室前に着き、少し休憩中。
本当にこの学園は広すぎる。職員室に向かうだけで、十分台もかかるなんて……前代未聞だよな。疲れるったらありゃしない。
「来たまでは良いけどよ。……顧問になってもらう先生は、誰にするんだ?」
「華月先生よ」
えぇー、よりにもよってあの先生にかよ。俺はあの人、少し苦手なんだよな。
俺は、自分でもわかるぐらいに嫌な顔をした。
それでもましろは無視をこいて、そのまま中へ。
「失礼します」
「失礼するぞ」
「……」
ちなみに華月先生の席は入ってすぐ右手に見える。
ましろがすぐに先生へと向かっていく、俺達もそれに続く。
「華月先生。ちょっと頼みたい事がありまして」
「なにかな、神崎さ……っ!?」
先生は俺の顔を見た瞬間、怖い物にでも出会ったかのようにビクッと肩をあげた。
「あわわわ、な、なにかな!?」
体とサイズが合わない崩れた服をせっせと直しつつ。
更に慌てるようにして、両手を両膝に乗せて、背筋をピンと伸ばす。
――俺がいつも怖い顔してるせいなのか。この人は俺を見る度にびくびくするんだよな。
これが、俺が行きたくない理由の一つでもある。
(そこまでびびられると、俺が全部悪いみたいじゃないか。何もやってねえのに)
俺はましろに「後は頼む」と耳打ちして、二歩ほど先生から離れる。
「先生に頼みというのは、新規部活を申請する為に顧問をやって欲しいという事なんですけど」
俺が離れてから、深呼吸を一度して冷静を取り戻す華月先生。
「私で良ければ構わないけど。……でも見るかぎり3人、なのかな? それだとちょっと駄目かな~」
「それは……」
ましろが黙り込んでいる、そこへ。
「私が入ろうかぁ~?」
不意に後ろから聞こえた声に振り向く。
そこには真上学園の制服――サイズが全然合ってない――を着ている、ましろより一回り小さい女子がいた。
頭のてっぺんにくせ毛がちょんとあるのが目立つ、すみれ色の短髪。とろんと垂れた瞳の中は、琥珀が光っているみたいだ。
胸元のリボンは青。……てことはこの人、3年生なのか!?
「え、良いの? 遥……じゃなくて、華月さん」
「うん、良いよぉ~。ちょっと興味があるしね」
今、呼び捨てしたよな、先生。――苗字を聞くかぎりは姉妹かこの2人。似てるのは髪の毛だけか。
ましろは少し思案顔をして、黙ったまま。
考える必要はないだろ。これは、願ってもないチャンスじゃないか。