表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/38

赤い箱

 目を覚ませば、そこは知らない部屋だった。

 見たこともない天井。身を起こして見回せば、見覚えのない家具が並んでいる。

 

「――――」


 声を出そうとした。

 だけど、出ない。

 喉を振るわせようとして、なぜか力んでしまう。

 

 ほんの少しの努力。だけど、直ぐに諦めた。

 別に声を出さなきゃいけないわけじゃない。それに、出したいわけでもない。勿論、ずっとこのままじゃ困るけど。


 もう一度部屋を見回す。部屋の隅にあるベッド。それが、今自分がいる場所。

 部屋に窓はない。ただただ白を強調した様な真っ白い壁。目を凝らして探せば染みや汚れも見つかるのかもしれないが、別にそこまでする必要はないからしない。ただ、白過ぎて少し目が痛い。

 並んでいる――そう表現したものの、大した数の家具があるわけじゃない。

 自分のいるベッド。茶色の木製箪笥。そして――



 赤い、ただ紅い――


 バスケットボールくらいの大きさの四角い箱。


 部屋のほぼ中心に、その箱は置かれている。

 家具というわけではないが、その箱がやけに気に掛かる。

 何の為にあるのか……

 いや、一体その箱が何なのか……


 箱なのだから、中に何かが入っているのかもしれない。でも、何も入っていないかもしれない。

 とにかく、気に掛かった。


 だけど――


 近づけない。

 その箱に近付く事に、恐怖を感じる。

 さっきまで動かせる事が当たり前だったはずの自分の身体が、すくんで動かせない。

 その恐怖はじょじょに大きく膨れ上がり、ガタガタと身体が震えてしまう。


「何を恐れているの?」


「!?」


 突然聞こえた声。

 柔らかい、女性の声――

 さっきまで、この部屋には自分以外誰もいなかった。扉が開かれた――違う。そもそも、この部屋に扉がない。なら。この声は一体……

 そもそも、自分がどうやってこの部屋に入ったのかがわからない。窓も扉もない密室空間。この部屋は、何なんだ――?


「何を考えているの?」


 今度は、違う質問がきた。

 声は聞こえるのに、姿は視えない。

 本来なら、その声にも恐怖を覚えそうなものだが――

 その声を聞いていると、なぜか心が落ち着く。


「答えてくれないの?」


 違う。

 答えたくても、答えられないのだ。


「声が出ない?」


 そう。声が出ない。


「なら、思ってくれればいい。だって、こうして会話出来ているでしょう?」


 そう言われてみれば、その通りだ。こっちの思考が伝わる様に、質問が投げかけられてきている。

 でもそれなら、何を考えているのかなんて、聞く必要はない気がする。


「だって、これは――」


 これは、何?


「ただの、自問だから」


 自問? 何を言っているの?


「自分の心に、自分で問いかけている。ただ、それだけの行為だから」


「…………」


「ここは、私の心中――あなたは、私の心」


 その言葉に、妙に納得してしまう。

 自分の声を聞いて、不安になるわけがない。

 そして、この非現実的な空間。

 でも――


 それなら、あの赤い箱は……?


「――忘れたの?」


 ソレは、私達の記憶でしょう?


 忘れてはいけない。

 決して消えない罪。

 

 そして、傷……



 ああ――


 自らを傷つけた、私の罪。

 ずっと、心に残っている恐怖。

 

 それが、赤い箱なんだ。


「さあ、起きて。もう、罪を償う時よ」


 その先に何が待っているのかはわからない。

 だけど――


 起きよう。

 全ては、それから始まる。

 

 私の、贖罪の日々が……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