第二章 龍族2
第二節 歓迎
≪よくぞ参られた。我らの星へたどり着けた者は数少ない。久々の客人ゆえ、盛大にもてなそう≫
ジェイクとミリアは、龍族の集落に着くなり、とてつもない歓声に見舞われた。
龍族とは、なんとも鮮やかな色彩に彩られていた。
紅・朱・緑・碧・青・藍・黒・灰・白・黄・白金・金・銀。
髪の色がなぜこんなにも多様なのかと聞けば、鱗の色だ、と答えが返ってきた。
振り向けば、これまたなんとも言えない美しい男性が立っていた。
とたんに歓声が消え、一斉に全員が跪いた。
そして、冒頭のセリフである。
「あんたが、長老か?ずいぶん若いが・・・」
案内してきた男が、みるみるうちに青褪めた。
どうやら、ものすごく失礼だったらしいとジェイクは思ったが、既に遅い。
≪よい。我ら以外に我らの年齢が識別できる種族はいないからの。≫
長老は、宴の準備をするよう案内してきた男に命じると、ついてこい、と言ってゆったりと歩き出した。
隣を見ると、既にさっきの男はおらず、さらに、ミリアに至っては放心状態。
ヒューマノイドとして、放心状態とはいただけないが、さすがにこの状況はAIにとっても許容オーバーらしい。
ミリアをこのままにしておくのも気が引けたのか、ジェイクはミリアを活動休止状態に切り替え、抱えあげながら長老の後に続いた。
程なく、やや装飾された一軒の家にたどり着いた。
長老はさっさと中へと入っていくので、ジェイクもそれに倣った。
内装は実にシンプルで、威圧感や居心地の悪さも感じない。
ジェイクは感心しながら室内を見渡していた。
そして、心の奥に若干の懐かしさが滲んでいるのも感じていた。
そう。
懐かしいのだ。
何故かは分からないが、とにかく安心できる。
ここには一度も来たことはない。
それなのに、体も心もこの場所を覚えている気がするのだ。
≪茶の用意ができた。こちらに座ると良い。≫
長老の声にハッとなったが、とにかく冷静さを保ちながら振り向いた。
そこには、慈愛に満ちた表情の長老が、さほど大きくないテーブルの一角に座っていた。
ジェイクはとりあえず話をしたかったし、疑問は直接彼にぶつけるのが手っ取り早い気がしていたので、失礼する、と声をかけ対角の椅子に腰掛けた。
≪懐かしいだろう?≫
彼の言葉に絶句した。
彼には自分の心が分かるのか?と警戒心を顕にしたジェイク。
それを見ていた長老は、クスクスと笑いをこぼした。
≪私は随分長く生きている。だから、と言うのは些か語弊があるが、そなたは私の良く知っている者によく似ている。おそらく、彼女の血筋を引いているのだろう。≫
ジェイクは眉をひそめた。
先祖は、この地を訪れていたのか。
だが、それは望郷の念を抱く理由にはならない。
真意を理解できずにいると、また含み笑いをされた。
≪語弊がある、と言っただろう。あまり率直に真実を伝えるのは心が重いのだよ。いづれ、改めてこの話をしようか。どうやら宴の用意が出来たらしい。≫
長老はそう言って席を立つと、入り口に向かって歩き出した。
これ以上話をしないのであれば、ここにいる理由もない。
ジェイクも立ち上がる。
ミリアはまだ起動停止中だが、連れて行くべきだろう。
ジェイクはミリアを抱えて館を後にしたのだった。