食事がまともに食べれない!?
緑川に連れられやってきたのは、学食だった。学食では生徒だけではなく、教師陣も利用することが多いので、周りの目を気にすることなくご飯が食べられるというわけだ。
「あそこの席に座りましょう」
そう言われ、端にある席に着いた。壁はガラス張りになっていて、中庭の景色が楽しめる仕組みになっている。だが、俺には景色を楽しむ余裕などない。怒っているはずの緑川に何故か飯を誘われ、無言でご飯を食べているからだ。
「あの、いきなり質問なんですが︙︙嘉人先輩って彼女いるんですか?」
本当にいきなりだった質問をされた後、何故か話し声が飛び交っていた食堂が、静かになったように思えた。
「彼女はいないが︙︙急にどうしたんだ?」
「いや、特に深い理由は無いんです︙︙良かった」
「ん?なんて?」
「なんでもないです。冷めてもいけないので、早く食べちゃいましょう」
深い理由はない︙︙か。結婚を考えている女性でも紹介してくれるのだと思っていたのだが、俺の早とちりだったらしい。まあいい、早くおかずに手をつけるとするか。
「ところでさ、緑川何か怒ってたか?」
俺が気になっていたことを質問すると、内田は肩を大きく上げ、緑川らしくない焦りが見えた。
「いや、その、えっと────」
「────貰い!」
後ろから突如、最後まで取っておいた大好物のオムそばを奪われた。後ろを振り向くと、咲夜さんが美味しそうに口の中に放り込み、頬張っていた。
「んん〜!美味しぃ〜!」
「ちょ、咲夜さん!それ俺のオムそばと箸!」
「か、関節キス︙︙咲夜先輩、そのオムそば吐き出してください!」
何だか急に騒がしくなったせいか、大好きなオムそばを食われたせいか気分が下がった。そんな俺を気にすることなく、咲夜さんは俺の顔を下から覗くようにして、魅惑的な表情を見せる。
「嘉人君、キス︙︙しちゃったね」
(ちょ、待ってくれ。可愛すぎる)
そんな風に言われた俺は、赤くした顔を隠すように下に向ける。それを見た緑川が、俺と黒葛原さんの間に割って入るような形で入り込んできた。
「もー!二人でイチャつかないで下さいよ!」
「ごめんごめん。悪かったね、嘉人君」
「いや、むしろ嬉しかったです。ありがとうございます」
「何、お礼してるんですか!」
その緑川の反応を見て、俺と黒葛原さんはクスクスと密かに笑い合った。その後黒葛原さんも、お弁当を机の上に出して、時間が許す限り、仲良く話し合いながら三人でご飯を食べた。
午後の授業の十分前を知らせるチャイムが鳴ると、俺たちは席を立ち上がり、食堂から出ようとする。去り際に複数の女子生徒たちが、俺達のことを見ながら話していたことが気になりながらも、授業の準備をするため、職員室へと早足で戻って行った。