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第5話 大企業家族の闇 会長は殺人犯か?

今日も講義を終え、学生たちと所持品検査の議論を交わしていると、

「米子銀行事件は有名な判例で、銀行強盗のボーリングバックのチャックを開けたのは、緊急性・必要性が高く法益侵害の程度も高くないから適法で、アタッシュケースをドライバーでこじ開けたのはその場で緊急逮捕が行われており、逮捕に伴う無令状捜索だから、2つとも適法としているけど、根拠が異なることに注意だね」

学生に交じって、聞きなじみのある声が聞こえた。

学生より2周りくらい小さく、背伸びをしてこちらを見ている。

「おぉ珠希じゃないか」

真琴が返事をすると、

「きちゃった」

と得意げに笑った。

「先生の彼女ですか?」

学生は面白がって聞いてくる

「まぁそんな感じかな」

否定するのも違う気がするし、実際にこれまで幼馴染として長い期間一緒にいるのだから、生徒に対する簡単な返事なら、こういう答えでもいいだろう

すると、

「え?認めるんだ…でへ、へへへ」

珠希がニヤニヤしながら笑っていた。

「んで、来るってことは事件か?」

「まぁね。講義終わったなら、早速だけど講師室でいい?」

珠希に促され、真琴は教室を去った。


「今回の事件は、トイゲームス社長、大野孝介さん殺人事件だね」

「あの大手ゲームメーカーの社長殺人事件かぁ」

「うん、被疑者は大野晋作さん75歳、トイゲームス会長だね」

「じゃあ、今回の犯行は親子での殺人事件が疑われているわけか」

「そうなるね。動機とか、詳しい背景とかはこの後接見に行く予定」

「分かった、僕もこのままついていこう」

真琴の後ろには、採点しなければならないレポートの山があるが、それは珠希が寝てからでいいだろうと、ほっぽった。


接見に現れたのは、数年前の雑誌記事の写真からだいぶくたびれた老体が現れた。

「体調はいかがですか?」

珠希が聞くと

「ここ最近、ずっと取り調べでもう疲れちゃったよ。

やってないって何度言っても聞いてくれないし、体は具合悪いし…」

「分かりました、弁護側から配慮してもらえるよう伝えてみます」

珠希は、得意の温かい笑顔で応じた。

「では、早速ですが、事件の日のことを教えてください」

「あの日は、義理の娘である大野由美さんから家で新作のゲームのでもプレイをやらないかと誘われて午後9時に向かった。

孝介は既に寝ていたらしく、由美さんと孫の聡とともにゲームに興じた。

午後10時に疲れが出てきて、家に帰った。

そしたら次の日、孝介が死んでいたんだ。」

「なるほど、家の前の監視カメラに家に入る姿と家から出る姿が映っているので、それは客観的に確認できるというわけですね」

「そして、現場からはあなたのいつも着ているジャンパーとあなたの指紋の付いた包丁が見つかったと」

「あぁ、だが本当に何も知らない。」

「由美さんと聡さんの目撃証言は?」

「身内だから信用ならないと警察も検察も相手にしてくれない」

「なるほど、それは参りましたね…」

珠希がため息をつく。

「とりあえず、現場や会社を回ってみよう」

真琴と珠希は、手帳を閉じると鞄にしまって、接見室を出た。


◇トイゲームス

トイゲームスにやってきた真琴と珠希は、早速会長室の周りを見て回った。

会長職らしく、豪勢な家具が並んでいた。

「会長のジャンバーはいつもどこに置いてありますか?」

「会長のジャンバーでしたら、その衣装棚が背もたれにかかっています」

秘書の杉本麻衣が答える。

「会長室自体は、誰でもは言えるんでしょうか?」

「そうですね…不在の時はカギは一応かけてあるのですが、予備のカギは事務所に保管してあるので、怪しまれなればだれでも開けられるかもしれないですね」

「なるほど…では次に包丁なんですが、会長は包丁は使いますか?」

「えぇ、会長室の隣のシンクでよく果物を剝いてますよ」

「その包丁、今ありますか?」

「そうですね、たぶんあるかと…いえ、ないですね」

「なるほど、まずはジャンバーと指紋の付いた包丁は、入手できることが分かったな」

「社長と会長は、仲はどうだったんですか?

検察の調書には、軽々の方針の違いで不仲であると書かれていますが」

「いやぁ、仲が悪いとかそういうことはなかったかな。

むしろ、社長と息子の聡君との方が険悪だったね」

そうなんですか?

