否定と受容
すみません、予約時間を間違えておりました。
基本的に15時投稿にする予定です。
(マジかよマジかよくそ!何でだよ‥)
耿良はイライラしながらずんずんと教室に向かっていた。まさか、転校先でフェロモン相性のいい相手に出会うなんて。しかも、
(女かよ‥!)
耿良は、男性アルファの父と女性オメガの母という家庭で生まれ育った。アルファの兄もいる。つい先日まで父の仕事の関係でアメリカで暮らしていたのだが、日本へ戻ることになった。そこで、言語や第二性への対応がしっかりしているこの学校に編入してきたのだ。
耿良は第二性の診断を受けても、自分がオメガであることがなかなか受け入れられなかった。薄々、自分の体格だったりよく風邪を引いたりすることなどからオメガかもしれないとは思っていた。だが、祈るような気持ちで臨んだ診断でオメガと言われ、落ち込んだ。
耿良は荒れた。勉強する気も失せたし運動する気も失せた。どうせ勉強したところで、優れたアルファや身体が丈夫なベータには敵わない。三か月に一度七日から十日も休む人間に大事な仕事を任せてくれる会社がそうそうあるとも思えない。そう考えれば、将来に希望が持てなくなった。
何より、いずれ自分が子どもを産むのかもしれないと思うとぞっとした。鶏じゃあるまいし尻から産むって何だよ。‥俺は男なのに。
耿良はどうしても、第一性に強く引っ張られてしまう自分を感じていた。第二性を受け入れられないのだ。
しかしいつまでも腐っている訳にもいかない。学生のうちに勉強もしないヤツは家に置けないぞと父に叱咤され、重い腰をあげた。なんとか通学を再開し日々の生活は送れるようになった。
だが、ただ、生活を送っているだけで、特に夢も希望を持てなかった。ただ無気力に日々を過ごす、そんな耿良を見てオメガである母は泣いた。
オメガだって人間だよ。オメガだってやりたいことはやれる。私も自宅だけど仕事をしてるでしょう?そういう母さんの姿は、耿良には見えないの?無価値なものにしか見えない?
耿良はぶん殴られたような衝撃を受けた。なぜ気づかなかったのだろう。オメガである自分を蔑むことはオメガである母を蔑むことだ。父の転勤でアメリカに行ってもなお、ネット環境を駆使しエンジニアの仕事を続けている母、自分と兄とを育てながら、そしてオメガの生体虚弱期間である発情期をも乗り越えながら日々暮らしている母。
無論、アルファである父も家庭の共同運営者としてしっかり母をサポートしてはいたが、発情期の辛さはおそらくアルファにはわからないだろう。
耿良は泣いた。泣いて母に謝った。そして、自分も頑張ると母に誓った。
ちょうどそのころ、日本への帰国が決まったのだ。
耿良はかなり頑張って勉強した。日本語は日常会話には困らないが読み書きになるとあやしいところがあった。だがせっかく編入するならそれなりにいい学校に入っておきたい。そう思って必死に勉強した。アルファの兄も協力してくれた。
そして、この学校に編入してきたのだ。特進クラスには入れなかったが、三年次にも編入できるチャンスはあると聞き、しっかり勉強しようと心に決めていた。
なのに。
(運命?知るかそんなもん。‥女アルファなんか‥女に入れられるなんて考えらんねえよ)
ずんずん歩く耿良の背中にドン!と何かがぶつかってきた。
「ちょっと佐藤氏!なんで帰っちゃうんだよ、お昼どうすんの?」
後ろからぶつかってきたのは、同じクラスでベータの土屋才治である。才治は耿良が編入してきたとき、席が隣だったのだが、その時ずけずけと
「うわ~俺男のオメガって会ったの初めて。興味ありありでっす!よろしく!」
とかいうふざけた言葉を吐いた人間だ。耿良はムカッと来てそのまま才治の机を蹴っ飛ばし、編入早々担任教諭から説教を食らった。
が、その時才治が言ったのだ。
「あ~すんません、多分俺が無神経なこと言っちゃったんで、俺のせいっすね」
才治の弁明を聞いた教師は渋い顔で、今度から気をつけろよ、とか何とか言って耿良を解放してくれた。
そして才治は耿良に頭を下げたのだ。
「ごめんな~佐藤氏、俺ねえ、言葉のチョイスがよくないみたいで。でも佐藤氏とは仲良くしたいな~」
何だか毒気を抜かれた耿良は、まあいいけどと思わず言ってしまって、それからの仲である。
才治は確かに言葉の選択はよくないが、裏表がない、興味があることには素直にどんどん突っ込んでいく。ある意味子どものような面を持っている男で、付き合っていると面白かった。オメガの生態についても知りたがり、知ったところで同情するわけでも憐れむわけでもなかった。「そうなんだ」で終わりである。そんな才治と付き合っているのは結構楽だった。
「いてえな」
そう言って睨むと、才治はへらっと笑った。
「俺今日チキン南蛮定食の口なんだけど。食堂行かねえの?」
「‥俺は、売店に行くわ」
「ええ、なんで?さっき佐藤氏もチキン南蛮って食ったことないって言ってたじゃん」
「そう、だけど‥」
ひょっとしたらあのアルファの女がまだいるかもしれない。顔を会わせたくない。長くあのアルファのフェロモンに触れていたくない。
だがそれを説明するのも鬱陶しい。
立ち止まったまま、どうすべきか耿良が考えていると、才治が問答無用とばかりに耿良の腕を取ってぐいぐいと引っ張り歩き出した。
「とにかくさ、俺はもうチキン南蛮の口なわけよ。だから佐藤氏も一緒に行くべし!」
ずるずると才治に引きずられながら、耿良は思った。
万が一、あの女アルファがいたら息を殺して観察しておこう。
今後できるだけ関わりたくもないし、そのためには相手の情報も必要なのだから。
そう心に決めることができたので、才治に引きずられるまま食堂へ向かった。
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