君を思い出す
忘れた事なんてなかった。
そう言い切れると思ってた。
でも、そんなものはただの妄想でしかなくて……
あの日、君と再会するまで――
君の事を忘れていた。
でも――
だからこそ、思い出す。
君と過ごした、あの日々を……
○――――――――――――――――――――○
「ねえ、裕樹」
「ん?」
「別れよっか?」
「……ああ」
少し間を置いたものの、その言葉は自然と出た。
いつか、こんな日が来ると確信していた。
この日がきても、自然に受け止められる。そう思っていたのに……
上辺だけの言葉。
言葉だけは、受け止めている様に聞こえたと思う。
だけど――
俺の中で、こんなにも君の存在が大きくなっているなんて思いもしなかった。
「最後まで、冷たいのね」
そんな事はない。そう言いたかった。でも、言えない。
思っている言葉とは、反対の言葉を紡いでしまう気がしたから。何も、言えなかった。
「さよなら」
そう言って、早紀は俺の部屋から出て行った……
○――――――――――――――――――――○
「久し振りね」
「ああ」
それは、偶然の再会だった。
たまたま、同じ電車に乗って、同じ駅で降りて、同じ改札から同じタイミングで外に出ただけの事。
何の照らし合わせでもなくて、本当に偶然。
「元気だった?」
「ああ」
俺がそう答えると、なぜか早紀は苦笑を漏らした。
「何だよ?」
「だって、相変わらずなんだもの。裕樹、何も変わってない」
そうだろうか?
自分では、よくわからないけど……
でも、早紀が言うのなら、そうなのかもしれない。
「それにしても、本当に久し振りだな。まあ、今まで全く会わなかったのも偶然と言えば偶然かもしれないけど」
「そうね。同じ町に住んでて、今まで会わなかったのも不思議な気もするけど……同じ時間に同じ場所にいるなんて、本当に偶然だものね」
そんな早紀の言葉で、苦笑しあう俺たち。
早紀も、変わってない。そう、思う。
だんだんと思い出す、早紀と過ごした記憶。
「それじゃあ、お互い用事もあるだろうし……」
「ああ、そうだな」
「……やっぱり、相変わらずね」
「何か言ったか?」
「いいえ。それじゃあ、またこんな偶然があったら」
「ああ」
そんな会話を最後に交わし、俺たちはそれぞれの向かうべき場所へと足を動かし始めた。
もう二度と、早紀と会う事はない。
何となく、そんな気がした。
きっと、こうして会わない日々が続く間に、また早紀の事を忘れていくのだろう。
でも、もし……
もしも、また会う事があったなら――
その時はまた、君を思い出す……