「えぇ、聡君は家業を継がずに、大学院で物理学の研究者になりたかったみたいなの

それを無理やり、跡を継げと言われて困っているみたいだったわ」

「なるほど、聡君にも動機があったというわけですね

ありがとうございました」

真琴と珠希は、次に被害者宅を訪ねた。


◇大野家

大野家に入るとまずその絢爛豪華に驚かされた。

流石は純利益数十億の会社だ。

「こちらが現場です」

由美さんに案内されて事件現場に着くと、そこには警察の捜査の跡と、広い部屋に血しぶきが色々なところに舞っていた。

「調書によると、一撃で殺さず、急所を外して何度も襲い掛かったとあるね」

「でも、こんだけ広い部屋で何度も追いかけて殺すのは、老体には厳しいんじゃないのか」

「確かに…」

「それに被害者は寝ていたんだろう。急所を狙うのは、そんなに難しくないはずだが」

真琴は、部屋の周りを見渡した。

ふっと疑問がわいてきた。

「この血は、すべて被害者のものなのだろうか?」

「というと?」

「争った形跡があり、もしかしたら犯人の血も交じっているかしれない

警察の調書と比べながら、まだ調べてないところを調べてみようか」

「分かった、早速法科学研究所に連絡してみる」

次に真琴と珠希は、外を見て回った。

外部犯の可能性も視野に入れて、捜査を行っている。

しかし、監視カメラが各ドアにはつけられており、カギがピッキングされた後もない。

「外部犯はありえないかぁ」

次に真琴と珠希は、大野晋作さんがゲームをしていたという1階に向かった。

問題は、ゲームをしている晋作さんに気付かれずに、2階で犯行を行わなければならない。

いったいどうやって。

すると、珠希がゲーム機に触りだした。

「あれ、このゲーム音が出ないよ」

「あぁ、それはイヤホンがつながっているからですよ」

由美さんが隠れていたヘッドホンを出して、珠希にかぶせた。

「おぉ凄い、迫力のサウンドで、周りの音をシャットアウトしてくれる」

珠希は興奮気味だ。

「周りの音をシャットアウト…もしかして…」

真琴はゲームに夢中の珠希に帰ると伝えて、一緒に留置場に向かった。


◇留置場

「晋作さん、もしかして家でゲームをしていた際、ヘッドホンをしてませんでしたか?」

「あぁ…そういえば、していたよ」

「なるほど、すると今回の事件、社長が疑われた要素は全て証明できるかもしれません」

「どういうことだい?」

「まず、会長のジャンバーと指紋の付いた包丁ですが、これは会社で盗むことができます。次に犯行時に家にいた件ですが、ノイズキャンセリング付きのヘッドホンでゲームをプレイしていたため、外の音、つまり殺人の起きている2階の音が聞こえなかった可能性が高いです」

「なるほど、では、あとは真犯人だね」

「それは、法科学研究所の結果をまとう。

念のため、検察に血の付いたジャンバーと包丁の証拠開示請求もしよう」

「もう一度、弁護側で再鑑定することはできないんですか?」

晋作さんは、不思議そうに問うた。

「残念ながら、弁護側には再鑑定の権利が認められてないんです」

「そうなんですね」

晋作は少し顔を暗くした。

「今できることは、検察側からの証拠開示を待ち、それが不可能だったら、裁判所に申し入れます」

「分かりました。よろしくお願います」


◇桐生法律事務所

数日後、なんと無事に検察からの証拠開示請求が通った。

また、壁の血の法科学研究所の結果も届いた。

ナイフには被害者の大野孝介さんの血のほかに、息子の聡さんの血もついていた。

「調書によると、この血は孝介さんを助けようと息子の聡さんがナイフを抜いた時に切ってしまった血ということになっているけど」

「でも、それだとおかしいね。見て、ジャンバーにも、孝介さんの血のほかに聡さんの血がついている。しかも、このジャンバー破れているよ。

それと、壁の血が聡さんの血ということを考えると、犯人は聡さん?」

「その可能性が高いな。一回話を聞きに行ってみよう」


◇大野家

真琴と珠希は、再び大野家を訪ねた。

「聡さん、ちょっと上半身を脱いで見せてくれませんか?」

真琴が切り出すと、「これは祖父の弁護に関係あるんですか?」と、抵抗を示した。

「えぇ、大いに関係あります」

すると、聡は諦めたように服を脱いだ。

そこには、無数の痣と切り傷の縫合痕があった。

「この傷は、孝介さんを殺害時に争って刺してしまった傷ですよね」

「違う、偶然だ。この傷は、別の時にできた傷だ」

「そうですか。では、このジャンバーの切れている部分と傷の部分を合わせてみましょう。このとおり、一致するでしょう」

「それは…」

「あなたは、物理学の研究者になる道を父である孝介さんに止められたから、犯行を行ったんですよね」

「違う…」

聡は、小さくつぶやいた

「それだけじゃない、あいつに僕は教育虐待をされていたんだ」

「聡!」

母の由美さんが止めにかかるが、堰を切ったように聡は語りだした。

「あいつは、僕に教育虐待をしていたんだ。小さい頃から勉強を押し付けられ、時には暴力も振るわれた。もう耐えられなかった。そんな時に、大学院をやめて会社を告げと言われ、断ったのだが暴力を振られ、もう殺すしかないと思って殺した」

