夏の怪奇
それはある初夏の出来事。
人々に〝夏〟を意識させるかの様に、セミの鳴き声が聞こえ始め、日差しもやや強くなってきていた。
それは毎年訪れる〝日常〟の一環で、人々はそれに対して特に何も思わない。
ただ、「ああ、夏だなぁ」などと思うのが精々だろう。
しかし……
この時期は、一番怪奇が起きやすい時期でもあった。
人々が不可思議な死を迎える事もしばしば……
ただそこには、〝哀しみ〟が生まれる。
そんな時節のある日。
織野英司は、怪奇と遭遇した。それは、〝人が消える〟という怪奇……
「一体どうなってるんだ……?」
声を――そして身体を小刻みに震わせながら、英司は部屋の隅にうずくまっている。
怪奇が起きたのは、キャンプ先の山中。
一緒に来ていた友人が消え、また一人消え――
既に、残ってたのは英司一人となっていた。
結局英司自身は消える事なく、翌朝には英司は一人帰路へと着いた。
目の前にいたはずの人間が、突然跡形もなく姿を消す。まるで、元からその場所には誰もいなかったかの様に……
その光景が如何に異様な事であるか、想像に難くないだろう。
そんな怪奇を目の当たりにした英司は、それからというもの恐怖に怯える毎日を送っている。
いつか、自分の番が来るのではないだろうか。と……
そして、自分がいなくなったら、どうなるのかを考える。
結果、何も変わらないんだろうな。という結論を導いた。だが……
(誰か、哀しんでくれるんだろうか……?)
そんな疑問を覚える。
自分がいなくなって、誰か哀しむ者がいないというのなら、それこそが哀しい事だ。
また、哀しむ者がいるのだとしても、それは哀しい事に変わりは無い。
たとえ自分にどんな未来が待っていようと、おそらくそれは変わらない。
そう……
〝世界は、哀しみに満ちているのだから……〟