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★コメディ【10分前後】★

世界で一番”奥歯”を売った人

作者: 有嶋俊成
掲載日:2026/03/14

「さあ今週も始まりました。世にも珍しい特徴や肩書を持つ方を紹介する『奇人変人奇々怪々人パレード』。司会はわたくし木沢です。本日は一体どんな方が登場するのでしょうか? それでは本日のゲストはこの方です!」

 スタジオセットの扉が開く。中から出てきベージュのジャケットを着た人物は、これといって特徴の無い、探せばそこらへんにごまんといそうな三十代と思しき中肉中背の男性だった。

「さあ、こちらへどうぞ。本日お越しいただいたのは、埼玉県にお住いの佐藤太郎さんです。佐藤さん、よろしくお願いいたします。」

「こちらこそよろしくお願いします。」

 スタジオに用意されたソファーに腰掛け、向かい合う二人。

「それでは早速ですが、佐藤さん、あなたの持つ世にも珍しい特徴や肩書はなんでしょう?」

「はい。私の持つ珍しい肩書は、『世界で一番"奥歯"を売った人』です。」

「"奥歯"を売るんですか!?」

「はい。私は奥歯を売って生計を立てています。」

「奥歯を売るということが全く理解出来ないのですが、そもそも誰の奥歯を売っているのでしょう?」

「もちろん、私自身の奥歯を売っております。」

「佐藤さん自身の奥歯ですか!? それじゃ今、佐藤さんの奥歯は一本も無いということですか?」

「いいえほらこの通り、奥歯は全て綺麗に生えています。」

 口を広げてカメラと木沢に中を見せる。歯茎には丈夫そうな奥歯がしっかり全て生えそろっていた。

「ほんとだ、奥歯は全部残ってる。でも奥歯を売るということはその度に奥歯を抜くってことですよね? それなのになんで佐藤さんの奥歯は全て生えそろったままなんですか?」

「私は、奥歯が無限に生えてくるんです。」

「無限に生えてくる??」

「はい。今、奥歯を抜いたら、抜いた場所から大体二週間くらいで新しい奥歯が生えてくるんです。」

「ちょっと信じられないんですけど…。」

「その気持ち、わかります。私も最初はそうでした。」

 佐藤は自分の奥歯について回顧する。

「十年ほど前でしょうか。ある日、映画館でポップコーンを食べていたら、破裂せずに固い豆のままになっていたポップコーンを思いっきり奥歯でかじってしまって、そしたら勢い余ってその奥歯が抜けちゃったんですよ。その時は映画館の中で大焦りしちゃって、とりあえず映画を観終わった後、すぐに歯医者に行こうと思ったんです。そしたらたまたま同じ映画を見てた紳士的なおじさんが呼び止めてきて、『その歯を売ってほしい』って、その場で百万円差し出してきたんですよ。それが、私が奥歯を売るようになったキッカケです。」

「なんて突拍子もないキッカケでしょう…」

「それで奥歯は一個無くなっちゃったけど、百万貰えたならいっか、と思ってそのままにしてたんです。そしたらなんと抜けたところから新しい奥歯が生えてきたんですよ。」

「人知を超えましたね…」

「ただその奇跡が起きたのも束の間、今度は付き合ってた彼女と喧嘩しちゃって、私おもいっきりビンタされちゃったんですよ。そしたらなんと、せっかく生えてきた奥歯が抜けちゃって、『うわマジかよ』って、思ったんですけど、なんとまた生えてきたんです。」

「もう怪奇現象に思えるんですがね…」

「私も当時は本当にゾッとしました。もしかして自分は本当は人間ではないんじゃないかとも思いました。でも隣に住んでたマダムが私の奥歯が抜けたことを聞きつけて、『その歯、二百万で売ってちょうだい』って訪ねてきたんです。それで二百万円の札束を見たら不安が全部吹っ飛んじゃいました。」

「お金の方が勝つんですねその状況で。」

「その後もなんやかんや他の奥歯が抜けるハプニングがいくつも起こりまして、その度に誰かしらがその奥歯を高値で買ってくれて、しばらくしたら新しい奥歯が生えてくるということが繰り返されたんです。そしたらなんだか歯が何度抜けても生えてくる自分に自信が付いてきて、これを本格的なビジネスにしようと思い立ったんです。そして思い切って『株式会社OKUBA』を設立し、今に至るわけです。」

