気にしてるのは男だけ!?
「始めっ!」
俺の号令と共に、机に逆に置いてある解答用紙と問題を裏返し、生徒達は一斉に取り掛かる。
努力を怠りがちな明けテストなのだが、一年生の基礎が身についているかの確認なので、教師としては頑張って欲しいと思っているのだが、生徒たちの様子を見るに、心配はどうやら杞憂だったらしい。
開始してから数分が経ち、生徒たちが不正行為をしていないかの確認をするため、生徒たちの邪魔にならないよう慎重に巡回する。全体を見渡すため目線を移動させると、ある男子生徒を見張っていた緑川と目線が合ってしまった。緑川は少し焦っている表情を見せた後、その顔を誤魔化すかのように顔を背けた。
(緑川、まだ怒ってんのかな)
そんな疑問が残りつつ、午前にある明けテストは無事終了した。
「はい、名前の書き忘れ無いか確認したら、後ろから前に回して」
そう俺が言うと、生徒たちはテストの手応えを話し合っていた。話を盗み聞きする限り、点数が悪かった者はいなかったようだ。ただ一人を覗いては。
「どうしよう︙︙絶対赤点だアタシ。よしおに補習させられるから、絶対バレー出来ないじゃん!」
それを盗聴スキルで聞いた俺は青野のところに近づいて行き、棒状に丸めた新聞紙で青野の頭を軽く叩いた。
「馬鹿者、補習になるのは赤点を取る青海が悪い。後、明けテストは赤点でも補習は無いから安心しろ」
それを聞いた青野は、落ち込んでいた顔が満面の笑みに変わり、子犬のように抱きついてきた。
「よしおありがとう!じゃ、明けテストの時は全力でバレーに集中できるね!」
俺は青野の言葉を聞いて、頭を押えた。本当に青海はバレー脳だ。その呆れるような明るさに隣の席の金山は、腹を抱えながら大爆笑していた。
「ハハッ!まじ︙︙ウケるんですけど︙︙ぶファッ!」
金山は馬鹿にするように青野の真似をして、俺に抱きついてきた。金山はこんなナリでこんな性格だが、この学園に相応しい学力を有している。そんな金山から逃げるため、くっついて離れない青野を無理やり引き剥がし、昨日のことが嘘かのように怒っていない金山と青野に疑問を抱きながら、テストを回収して職員室へと戻って行った。
職員室に戻った俺は、自分のデスクの上に生徒たちのテストを置くと、横から真面目な声色が耳に入ってきた。
「あの、嘉人先輩︙︙」
「ん?︙︙どうした?」
聞き覚えのある声の方に体を向けると、怒っているはずの緑川が俺に話しかけていた。
「あのー︙︙話したいことあるので、一緒に昼飯食べませんか?」
「え、全然良いけど︙︙」
少し緑川の顔が怒っているように見え、一緒にお弁当を食べるという選択肢しか俺には残っていなかった。