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アルファガールとオメガボーイ  作者: 命知叶


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7/22

女性アルファ


学校の最寄り駅から少し離れた繁華街の駅近くに、目的の企業はあった。一つはパンフレットの裏表紙をフルカラーで出稿してくれる大口の企業、一つは毎年複数口出稿してくれる企業だ。大口の方はプライム上場の企業で、学校の卒業生が役員を務めている関係から協賛してくれているのだと聞いていた。


受付でアポイントの確認をして待つこと二分、足早にやってきたのは爽やかなグリーンのパンツスーツに身を包んだ女性だった。まだ若く見える。

「こんにちは、開邦学園高校の方ですか?」

「はい。お忙しいところにお時間をいただきましてありがとうございます。文化祭実行委員長の入相和煌(いりあいあきら)と申します。よろしくお願い致します」

滑らかに挨拶をする和煌の横で、耿良も慌てて頭を下げた。スーツの女性はにこっと会釈を返してから、玄関ホールの奥にあるカフェスペースを指した。

「あそこで少しお茶でも飲みましょう。会社の持っているカフェですから遠慮なく頼んでください」


勧められるがままにカフェスタンドで飲み物を選び、奥のテーブルに座る。長身の女性は座っていても背筋が伸びていて姿勢が美しかった。女性は座った和煌を見て言った。

「ひょっとして剣道やってる?」

「はい、もう引退しましたが・・」

「ああ、やっぱり。姿勢がいいからすぐわかるわ。私も少しだけやってたの。事情があってやめちゃったけど」

そう言って笑う女性を見ながら、耿良はこの女性もアルファであることに気づいた。

和煌が差し出した書類を見ながら軽く内容の確認をすれば打ち合わせはすぐに終わった。女性は書類を一部受け取り、認証印を捺したものを後日学校のほうへ郵送すると言ってくれた。

つつがなく終わって礼を言い、辞去しようとした和煌に女性は言った。

「あなたもアルファよね?」

和煌はちょっと驚いた顔を見せたが、すぐに頷いた。

「はい」

女性は笑顔の中にも少し鋭い目をして言った。


「もう、実感してるかもしれないけど、楽な人生じゃないわ。でも頑張れば評価してくれる人もいるから頑張って。何かあったら相談に乗るから」

そう言って和煌の手に名刺を渡してくれた。和煌は名刺を見てから大事に鞄にしまい、女性に深く頭を下げた。

「ありがとうございます。・・肝に銘じます」

「ん、じゃあまた!」

来た時と同じように、女性は軽やかに走り去っていった。





ビルの玄関を出るとビル風が強く吹きつけてきて、ぶるっと震えた。思わず両腕を抱え込むようにしていると、和煌が耿良の背に手を添えて陽の当たる方に誘導してくれた。

「あ、thanks」

「やっぱり、発音はいいんだね」

そう言って和煌は笑い、鞄を肩にかけなおした。

「さて、次もこの近くだけど少し歩くよ。寒い?もう一回あったかいもの飲むとかする?」

「いや、大丈夫」

首を振った耿良は和煌の顔を見上げた。

「なあ、さっきの人、何であんなこと言ったんだ?楽な人生じゃないって・・あんたもあの人もアルファだろ?」

「ああ・・」

問われた和煌は、どうしようかという戸惑いの顔を見せて力なく笑った。そして、耿良に問い返した。

「君の近くに、女性アルファっている?」

「え」

耿良の父と兄はアルファだが、ほかにアルファはほとんど知らない。女性アルファだと認識したのも和煌が初めてだったのだ。

「いや・・日本に来てからが初めて、だと思う、会ったのは」

「そう・・」


ふう、と和煌は短く息を吐いた。そして少し思案してから口を開いた。

「あんまりピンと来ないかもしれないんだけど・・アルファって、ある意味本能の部分では同じアルファって敵認定なのよね」

「ああ、そういうのは何か聞いたことある」

兄や父の学校や仕事での付き合いについて聞くとき、そのようなことを耳にする機会はあった。

「でも、特に女性アルファって、目の敵にされるんだよね・・アルファはもちろんだけど、ベータの男性とかにも結構強く当たられることが多いし、ベータ女性の中にもいやな感じで接してくる人が多い。・・アルファ男性に、そういう目を向けるベータの男女は少ないのにね」

そう言って和煌は、また弱々しく笑った。その表情を見た耿良の胸はなぜかずきりと痛んだ。

「まあ、アルファだから・・恵まれてるとは思うけど、女性だからぶつかる壁もあるんだ。そういうことを、あの人は言ってくれたんだと思う」

「そ、っか・・」


心のどこかで、アルファなんだから人生の勝ち組だろ、と勝手に僻んでいた自分を耿良は恥じた。そういうくくり方を———オメガだから、と言われるようなくくり方を自分が嫌悪してきたくせに人に対してはしていた自分を顧みて情けなくなった。

和煌は気分を切り替えるように明るく言った。


「さて、言葉遣いとかはわかった?ああいう言い方でやってほしいの。企業相手だし、しゃべり言葉はダメ。・・ということで、次のアポイントまで少し時間があるから・・これからは丁寧語で話しましょうか、佐藤さん」

「へ?あ、うんわかった」

「わかりました、でしょ!」

そう言って歩き出しながらくすくす笑う和煌からは、やはり爽やかな柑橘の匂いがしていた。



お読みくださってありがとうございます。

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