「とても支離滅裂な人生ですね。」

 ここで木沢が最も気になっていた質問をぶつける。

「奥歯を販売されているということは、もちろん奥歯を欲しがる方がいらっしゃるということですが、そもそも、奥歯は一体どんな用途で買われているのでしょうか?」

「うーーーーん…さぁ?」

「えぇ!?」

 衝撃の反応に驚きを隠し切れない。

「自分の奥歯が何に使われているか知らずに売ってるんですか?」

「そうですね。映画館で初めて売れた時も、ビンタの後に売れた時も、札束を目の前にしてそんなこと考える暇も無かったですね。」

「お金よりも遥かに重要だと思いますけれども…」

「まあ、たくさんお金が手に入るんだし、そんな細かい事気にしなくいいじゃないですか♪」

「結構軽い感じで事業展開されてるんですね…。」

「あっ、それじゃ木沢さんに今回は私の奥歯を一本あげちゃいますよ!」

 手を口の中に突っ込み、力ずくで奥歯を引っこ抜く佐藤。〈ゴリッ〉という鈍い音が佐藤のジャケットの襟に付けられたピンマイクに入り込む。

「え?え?え? そんな容易く抜いちゃうんですか?」

「ええ。私の通常業務です。どうぞ。」

 親指と人差し指でつままれた採れたての奥歯を木沢に差し出す佐藤。

「今までで一番受け取りにくいプレゼントですね。」

「大丈夫ですよ。また一週間か二週間で新しい奥歯生えてきますから。」

「そうですか…では貴重な品をありがたく頂戴いたします。用途が全く思い浮かびませんが…。」

 木沢は気味の悪さを隠しつつ、布切れに奥歯を包んだ。

 ここからは佐藤の事業について深く切り込んでいく。

「佐藤さん、奥歯の販売事業…と、言うんですかね? それをする上でなにか苦労などはあるのでしょうか?」

「奥歯を売る上で大変なのは、やっぱり商品の在庫確保ですね。」

「そこちゃんと"在庫"って言うんですね…」

「私の奥歯は無限に生えてくるとはいえ、完璧な状態になるまでには一週間から二週間かかります。要は製造にそなりに時間がかかるわけですね。」

「そこもちゃんと"製造"っていうんですね…」

「繁忙期になると、二十個ある在庫がすぐになくなって、そこから一週間から二週間、製造のために次のお客様を待たせることになります。需要に供給が遅れてしまうわけです。しかしながら、お客様を待たせる期間を出来る限り短縮するため、一日でも早く奥歯がすぐに生えてくるように健康管理をするのが大変ですね。」

「なんか"二十個"という数字がリアル過ぎて気持ち悪いんですけども…奥歯をすぐに生えるようにする健康管理というのは一体どんなものがあるのでしょうか?」

「まあまずは牛乳をたくさん飲むことですね。」

「牛乳ですか。やっぱりカルシウム摂取が重要になるということですかね?」

「ご名答。カルシウムをたくさん採るために。朝、昼、晩全ての食事で牛乳をジョッキ二杯分は飲みますね。」

「聞いたことのない飲み方ですね。流石にそのジョッキは小さ目のものですよね?」

「いいえ、深夜の居酒屋でバカな酒豪が頼むくらいの大きさのジョッキです。」

「口悪いですね…。え~そんな大きさのジョッキで牛乳二杯を食事の度に飲んだら、お腹壊しませんか?」

「私は、胃腸は強い方なのでお腹を壊すことはないですね。ただ夕飯の時は、ジョッキで牛乳二杯飲む前に、そのジョッキでビール二杯飲むので、お腹がたっぷんたっぷんになっちゃうのが結構キツいですね。」

「牛乳飲む前にビール飲むんですね…。しかも同じジョッキで二杯ってことは結構な量飲むってことですよね。そこは減らさないんですか?」

「飲まなきゃやってらんないですよ~奥歯販売は~」

「あんま共感できないですね…。」

「そうですか? 私の奥さんは結構納得して牛乳とビールにかなり生活費捻出してくれますけど?」

「奥さんもかなりぶっとんだ方ですね。」

「さっき話したビンタで奥歯が抜けた事件を機に一層絆が深まったんですよ。」

「あ、その彼女さんと結婚されたんですね。」

「今でも奥歯を抜くときにたまにビンタしてもらってます♪」

「ドMじゃないですか…すごい目キラキラしてますよ…。」

 ここからは奥歯販売事業のこれからのビジョンについての話題に入る。

「ここまで奥歯販売事業のきっかけですとか苦労ですとか話していただきましたが、将来については一体どのようにお考えでしょうか?」

「それはもちろん、奥歯市場をもっと大きくして、競合他社にも勝つことですよ。」

「競合他社とかいるんですかね? 奥歯を売ってるの佐藤さん以外にいないと思うんですが…?」

「なに言ってるんですか! 確かに奥歯を売っているのは僕だけです。僕のライバルは八重歯販売会社です!」

「八重歯も売られてるんですか!? 全然聞いたことないですよ…。」

「まあ今のところは西日本でしか販売されてませんから、関東に住んでいる方は知らないかもしれないですね。」

「あ、そういうことですか。歯の地域限定販売とかあるんですね。」

「だけど最近は全国販売する予兆を見せてるんですよ。」

「あんま全国展開するメリット感じませんけどね。」

「なに言ってるんですか! 悔しいですけど、八重歯は僕が販売している奥歯よりも実用性があるんです。だから、全国展開されれば間違いなく奥歯販売事業の脅威になります!」

「実用性って…一体、何に使われるんですか?」

「まず鑑賞用ですね。」

「鑑賞用ですか?? 八重歯を家で鑑賞する人の気は確かなんですかね?」

「あとは大切な人への贈り物としても重宝されていますし。」

「気持ち悪すぎるでしょ…だって買った八重歯ってことは誰のかも知らない他人の八重歯ってことですよね?」

「だって自分の八重歯を抜くのは気が引けるじゃないですか。」

「自分の八重歯を贈るのも十分気持ち悪いですからね。」

「あとは建築現場で釘としても使われています。」

「凄いヤダな…他人の八重歯が自分の家の中に埋め込まれてるって…。大体金槌で打った瞬間粉々になるでしょ…。」

「まあこんな風に八重歯は本当に奥歯事業にとっては手ごわい天敵なんです。」

「奥歯の用途は不明瞭なのに八重歯の用途はそんなにハッキリしてるんですね…。」

番組は終盤に差し掛かり、世界で一番"奥歯"を売った人・佐藤の最後のコメントで締めくくられる。

「それでは佐藤さん、ここまで奥歯販売事業について語っていただきましたが、最後にお知らせがあると?」

「はい。只今、株式会社OKUBAでは、新たに前歯販売事業を始めたいと思っています。そこで、視聴者の皆さまの中に前歯が抜けても何度でも生えてくる方がいらっしゃいましたら、ぜひOKUBAにご一報ください。」

「絶対いないよ…」


  ―終わり

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