「祖父の晋作さんを巻き込んだのはなぜ?」

「あいつも学歴至上主義で、僕のことを学歴でしか見なかった。それに、父の暴走を相談しても、相手にしてくれなかった。あいつも僕を無理やり後継ぎにするために、父と画策していた。だから、冤罪で牢屋で殺してやろうと思ったのさ。

母さんは、無理やり今回の作戦に参加してくれたんだ。

俺がすべて悪いんだ」

「そうですか…」

真琴には、かける言葉がなかった。こういう時、どういう反応をしていいかわからなかった。

「それは辛かったね。その痛み、私にはすべては分からないけど、辛かったことは分かる。

でも、やっぱり罪から逃げることはよくないよ。この先の人生ずっとついて回るよ。

大丈夫、今の話で刑事裁判で弁護士がしっかり情状酌量を求めてくれるよ。

もう我慢しなくていいんだよ

裁判でケリをつけよう」

珠希が声をかけ聡を抱きしめると、聡は堰を切ったように泣き出し、今までの痛みを涙で流していた。

真琴は珠希の温かい表情に胸が締め付けられた。


落ち着くと、聡は

「俺の弁護、先生に依頼したい」

と珠希を指定してきた。

「先生、一緒に自首に付き合ってくれないか」

「もちろん、引き受けさせていただきます」

では、早速警察署に行きましょう。

真琴と珠希は、聡をつれて近くの警察に出頭した。


事件は、真犯人の逮捕で、晋作さんの不起訴・釈放が決まった。

だが、出てきた晋作さんは、非常に辛そうな顔をしていた。

「そうか、私と息子の育て方が悪かったのか…昭和の時代は後継ぎは当たり前だったから、私も聡の気持ちに気付いてあげることができなかった」

「そうですね。後継ぎは、会社の有力者から選ぶのが公平でしょう。世襲制は問題も多いですから」

「そうだな。このことにもっと早く気付くべきだった」

晋作は、なおも項垂れており、冤罪が晴れた嬉しさより悲しみが強く、気落ちした表情でタクシーに乗って去っていった。


◇桐生法律事務所

真琴は、不思議な感情を抱いていた。

珠希と事件を解決してきた中で、小学校から抱いていた恋心のようなものが肥大化していった。

珠希が企業法務部の若い先生小川真一と話していると、胸がモヤモヤするのだ。

彼女のようなもの…と生徒たちにはいったが、正式にはまだ付き合っていない。

すると、小川真一が珠希を分かれ、こちらに向かってきた。

「真琴先生は、顔に出ますね。

大丈夫ですよ。珠希先生を取ったりしませんから」

「え!?マジ?顔に出てた」

「えぇ、珠希先生企業法務部でも、あなたの話ばかりですよ

企業法務部でも、あなたたちがいつくっつくのか、恋愛漫画感覚で待ち望んでいたんですよ。

いつか渡す機会を見計らっていたのですが、今でいいでしょう。

企業法務部で顧問をしているホテルのレストランの招待券です。

バシッと告白決めてきてくださいよ」

そういうと、小川は2枚のチケットを置いて、去っていった。


◇帝都ホテル 高層階レストラン

真琴は意を決して、珠希をレストランの食事会に誘った。

真琴はいつものスーツだが、珠希はお洒落なドレスを着てきた。

「まこちゃんがこういう所誘うの珍しいね」

珠希は何も気づかず、メニュー眺め注文する。

僕は緊張でメニューを選ぶ余裕はなく、珠希と同じものを注文した。

料理が来るまでの間、ワインを飲みながら二人で談笑した。

当たり障りのないたわいのない会話だが、真琴にとっては緊張した。

もう耐えられない…真琴はワイングラスを置くと珠希の方を見て

「珠希、大事な話がある」

「なぁに」

珠希は仕事の話だろうと思っているのか、食を進める手を止めない

「珠希と僕とは、保育園の時からの付き合いだよね」

「そうだね」

流石に何かを察したのか、珠希はフォークとナイフを置く

「僕は、小学校のころからずっと珠希の横に入れることが嬉しかった。

ずっと珠希の横にいたいと思うようになった。

僕には至らない点も多い。

だけど、珠希を好きな気持ちならだれにも負けない。

幸せにします

どうか僕と結婚を前提に付き合ってください」

真琴が告白をすると、珠希はしばし黙っていた。

すると、珠希の目から涙が流れてきた。

「やっと言ってくれた。私も好きです。大好きです。

私こそ、結婚を前提に付き合ってください」

こうして、ただの幼馴染から『幼馴染カップル』になったのだった。

この漫画ドラマはフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

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