天使か悪魔か
どれくらい走り続けているのかわからない。それに今自分がどこにいるのかもわからない。ただ、最期になる場所を探してひたすら走り続けている。眩しいくらいに照りつけていた街灯はなくなり、足元すら見えない。さすがに転んで崖から落ちて死ぬとかはゴメンだ。最期くらい良いところ探したい。
たまに薄み悪いくらいに現れる微力な力で地面を照らす街灯は、更に私の心を抉りちぎってくる。
「生きるなってことかよ」
そんな風にしか考えられなかった。雲の間から照らす月の光から天使でも現れないかなと思ったが、今の私には史上最悪の悪魔がちょうどいいだろう。
気が付けば、生活音の代わりに川の音が激しく聞こえてきた。せせらぎではなく、一歩でも川に入れば流されてしまいそうな、そんな音だった。
普段、四六時中座って仕事をしている私にとって、このマラソン大会のような小旅行は体力限界を突破していた。だから、走る足を止めて歩き始めた。
真っ暗で川の雑音だけが響き渡るこの道は、とても落ち着く環境になりつつあった。大声で悪口を言っても、愚痴を吐いても、泣き叫んでも、誰にも聞こえない。
あぁ、私一人なんだ。一人で死ぬんだ。
しばらく歩いていると、最後の力を振り絞るような光で地面を照らす街灯がいくつか現れた。そして、その麓に人が座っている。こんな暗闇で何もない場所。しかもこんな真夜中になぜ。いろんな疑問と少しの恐怖があった。
本当に天使でも現れた?いや、本当に史上最悪の悪魔かもしれない。もしくは…。幻想と現実を混濁させながら近づいていった。
「あの、どうしましたか」
私は彼女の前に立ち、声をかけた。
三月後半とはいえ、夜はまだ冷え込む。にも関わらず薄手のシャツにボロボロの短パン。手には血まみれの鋏を持っていた。
天使とは言い難い。かといって悪魔はあまりにも可哀想な表現だ。この娘は一体どこの誰なんだ。
彼女は怯え切った表情で顔を伏せたまま私を見ない。声を出そうとしているが、震え切っているため「あ、あ…」としか言葉を発せていない。
言葉を失った、もしくは知らないのかもしれない。こんな山奥で意気消沈しているくらいだから野生で育ったのかも。あまりにも異世界ファンタジーのような考えだとも思ったが、目の前に起こっている現実は本当にその有様だった。
この娘の為に今何ができるだろう。いや、変に手を出す方が襲われてしまうかもしれない。でも、この娘に殺されるなら最期には相応しいや。とにかく「何かをしてあげたい」の一心だった。
しかし、彼女の隣に座り込み自分の手を重ねてあげることしかできなかった。死ぬと生きるを現実に見せられ、私自身も怯えていた。人肌が人情が恋しくなっていた。
お母さん…。
こんばんは。
本日も最後まで読んでいただきありがとうございます。
自分の気持ちと相反することってよくあります。
その葛藤にもがき苦しむからこそ、人生って面白いなって思います。
続きを読みに、また来ていただけると嬉しいです。