第一章 未開の地3
第三節 邂逅
宇宙標準時間で半日ほど進んだころ、空も変化し始めていた。
月こそないが、明らかに夜を迎えようとしているのだ。
本当に地球のようである。
これまで訪れた惑星に、昼と夜の区別はなかったし、そもそも、太陽系は今や人間が住める環境にない。
太陽はまだあるのだが・・・。それこそ、あと50億年弱は存在し続けるだろう。
だが、肝心の地球はすでに崩壊していると言っても過言ではない状態だった。
自転・公転の周期は今この瞬間も徐々にスピードを緩めつつあり、人間が住むにはあまりに過酷な環境になってしまっていた。
シェルター化した地下都市を形成し、頑なに地球で暮らし続けている人々もいれば、地球を見限って宇宙に進出し、新しい人類の行く末を模索している人々もいるのだ。
【開拓者】であるジェイク達もまた、あらゆる世界を旅し、ヒトが生きる未来を模索していると言って良いだろう。
『ジェイ、そろそろ野営の準備、したほうが良いんじゃない?』
ミリアが言った。
確かに、未開の地で夜間に行動するのは良いとはいえない。
ジェイクはミリアに「後は頼む」とだけ言うと、少し離れた場所に腰を下ろした。
今日のログを確認するのだ。
と言っても、別段変わったこともなければ、興味をそそられるようなモノもなく、ジェイクは数日前に感じていた好奇心を失いかけていた。
『ジェイ!!後ろ!!』
ミリアの叫びと何かの気配に気づいて瞬間的に飛びのいたのは同時だった。
そこにいたのは【ヒト】だった。
なぜか、妙にニコニコしている。
≪БФЁ?≫
何を言ったのか理解できなかった。
すでに隣で警戒態勢に入っているミリアも怪訝な表情だった。
『ジェイ、ロシア系の発音に近いけど文法がまったく違うみたい・・・私のデータベースにもないよ?』
これでは、意思の疎通もままならない。
と、その時。
≪アア、げんごニはいりょシナカッタわたしガわるイ。ひさびさノほうもんしゃダッタカラ≫
・・・確かに理解できる言語を話してくれたが・・・相当、無理矢理な話し方だった。
それにしても、
「久々の訪問者?ここには以前にも、誰か来ているのか?だったらなぜ、座標軸がないんだ?」
ジェイクは至極当たり前のことをつぶやいた。
≪おお、今はソノヨウナ発音がシュリュウなのか?≫
ミリアが驚愕している。
言語順応力が高すぎるのだ。
さらに追い討ちをかけるように、正体不明の人物がこう言った。
≪ひゅーまん、と見受けタガ、ソチラノ女性は生体反応がナイ。人類ハ500年近くノうちに相当進化シタらしいナ≫
一体、こいつは何者なのか。
ジェイクとミリアはさらに警戒心を強めたのだった。