サヨナラなんて聞きたくなかった-前編-
どうして貴方は、いなくなってしまったの?
私が、こんなにも想っていたのに……
貴方も、同じ様に私を想ってくれていると信じていたのに……
それは春。
私にとっての、別れの季節だった……
○――――――――――――――――――――○
「ねぇねぇ」
「ん?」
私の呼びかけに、何だか眠そうに返事をする慎也――私の、恋人。
「今度の日曜日、どこか行かない?」
それはもちろん、デートのお誘い。
慎也と付き合う様になってから、今度の日曜日でちょうど半年。
春休みが終わって学校が始まったけど、ちょうど運良く休日。それなのに何もないんなんて、それはちょっと寂しいもんね。
「そうだなー」
なんて頷くけど、声はあんまり乗り気じゃないみたい。
「だって、2年に上がってクラスも別々になっちゃったし……もっと、一緒にいる時間が欲しいんだもん」
「そんな事言われてもなぁ。まあ、そんなに美穂が行きたいんなら付き合うよ」
「本当に?」
私が求めていた答えとは違うけど、拒否されるよりはよっぽどマシ。
おそるおそる、聞き返した。
「ああ。それで、どこ行きたい?」
「それじゃあ、慎也の家」
勇気を出して、そんな事を言ってみる。
冗談半分、本気半分ってところ。
「……いいよ」
「え?」
信じられなかった。だから、確認する為に尋ねる。
「いいの?」
「ああ」
「本当に?」
「本当に」
「本当の本当に?」
「しつこいぞ。本当だって」
神様。ありがとうございます!
付き合い始めて半年。ようやく彼氏の家に行く事が出来ます!
「だって、慎也の家行くの初めてなんだもん」
「そうだっけ?」
「うん」
本当に、嬉しい。
もう、今すぐ飛び跳ねたいくらい。だけど、さすがにそれはちょっと止めておく。
ここが教室だって思い出したのと、慎也に引かれそうな気がしたから。
「それじゃあ、帰ろうか」
「うんっ」
私は頷いて、席を立った慎也の腕に抱きついた。
これくらいなら、いいよね?
「…………」
ちょっと不安に思って、顔一つ分くらい上にある慎也の顔を見上げた。
無表情。っていうか、いつも通りな感じなんだけど――ともかく、嫌そうな感じじゃなかったから、私はそのまま抱きついている事にした。
二人の帰り道が分かれるまで、私はずっと慎也の腕に抱きついたままだった。
夕方からなのか、あまり同級生の姿もなかった。これで同級生がたくさんいたら、恥ずかしがった腕なんか組ませてくれなかったかもしれない。
それでも、今こうして腕を組んでいられる事が――
私にとって、幸せだった……