私だけの動く絵
「これからどうしようか。私たちこんな格好で街にも戻れないし、帰る家もないね。」
年下に見える彼女に私はなんの相談をしているのだろうか。情けない。しかし、警察に行くこともできない。
「私の秘密基地。そこなら着替えられるよ。誰もいないし、誰も知らないから。いこ。」
「そんなところがあるんだね。私がお邪魔してもいいの?」
「うん。アオイさん…?ならいいよ。」
そう言って私たちは立ち上がった。そして周りの景色が彩り豊かでカメラに収めたいほど美しい光景になっていた。真っ暗闇の、地獄のような昨日から、まるで神様が私たちの最期の為に用意してくれたのかと思うほどに美しかった。山の斜面を満開の桜が埋め尽くし、雨のお陰でできた小さな滝に虹がかかっていた。
「わぁ…綺麗。」
「でしょ。私の私だけの絵なんだ。毎日少しづつ違くて、それが好き。景色というよりは、動く絵かな。でも今日からはアオイさんと私、ふたりのものだね。」
小さな幸せを毎日噛み締めて、微かな光を信じて生き続けようとしているアカリちゃんが眩しかった。あまりにも情けない自分が憎たらしかった。明日のために、彼女が生き続けている日々のために、私も生きたい。小さな希望を信じてみたい。
死ぬ場所を求めて彷徨ってた行き先が、まさか生きるための道になっていたなんて。
「うん。ありがとう。大切にするね。」
私は彼女に今できる最高に純粋でまっすぐな笑顔を向けた。そして、右足の靴と靴下を脱ぎ、アカリちゃんに差し出した。
「ごめんね。新品じゃないし、汚いし臭いかもしれないけど。半分どうぞ」
「何言ってんの!!面白いことするね。ありがとう。」
そう言ってアカリちゃんは私の片足分を身につけてくれた。靴と裸足を片足づつ。私たちは秘密基地に向けて歩いた。
こんばんは。
読者の方にも「自分だけの何か」はありますか。
私はあるようで、まだ探しているような。
創作中のこの物語がそうであって欲しいとも思います。
日々の中で、自分の特別なものを
ささやかなことでも一つあるだけで、ちょっと人生が特別になるような気がします。
次の投稿からは「アカリ」の物語が映る予定です。
どうかお楽しみに。