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プロローグ3


「なあ、お前も俺と同じく、こいつに強制的に入れさせられたのか?」

 俺は和服少女に向けて問いかけた。

「……」

 全く返事なし。精神統一中なのだろうか? 目を瞑ったままピクリとも動かない。

「とりあえず、お互いに自己紹介したいんだけど……」

 返事を待たず、俺は和服少女へと近づく。

「あっ、だ、だめ! 今近づいちゃ!」

 不意に後ろからましろが止めに入る声がした。

 だが、時既に遅し。

 シュッ! ……スパッ。

「……え?」

 俺の前髪が綺麗に横一文字に切れ、ひらひらと落ちていく。振り向けば、ましろは俺を見ては慌てている。

 何が起きたのか、俺には全然理解出来なかった。

 カチンッ。

 時代劇でもよく聞く、納刀する時に出る金属音。

(え? なに俺、今……斬られたのか?)

 気づいた時には、俺の目の前にいた和服少女は立ち上がってこちらを見ていた。

「――瞑想の邪魔だ。斬るぞ?」

 いや、もう斬ってたから。俺、バッサリもってかれたからね? 前髪が……。

 斬った本人は、ピカピカに磨き抜かれた翡翠のような切れ長の瞳で俺を睨みつける。

「それは悪かった。一応、自己紹介をしておきたくてさ」

「ならば、まずはお主から名乗れ。人に名を聞きたいのであればじゃがな」

 今時の女子高生って、老人みたいな喋り方も出来るのか。……いや、たぶんこいつだけなんだろうけど。

(初めて女の子にお主とか言われた。なにこの複雑な初体験)

「それもそうだな。――俺は2年の桐咲悠里きりざきゆうり。お前は?」

「わしは藤原亜理紗ふじわらのありさ。お主と同じ2年生じゃ」

 納刀してある白い鞘を左手に持ちながら一礼する亜理紗。

 いきなり斬りつけてくるもんだから、この礼儀正しさは逆に驚きが隠せない。

 それに良く見ると、目の前にいるってだけというのにも関わらず、この気品溢れる佇まい。腰まで伸びた、艶がある漆黒の髪の毛がそれを更に引き立たせる。

 2年の証である赤いリボンは髪を結わうのに使っているみたいだ。

 こいつを一言で表せと言われれば。――大和撫子。とすぐに出るだろう。

「へえ。今の時代でも苗字に『の』が付く人っているんだな」

「理由はどうあれ、藤原の家系じゃからの。まあ、読み辛ければ『ふじわら』でも構わんし、下の名前でも良いぞ」

「そうか。……それじゃ、亜理紗と呼ぶ事にするよ。俺もどっちでも良いからな?」

「ではわしも、――悠里。と下の名前で呼ばせてもらうぞ」

「おう、よろしくな」

「うむ」

 こいつとはまだ気が合いそうだ。

 話がスムーズに済むし、なんと言ってもトゲトゲしくない。……どっかの誰かさんよりな。

「仲良くなったところ悪いんだけど――」

 俺と亜理紗の間にずいっと入り込むましろ。その顔はいつにも増して不機嫌そうだ。

「お互い自己紹介終わったみたいだから、入部決定ね! あ、あとアンタが部長ね」

 ビシッとばかりに指を突き立てた。……その指先は俺。

「なっ!? お前、勝手過ぎるだろ。何で俺が部長にならなくちゃいけないんだ」

「適任そうだから」

 即答かよ。

 あと、適任『そう』ってなんだよ。理由ははっきりとして欲しいところだ。

「そういえばそうじゃ。わしもこやつに強制に連れて来られたんじゃ」

 さきほどした俺の質問への答えか。亜理紗は身構えながら言った。

(さすがの侍さんでも、ましろには勝てないか。……じゃなきゃ、ここにはいないもんな)

「人聞きが悪いわね。これでも優しく、丁寧に連れて来てあげたのよ?」

「何が優しく、丁寧じゃ。あんな……あんな、ぶ、物騒な物を出しておきながら!」

 白い鞘をぎゅっと抱きしめながら震える亜理紗。

 一体なにを出したって言うんだ? ましろの奴。

「――〝砥石〟」

 言うが早く、右手に砥石を出すましろ。

「は? 砥石? 何でそんな物が物騒なんだよ」

「十分物騒じゃ! そんな物で、他人がわしの……わしの愛刀を削るなどと。自分の衣服が剥がされているのと大差変わらんわ!」

 更に強く抱きしめながら後退りする亜理紗。その目にはちょっぴりの涙が……。

(――相当、刀を愛しているんだな、こいつ。まあ、なんだ。……弱点みっけ)

「そんな、荒くやるわけじゃないんだし。あと、砥がないと切れ味落ちちゃうんじゃない?」

「この刀は。――〝真理紗〟(まりさ)はそんな簡単に切れ味など落ちはせん!」

 意外と可愛らしい名前の刀だな。

 そんなましろと亜理紗が話している中、俺はある疑問が浮かんだ。


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