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心模様、雨模様。

 いつだって空は淀んでいる。

 まるで、僕を嘲笑うかの様に……



○――――――――――――――――――――○



「ねえ、孝平」


 名前を呼ばれて、僕は振り返った。今は下校中。一緒に帰る相手なんていなかったから、名前を呼ばれたのは意外だった。でも、振り返った先にいる相手は、声で判断した通りの相手だった。


「どうしたの? 美奈」


 神埼美奈。僕の幼馴染みで、去年までのクラスメート。

 3年に上がった僕らは、クラスも別々になって、特別な程に家が近いわけでもなく(方向は一緒だけど)、今までで一緒に登下校していたのが不思議なくらい、別々に行動する様になっていた。それなのに、珍しいこともあるものだ。


「ちょっとね。孝平の後姿が見えたから。一緒に帰っていい?」


「うん」


 断る理由がない。ちょっと疎遠になっていたけど、僕らは別にケンカをしているわけでもないんだし。


「…………」

「…………」


 並んで歩くこと数分。どちらから声を発することもなく、沈黙と共に歩いている。

 気まずい雰囲気。そう感じているのは、僕だけじゃないはずだ。だけど、僕らは――少なくとも僕は、その沈黙を破るだけの度胸も言葉も持っていない。


「ねぇ」


 だから、美奈がそう切り出してくれて、正直ホッとした。


「なに?」


「本当は、ずっと孝平の後ろ歩いてたんだよ。でも、なかなか声をかけられなくて……」


 語尾を濁らせながら、それでも必死に言葉を紡ぐ美奈。いや、必死とか、そんなのは本当はわからない。ただ、僕がそう感じただけだ。


「孝平に、相談したいことがあるの」


「相談したいこと?」


 美奈のことを気遣う余裕なんてあるはずもなく、ただオウム返しに言葉を返した。


「私ね、告白されたんだ」


 誰に……?

 いつ……?


 そんな疑問が、頭の中を駆け巡る。だけど、決して言葉にはしない。でも動揺は隠せるはずもなく、思わず頬を引きつらせてしまった。美奈はどことなく俯き加減になっているので、そんな僕の変化には気付かなかったはずだ。


「なんで、そんなこと僕に言うの?」


 そう尋ねた僕の声は、掠れていた。それでも、美奈には十分に伝わったはずだ。ただ、どう受け止めたかはわからないけど……


「僕には、関係ないよ……」


 最後まで、僕はハッキリと口に出来たのだろうか。それすらも自覚出来ない。ただ一つわかるのは、僕が美奈を傷付けているという事だけ。

 だって、美奈は――


 僕のことが、好きなんだから……



○――――――――――――――――――――○



 気が付けば、雨が降っていた。

 ずっと曇っていたし、雨は降らないと思っていたわけではない。

 僕は、ゆっくりと空を見上げる。

 まだ本降りじゃない、弱々しい雨。だけど、その存在はしっかりと僕の顔に当たってくる。

 もう、僕の横に美奈はいない。

 彼女が僕に告白したその日から、僕は彼女を避けていたから。

 拒絶したんだ。きっと、僕も美奈のことが好きだったはずなのに……

 嬉しかったんだ。それなのに、僕は美奈を拒絶した。

 挙句の果てに、他の男から告白されたって話を聞いて、醜くも嫉妬なんかしたりして……

 美奈は、僕に言って欲しかったはずなのに。僕は、それに応えることが出来なかった。

 ――だんだんと、雨が強くなってくる。それでも僕は立ち尽くしたまま、濡れることも厭わずに……

 僕と美奈と、二人分の涙が、僕に降りかかっているとさえ思った。それくらいに、雨を重く感じる。

 ずっと、ずっと……


 僕の空は、曇ったまま。たまに雨を降らせては、また曇る。

 僕は、何がしたかったのだろうか?


 もう、何もわからない。


 僕の意識は、そこで途絶えた……

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