『運命』
新連載です。初のオメガバースものになります。独自設定も入れています。
よろしくお願いします^^
「は?」
「え?」
食堂に繋がる廊下に出たところで、二人の生徒がそこに立ちすくんだ。
女子生徒の方は、高等部三年生の入相和煌。
男子生徒の方は、高等部二年生の佐藤耿良。
お互いに初対面で名前も知らない間柄だったが、奇しくも同じ名前の二人だ。
二人の間の距離はおよそ四メートル。それぞれの連れである友達が、それぞれの顔を怪訝そうにのぞき込んでいる。
(オメガ、男子‥)
(アルファじゃん‥)
おそらく、巷間で噂される『運命』と呼ばれるような相性のいい個体。
自分たちは、それに巡り合ったのだろうということが瞬時にしてわかったのだ。
アルファ女子、和煌は思った。こんな生徒見たことないんだけど、なんで?と。
オメガ男子、耿良は思った。転校してすぐこういうのに会うなんて、ついてねえ、と。
世の中に多数散見されるドラマや映画、小説のようにそこでひしと抱き合う、とはならなかった。
二人はお互いに、くるりと背を向けて食堂を後にしたのだった。
「え?何?どしたの?」という、互いの友達の声を背に受けながら。
この世の中には、人類の性区分が五つ、ある。男、女、それに加えてアルファ、オメガ、ベータ。
ざっくり分けると男は産ませる性、女は産む性。アルファは産ませる性、オメガは産む性。ベータは男女に準じる。
つまり、アルファであれば女であっても産ませる性が強くなり、オメガであれば男であっても産む性が強くなる。
この性区分は、類人猿と人類に見られるもので、またほかの生物の性区分にはもっと違ったものもあるらしい。
人類においては。人口のおよそ八割がベータ。残りの一割ずつをアルファとオメガで占めている。
アルファは全体の傾向として、頑健であり頭脳明晰であったり何かに特化した才能を持っていたりする場合が多い。オメガは全体の傾向として、虚弱なものが多くうまく体調を管理しないと短命で終わってしまう。ベータは虚弱なものも頑健なものも、また平均並みの身体の者もいる。そしてベータはとびぬけた天才が生まれることは少ないが精神的に落ち着いているものが多い。
アルファとオメガはそれぞれどちらかがアルファとオメガであれば半分の確率で生まれるが、アルファとオメガの組み合わせでなら八割の確率でアルファが生まれる。
また、稀にベータ同士であってもアルファやオメガが生まれることがある。
オメガは発情期と呼ばれる生体力減衰期間があり、個人差はあるが大体三か月に一度は体力が減退し休息を必要とする。ただし、「発情交」と呼ばれる性交に及ぶ場合には。体力は発揮される。また、性交相手を欲するオメガフェロモンを滲出し、アルファやベータを発情させてしまう。特にアルファに対しては強い効果を発揮すると言われている。
オメガは発情交の最中に、アルファに項を噛まれることによって「番」とされる。番になれば、発情期に洩れ出すオメガフェロモンが番相手にしか香ることは無くなり、その後発情期の体力減退が緩やかになる。
ただし、この「番契約」は、基本的に一度きりしか行えない。
だから、オメガと診断されたものは不用意に噛まれぬようネイプガードを装着している。
(あの子、ネイプガードしてたっけ‥?)
和煌は歩きながら考えていた。一瞬しか見ていなかったが、まあ確かにオメガっぽい男子だった気がする。少し線が細くて顔立ちも柔らかそうだった。
ああ、しかし。
(男かあ‥)
自分がアルファと診断された時から、そして夢精をした時から、自分は抱く方なんだろうなあとは思っていた。
だが、抱く対象としてはかわいい女子かな、と思っていた。男子を自分が「抱く」という想像ができなかった。和煌は中高一貫、付属大学ありのこの学校に高校から入って、初めて自分以外のアルファやオメガに会ったのだ。
和煌の両親はともにベータで、ごくごくありふれた普通の家庭だった。だから中学までは公立だった。
第二性の診断は小学五年の段階で一度、高校二年の段階で一度と、二度実施される。高校の検査は小学生時の診断が曖昧なものだけが対象なので、大体の人は小五で第二性が判明する。
和煌は小五の検査でアルファと診断された。まあ、そうだろうな、とは思っていた。やけに自分だけ背は高いし病気もしない、授業は退屈に思えるくらい学校の勉強はつまらなかったからだ。
だからアルファと言われても、ああ、やっぱりな、と思っていた。
それでも友人と離れがたく、中学は公立へ進んだ。しかしそれは和煌にとっていい判断ではなかった。やはり勉強はつまらなかった上、和煌をアルファと知っておもねってくるものや逆に集団から弾いたりするものが現れた。
くだらないなあ、と和煌は思った。面倒だったから中学三年になればほとんど学校へは行かなかった。和煌を巡って生徒が喧嘩をしているのも嫌だったし、変に媚びへつらってくる人々を見るのも嫌だったのだ。
そこで、偏差値も高くアルファやオメガの受け入れでも評価の高いこの一貫校に高校から入学した。アルファ特別試験を受けた和煌は特待生扱いで入ることができ、学費の負担が随分少なく抑えられたことで両親を安心させることもできた。
高校生活は楽しい。勉強の難易度も上がり、同じレベルの生徒も第二性を問わずいた。和煌のいる特進クラスは、三分の二はアルファだったが、残り三分の一はベータで、一人だけオメガもいた。皆同じように勉強熱心だったし、興味の先も似ているものが多かった。成績によって二年進級時と三年進級時に入れ替えはあるのだが、入れ替わるのはほぼベータだけで、それも三、四人くらいだった。特進クラスに元々いるようなものは、やはり努力を怠らないのである。
特進クラス唯一のオメガは、いかにもオメガといった風情の女生徒だった。濡れたような大きな黒い瞳、背も低く、手足は折れそうに細い。色も透き通るように白く、体育なんてやってて大丈夫か?と思わせるほど華奢だった。
が、このオメガ女子は大層口も悪く、性格も男前で「詐欺オメガ」と呼ばれていた。アルファが多いこの特進クラスでも成績は真ん中より下になったことがない。この「詐欺オメガ」は、ともに高校からの編入組で和煌の友人でもあった。
「ねえ、きら、きらってば!ご飯食べないの?」
「詐欺オメガ」こと、神田いつみが後ろから追いついて和煌の腕を掴んだ。
「あ~‥そっかあ‥」
そこでようやく和煌は立ち止まった。いつみは和煌の顔を覗き込んで不思議そうに言った。
「お腹空いたぁ!って言ってたのに、急に立ち止まって食堂から離れるからびっくりしたよ。‥あの二年の男子、知り合い?」
この学校では上履きの色が学年によって違うので、何年生かはすぐにわかる。
和煌は何と言えばいいか、迷った。
「いや、知らないけど‥」
いつみは、はっとした顔をして口に手を当てた。そして両手で和煌の腕を掴むと、がくがくと揺さぶってきた。
「え?え?まさか‥出会っちゃった感じ?」
和煌は返事ができなかった。
男オメガは、嫌だなと思っていたからだ。
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