プロローグ2
俺は恐る恐るゆっくりと、まるで錆び付いたロボットのように、ぎぎぎときしみながら振り返る。
そこには、黒い笑みを浮かばせながらこっちへと近づいてくるましろ。
――真上学園の独特な女子の通常制服。フリルが付いた、純白のドレス風な制服。
それは、着ている者をとてもお淑やかに魅せるほどに美しい出来。まるでどこかの国のお姫様みたいだ。
ちなみに胸元のリボンの色で学年が分かれている。ましろは赤だ。
政府や生徒の親から預かってるお金をどれほど女子生徒服だけに注ぎ込んでいるのやら。……いや、今はそんなの関係ないか。
なにしろ俺の目の前には、黒いオーラと同化しているのか、綺麗な制服は混沌な真っ黒(という風に見える)の『魔女様』がいるんだから。
「昔にも言ったけど、『逃がさない』って言ったよね? 私の言葉は絶対よ?」
(マズイ、また変なスイッチを押したか!?)
目の前の少女は一言で表すと恐怖。
特に顔が怖い! 前言撤回、こいつは全然可愛くない、怖い。
俺はそう断言出来る。
近づくましろの更に深さを増した笑みは、より一層、俺を恐怖へと突き落とす。
――だ、誰か助けてっ!
△
「入部希望者を連れて来たわよー」
ズルズルズル。
痛い痛い痛い。擦れてる、地面に全身が擦れてる!
(ちくしょう、俺の平穏な学園生活がぁぁぁ)
――俺はあの後強制的にましろに捕まり、手足を縄で拘束され、部室と思われる場所まで連れてこられた。
地面に引きずりながらな! ちなみに今もなお継続中。
「なあ、摩擦熱でものすごく痛いんだけど。そろそろ離してくれないか? ……逃げたりしねえからさ」
ヒュッ、ボトンッ。
だからといって、一回上に投げて落とすか!? 普通。何も受ける耐性付ける前に地面へと激突したために俺の全身へのダメージ大だぞ?
「いってぇー。お前、本当何もかも突然だよな」
「うるっさいわねー」
あ、今のはさすがに俺もカチンと来たな。ゴングの音みたいにカチンと。
(……いや、駄目だ。今こんなところで〝熱く〟なるな。俺!)
とりあえず平常心を保った俺は一度立ち上がってから深呼吸して、ましろと対面する。
「人を物みたいに扱いやがって。……てか、ここどこだ?」
「ここが、何でもお助け部の部室。になる部屋よ!」
(――部室になる? ……ってことはまだ部と認められてねえんじゃねえか!)
俺は辺りを見渡す。
部屋はざっと4・5人入ったとしても少し余るぐらいにやや広いスペース。
真ん中には折りたたみ式の長方テーブルが一つ。左右にはパイプ椅子が2つずつ置かれている。――誰かが使った痕跡はなく、まるで新築と同様な部屋だ。
(よくもまあ、この無駄に広い学園でこんな良い部屋を見つけられたもんだ)
軽く説明しておくと、この真上学園は生徒数が裕に2000人越えだ。
その為、敷地がとてつもなく広い。説明会で言ってたな……ええと、『某喋るねずみがいる遊園地を軽く超える広さ』だったかな。
広さは十分だけど、ほとんどの部屋は色んな部活で使われているからな。
「そういえば、部活認証には最低4人か5人はいないと厳しいんじゃなかったか? いるのか? 見たところ俺達2人しかいないが……」
「アンタの目は節穴? それとも腐ってるの? ちゃんと見なさいよ」
こうどうして、悪口だけはひょいひょい出るのかね。たまには可愛い事を言ってみれば良いものを。……まあ、無理な要望か。
俺は更に部屋を見渡す。――あ、本当だ。いたよ。
部屋の隅っこで1人ポツンと桜色の和服を着た少女が、正座している。
その少女がまたましろと同じく、おかしな奴だと察した。……なぜなら、彼女の左側には刀らしきものがあるから。
――知ってるか? 自分の得物を右ではなく、左に置くって事は『私は貴方に敵意剥き出しですよ』って意味らしいぜ? まあ、剣道の授業でたまたま耳に入った話だけど。
(なぜに正座? てか、あれは模造刀か? これまたおかしいのが入ったもんだ。……まあ、オレもそこまで言えないか)
少しこの学園について補足すると、女子生徒の人数が一際多い。それだけに女子の制服改造は黙認されている。――さすが、元女学園。
真上学園は『男卑女尊』って言葉がぴったりだな。困ったもんだ。
……じゃあ何で入ったかって?
それは単純に家から近いからと、体験入学で食べた学食が美味かったからだ。
――あ、別に聞いてない? これは失礼。