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ダークネス イン ザ ティース  作者: 望月 健一
1/15

プロローグ

 夜の闇が、街を覆い尽くしていた。微かな月光が雲間からこぼれ、静かな住宅街の道を淡く照らし出していた。冷たい風が木々を揺らし、枝葉がささやくような音を立てている。周囲には人影もなく、まるで世界が息を潜めているかのような静寂が広がっていた。

 

 その中で、一人の男が足早に歩いていた。彼の名は沼田裕和。肩をすくめ、コートの襟を立てて、周囲に目を配りながら歩く姿には、明らかな焦燥が感じられた。何かから逃げるように、何かを恐れているように。その足取りは不安定で、時折、道端に躓きそうになる。

 

 彼はふと足を止め、振り返った。背後には何もない。だが、沼田の心は安まることがなかった。彼は再び前を向き、歩みを早めた。

「もう少しだ…もう少しで…」

 

 彼の口から漏れた言葉は、自分を励ますためのものだったのかもしれない。しかし、その声は風にかき消され、夜の静寂に飲み込まれていった。

 

 沼田の目的地は、一軒の古びた診療所だった。カモン歯科医院。この街の片隅にひっそりと佇むその場所に、彼は最後の望みを託していた。

彼は震える手で診療所のドアノブを握り、ゆっくりと扉を開けた。中は暗く、静まり返っていた。彼は一歩足を踏み入れ、診療所の独特の消毒液の匂いが鼻をついた。

 

 沼田は受付に進み、初診の手続きをした。しばらくして、受付の女性から診療室に促された。

「どうぞ、お入りください。」

 

 その声には、穏やかさがあったが、同時に何か冷ややかなものも感じられた。沼田は深く息を吸い込み、診察室のドアを開けた。

 

 その瞬間、彼の心に一抹の安堵が広がった。この場所が、彼を救ってくれるかもしれない。そう信じたかった。だが、彼の直感は、まだ見ぬ何かが迫っていることを告げていた。

 

 診察室の中に進むと、そこには一人の男性が立っていた。長い髪が静かに揺れ、冷静な瞳が沼田を見つめていた。


「はじめまして。歯科医師の堤といいます。沼田さんですね。今日はどうなさいましたか?」

 

 その声に、沼田は思わず身体を震わせた。まるで自分の心の奥底まで見透かされているような、そんな気がした。しかし、彼にはもう選択肢がなかった。全てを打ち明け、この場所にすべてを託すしかなかったのだ。


「先生…助けてください…」

 

 そう言うのが精一杯だった。沼田の言葉は、切羽詰まった叫びに近いものだった。彼の頭の中には、一つの思いが巡っていた。


「この診療所で、すべてが終わるのか…」

 

 その時、診療所の外で風が強く吹き、木々がざわめく音が聞こえた。まるで、何かが始まる前触れのように。闇は深まり、静寂が再び訪れる。その中で、すべてが動き出すのだ。


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