届かなかったね……
私の名前は豊笠めぐみ。つい一ヶ月前に、高校2年生になったばかり。
って言っても、今までと何かが変わったわけでもなく、〝日常〟が世界を支配しているだけ。
変わった事と言えば、それは高校2年という肩書きだけ。
後は、本当に何も変わらない。
何も……
「たいくつー!」
机に突っ伏していた私は、突然顔を上げてそう叫んだ。
ここは私の部屋。本来なら、〝勉強〟というやるべき事はある。
あるんだけど……
「つまらないんだよね」
と、一人呟く。
何か、寂しい……
とか言っててもしょうがない。
どこかに出かけようか。そんな考えが、ふと脳裏をよぎる。
ぶんぶんと頭を振って、思い浮かんだ考えを振り払う。
つまらないし、出来ればやりたくはないんだけど……
今目の前にある課題のプリント。これを終わらせない事には、私の安息は訪れない。
だって、これ出さないと補習確定なんだもん……
私の夏休みを返せー! って、まだ決まったわけじゃないんだけどね……
とにかく!
この課題プリントさえきちんと終わらせて、提出さえすれば、私の夏休みは確保出来る。
随分先の話なんだけど、そこがうちの先生のヒドイところ。
〝夏休み〟という、学生にとっては必要不可欠な長期休暇を人質(?)にして、こうして今勉強させている。
つまりは、このプリントは別に私だけに出されたわけじゃなくて、クラスの皆、というか、あの先生の受け持っているクラスの生徒全員に出された課題というわけ。
渡されたのは一昨日。提出期限は明日。プリントの枚数は10枚。
今日が日曜日……って言うか、土日を挟んでなかったら、終わらせるのも難しい内容と量なわけで……
「やってられるかー!」
とまあ、ついつい叫びたくもなるわけよ。
「うるさい!」
私の部屋のドアが開かれると同時に、そんな声が部屋中に響き渡った。
「あんた誰よ?」
「自分の弟の顔も忘れたのか? バカ姉貴」
「冗談よ」
まったく、冗談の通じない弟ね。
と、こいつは私の弟、豊笠のぼる。
顔立ちは(私に似て)いいんだけど、どうにも短気なのがたまに傷だ。
「あんまりバカみたいに叫ぶな。迷惑だ」
「いきなりレディの部屋に入ってくるのも迷惑なんだけど?」
「はぁ?」
何言ってるんだ、こいつは。といった顔つきをするのぼる。
「誰がレディだ? って顔してるけど」
「いや、全くもってその通りなんだけど」
「……失礼ね」
「とにかく、もう少し静かにしてくれ」
あ、流された……
「わかったわよ」
可愛い(?)弟の頼みだもの。少しは汲んであげないとね。
「マジで頼むぞ」
「はーい」
私の返事も聞かずに、のぼるは踵を返して部屋を出ていった。
…………
さて、と……
気分転換も出来た事だし、プリントの続きでもしましょうかね。
私は机の上のプリントに向き直って、シャーペンを握る。
これも、〝日常〟の一環。
〝私〟と〝のぼる〟
〝姉〟と〝弟〟
それ以上でも、それ以下でもないから……
私は、気持ちをしまい込む。
一つ年下の弟。
私の、好きなヒト……
どんなに願っても、届かない想いだから。
私は、忘れるしかない。
今隣の部屋にいるのぼると、のぼるの彼女……
二人の幸せを壊さない為にも……
「さて。勉強勉強っ」
特にしたいわけでもないけど、やらなきゃいけないから。
何かをしていれば、忘れられる気がするから。
私は勉強する。
届かなかったね……
だから、バイバイ。
私の〝想い〟