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ダークネス イン ザ ティース  作者: 望月 健一
4/15

第3章

 1:


 翌朝、堤雄二は診療所に戻ったが、昨夜からの不安がまだ胸の内にくすぶっていた。彼は診療所の鍵を開け、静かな空間に足を踏み入れた。いつもなら、朝の静けさが心地よく感じられる時間だが、今日はその静寂が逆に重苦しく感じられた。


 堤はデスクに座り、昨日の出来事を再び思い返した。沼田裕和という男、彼の異常な様子、そして何よりもあの抜かれた歯。堤はガラス瓶に保管しておいた歯を取り出し、慎重に観察した。


 堤は歯を手に取り、光にかざしてみた。やはり、昨日見つけた小さな金属片がそこにある。それが何であるのかを確認するためには、詳細な分析が必要だと感じた。堤は歯を指先で慎重に触りながら、何か異物があるかどうかを確かめたが、金属片以外には特に異常は見つからなかった。


 しかし、その金属片がただの歯の詰め物でないことは、彼の直感が告げていた。堤は、この金属片が沼田の怯えの理由であり、そして何か重大な事態に関わっている可能性があると感じずにはいられなかった。


 堤の頭の中に、いくつもの可能性が浮かんでは消えていった。だが、そのすべてが不確かなものに過ぎなかった。彼は、自分一人でこの問題に取り組むべきか、それとも他の誰かに相談するべきか悩んでいた。


 2:


 堤は、自分の中で膨れ上がる疑念を一人で抱え続けるのは危険だと感じ、嘉門義弘に相談することに決めた。嘉門は堤にとって信頼できる上司であり、彼の経験と知識に何度も助けられてきた。堤は、嘉門ならば適切な助言を与えてくれるだろうと期待していた。


 昼休みの時間、堤は診療所を訪れ、嘉門に話を切り出した。嘉門は堤の話をじっくりと聞きながら、静かに頷いていた。


「堤君、その歯を私にも見せてくれないか?」


 堤はガラス瓶に入った歯を取り出し、嘉門に手渡した。嘉門はその歯を注意深く観察し、金属片の存在に気づくと、顔をしかめた。


「これは…単なる詰め物じゃないな。堤君、君の直感は正しいかもしれない。この金属片には何かが隠されている可能性が高い。」


 嘉門はしばらく考え込んだ後、静かに言葉を続けた。


「この歯を詳しく調べるためには、専門の知識と設備が必要だ。堤君、私の知り合いにそういう面ではうってつけの人間がいる。昔から付き合いのある歯科技工士だが、その前には色々な職業を転々としていたらしい。その関係で、あらゆるものの分析に精通しているよ。彼に相談してみるといい。」


 堤は嘉門の言葉に頷いた。嘉門が紹介してくれるという歯科技工士ならば、信頼できる人物に違いない。


「ありがとうございます、嘉門先生。その方にお願いしてみます。」


 嘉門は微笑みながら頷き、連絡先を堤に手渡した。


「彼の名前は山崎一郎と言う。非常に腕の立つ技工士だ。彼なら、この歯の謎を解く手助けをしてくれるはずだよ。」


 3:


 翌日、堤は嘉門から教えられた場所へ向かった。山崎一郎のラボは、街の中心部から少し離れた、静かな住宅街の一角にあった。古い木々に囲まれた小さな建物で、周囲には古い家屋が立ち並んでいた。外観は控えめで、普通の一軒家のように見えるが、その裏には精密な作業が行われる場所が隠されているという印象を受けた。


 堤が玄関のインターホンを押すと、しばらくして静かな足音が聞こえた。ドアが開き、現れたのは山崎一郎だった。彼は50代半ばの穏やかな表情を持つ男性で、薄い眼鏡の奥から堤をじっと見つめていた。


「堤先生ですね。嘉門先生からお話を伺っています。どうぞ、お入りください。」


 山崎の声は穏やかで、どこか安心感を与えるものだった。堤はその誘いに応じ、玄関をくぐり抜けた。中に入ると、外観の古さとは裏腹に、内部は最新の機器が整然と並び、まるで別世界のように感じられた。

「ここが私のラボです。普段は歯科医院や病院からの依頼を受けて、様々な技工物を製作しています。」


 山崎は堤をラボの奥へと案内しながら、説明を続けた。歯科技工に使われる機器はもちろん、おそらく大企業の研究開発部くらいにしか存在しないであろう用途不明の装置や無機質な機器。それらがさも当然と思われる形で配置されていた。堤は、その整然とした空間に圧倒されつつも、何か特別なことが起ころうとしている予感を抱いていた。


「先生もお気づきかと思いますが、技工物以外も製作していますし、分析も色々なところから頼まれますよ。色々なところから、ね」


 山崎は左側の口角をあげ、大袈裟にニヤリと堤をみた。


 二人が作業台に着くと、山崎は慎重に堤からガラス瓶を受け取り、中の歯を取り出した。山崎は歯を手に取り、慎重に観察し始めた。


「確かに、この歯には何かが埋め込まれていますね。私の予測が正しければ、これは…」


 山崎は言葉を一瞬飲み込んだが、その顔には確信が浮かんでいた。


「堤先生、この金属片は単なる詰め物ではなく、おそらくマイクロチップのような何かが埋め込まれている可能性があります。詳細な検査を行い、この歯の中に何が隠されているのかを解明してみましょう。」


 堤はその言葉に驚きを隠せなかった。山崎の落ち着いた声が、逆に彼の心の中に恐怖を広げた。

「マイクロチップのようなものが隠されているとしたら、その中に何が入っているのか…」


 山崎は堤の言葉に静かに頷いた。


「それを知るためには、さらに精密な解析が必要です。時間がかかるかもしれませんが、必ず解明します。」


 堤はその言葉に安堵しつつも、新たな恐怖が心の中に芽生えていることを感じていた。このマイクロチップが、何か重大な秘密を握っていることは間違いない。しかし、その秘密が彼自身や沼田、そして診療所にどのような影響を及ぼすのか、まだ知る由もなかった。


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