表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/15

09.革命前夜 記憶喪失の彼が最後に下した決断

 青年は思い出した。己の名と、自身が異世界の住人であることを。

 退屈な男子高校生・渡一夜ワタリカズヤは魔人にそそのかされ、魔王が人間を支配する異世界へ転移。同時に、元の世界での記憶を全て失ってしまう。

 カズヤは「この世界にはいない珍しい生物」としてオークションにかけられ、警備隊の青年・ナハトに助けられる。ナハトは魔王に忠誠を誓う警備隊でありながら、革命軍のリーダーとして暗躍していた。

 カズヤは助けてもらった礼に手を貸し、魔法戦術の才能を開花。行方不明だったナハトの妹・ナイエを救い、ナハトが最も信頼する相棒にまで成長する。

 カズヤは転移者が残した〈遺物〉を集めるうちに、自身も転移者だったことを思い出す。日に日に募る、「元の世界に戻りたい」という思い。ついには他の仲間には内密で、ナイエに元の世界へ戻る魔法の開発を依頼する。

 革命戦争、前夜。仲間が決起集会で賑わう中、カズヤはナイエに呼び出される。

 革命前夜。カズヤはナイエに「話がある」とパブの裏へ呼び出された。

 パブでは革命軍の仲間が決起集会と題した宴会を行い、騒いでいる。いつもは真面目なナハトも、今日ばかりは宴会に加わっていた。

「ナイエ、どうした?」

 黒いローブの少女。三日月の金細工が鈍く光る。魔法火に照らされていなければ、闇に吸い込まれてしまいそうな儚さを秘めていた。

「できた」

「できたって、何が」

「あなたを元の世界に帰す魔法」

 世界から音が消える。魔人に異世界へ拉致され、一年。カズヤはこの瞬間を待ち焦がれていた。

(やっと……帰れる)

 世界に音が戻る。仲間達の騒ぐ声。現実に引き戻され、ハッとする。

 明日、革命軍は反乱を起こす。

 カズヤがいたから、ここまで来れた。明日の戦いも、カズヤが主な戦力となる。今、元の世界へ帰るわけにはいかない。

「ありがとう。明日の戦いが終わったら、お願いできるか?」

 ナイエの表情がかげる。口を真一文字に結び、首を振った。

「ダメ。使えるのは()しかない」

「今って……」

 仲間達の笑い声。グラスを打ち付け合う音。明日の不安を忘れようとしてか、どこかわざとらしい。

「今は今。待てても、夜明けまで。戦いが始まったら、もう元の世界には戻れない。因果律が確定し、この世界の人間として運命が決まる。明日の革命戦争は、この世界の特異点……その事象に関われるのは、この世界の住人だけだから」

「だが、俺がいなくなったら、みんなは!」

 ナイエは断言した。

「死ぬ、確実に。そして、革命も失敗に終わる」

 以前、ナイエは予言した。

 革命戦争は時期尚早。カズヤがいなければ、革命は成功せず、革命軍は確実に敗北すると。カズヤがいることで、未来は未知数に変わるのだと。

「みんなを置いて帰れるわけないだろ!」

「でも、カズヤだけは助かる! 記憶だって、元の世界に戻れば、完全に思い出すかもしれない! カズヤはこの世界の人間じゃないんだから、私達と心中しなくたっていい!」

 怒りをあらわにするカズヤに対し、ナイエも声を荒げる。

 常に冷淡な少女が、らしくもない。さいわい、喧騒がナイエの声を掻き消し、仲間の耳には届かなかった。

「仮に、元の世界に戻ったとして、こっちの世界の記憶はどうなるんだ?」

「多次元不可侵の制約で、異世界での記憶は持ち帰れない。元の世界に戻った瞬間、こっちでの記憶は全て失う」

 己の身の安全と記憶を取るか、この世界の未来と仲間の命を取るか。カズヤはナイエに背を向ける。

「……少し考えさせてくれ」

「待ってる」

 ナイエはカズヤを見送った後、涙をこぼした。


 §


 パブには戻らず、真っ直ぐ宿に帰る。ベッドに寝そべると、そのまま意識を失った。

 夢を見た。カズヤは制服を着て、元の世界の街を歩いていた。

「カズヤ、何してんだよ」

「早く来いよ」

 友人が呼んでいる。制服を着た、人間の友人。顔はぼやけているが、友人だとカズヤには分かった。

「今行く!」

 カズヤは走り出す。背後から悲鳴が聞こえる。戦火の熱と、焼けこげる臭い。そして、誰かがカズヤの名を呼ぶ声。

(行くな! 戻れ!)

 カズヤの意思とは裏腹に、制服を着たカズヤは振り返りもせず、友人のもとへ去っていく。

 遠ざかる自身に手を伸ばしたところで、カズヤは目を覚ました。外は白み、夜明けが迫っていた。


 §


 革命軍の仲間はパブで眠りこけていた。死屍累々と表現するに相応しい。今日が人生で最後の日になるかもしれないのだから、あれくらいハメを外させてやってもいいだろう。

 ナイエは店の前にあるタルの上に腰かけ、待っていた。目の周りが赤く腫れている。

「決めた?」

 カズヤはうなずいた。

「俺は残るよ。ナイエやナハト達を見捨てられない。それにこのまま帰って、全てを忘れたとしても、何かが欠けている感覚はずっと残ると思う」

「……そう」

 太陽が差す。眠りこけていた仲間達が目を覚ます。夜明けだ。


 §


 その後、革命軍は()()()()()犠牲を払い、勝利を遂げた。魔王による圧政は終止符を打ち、世界は平和を取り戻した。

 カズヤ・ワタリ、あるいは渡一夜(わたりかずや)。仲間の命と異世界の平和を願い、犠牲となった転生者の名を、人々は未来永劫忘れることはない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