男だけで飲んでも意味がない!?
あの後家に帰り支度を整えた俺は、連絡を受けた居酒屋に入ると、先に来ていた石田が、手を大きく振っていた。
「嘉人遅いって!三人で予約してたのに、一人でずっといる変なやつって思われたわ!」
「ごめんごめん」
いつものように変な勘違いをしている石田を適当に流し、メニュー表を開く。いつもメニュー表を眺め、新メニューに興味を示すのだが、結局頼むのは、いつもと同じものだったりする。
「英翔遅くなるらしいから、先に頼んどいてだって」
『︙︙いや、頼みづらいわ』
「だよな!頼めるかっちゅうねん!」
「いや、それ」
そんな高校の頃から変わらないノリをしながら、英翔を待つことにした。LINEが数分間後に何回もくる石田を冷たい目線で見つつ、今日の出来事を振り返る。
今日の緑川は、いつもと違って冷たかったなー。大学生時代の頃なんて、「嘉人先輩〜嘉人先輩〜」とか言って、俺の後ろをずっと着いてきてたのに︙︙。何だか、下着をお父さんと一緒に洗わないでと言われた、父親の気分だな。しかも緑川だけじゃなくて、金山と青野もだっ────
「────だあぁぁぁああああ!!!」
「うっせぇぇえええ!!!」
「お客様、周りのお客様にご迷惑になるので、もう少し声を抑えて頂けると幸いです」
『あ︙︙すいません』
急に叫び声を上げた石田に、怒りの声を出した俺も怒られてしまった。
(おい!急に大声出してどうしたんだよ!)
(いやさ、競馬惜しいところで外れたんだよね)
(お前、シバくぞ)
(こわぁ〜)
そんなやり取りをアイコンタクトで会話していると、一人の男性が近づいてきた。俺と石田は瞬時に下を向き、その男性から察知されないように肩を竦めた。
「嘉人と石田さ、うるさいって!僕店に入った時、気まづかったもん!でもお陰で、どこにいるかすぐ分かったけどさ」
『いや、英翔もだいぶ今声でかいって!』
「あ、ごめん」
またもや高校時代のノリで、久々に揃ったことを大きく喜ぶ。しかし、みんな老けたな。なんて、思いながら、少し微笑む。
「てか、英翔仕事の方順調なの?」
「いや、残業あって辛いな。今にも禿げそうだわ」
『いやもう、禿げてるやん』
石田が英翔に仕事のことを伺うと、苦笑いをしながら、今の過酷な状況を聞いて、その分給料は貰えるが、わりには合わなそうだなと英翔の様子を見て思う。
「ま、疲れた後は奥さんに癒してもらえば良いじゃん!」
「︙︙はぁ」
そういえば、英翔は高校の同級生と結婚をしていたっけ。しかも、幼馴染ときた。
「僕、姐さんに毎日こき使われてるよ!」
「︙︙ご苦労様です」
英翔様は、仕事でも家庭でも休めないらしい。後五年もしない内に、頭の毛が禿げ上がりそうだ。
「てか、嘉人と石田は結婚のこと考えなくていいの?もう、三十歳になるのに」
「俺は︙︙良いかな」
ヒモをしている石田はともかく、俺も結婚しないとヤバいな。妹も結婚して子供産んでるのに、俺は彼女すらいないなんて。両親が亡くなる前に、孫を見せてやりたいのに。
「嘉人さ、彼女いないなら、生徒から見つければ良くない?」
「アホか!そんなことしたら、捕まるわ!」
「良いじゃんそんくらい、チョメチョメするわけじゃないんだし」
不純異性交遊と言いなさい。てか、生徒になんか手を出してみろ、社会的に死ぬだろ。だいたい、年下を好きになるわけが無い。俺はセミロングでCカップくらいの優しい︙︙って、黒葛原さんじゃん!?いや違う違う、黒葛原さんは先輩として尊敬してるだけで、決して好きとかそう────
「────お待たせ致しました、こちら大盛りポテトになります」
「どもでーす」
石田は俺が真剣に悩んでいるというのに、フライドポテトを呑気に頼みやがった。店出たら、絶対シバく。
「お前、何ポテト頼んでんだよ」
「いや、食べたいからじゃん。俺と言えば、ポテトみたいなところあるだろ?」
「いや、ねぇーよ」
何だか、真剣に悩んでた俺が馬鹿みたいじゃないか。俺も腹が減ったし、何か頼むか。
「生ビール頼むけど、二人も飲む?」
「あ、僕もお願い」
「俺酒飲めんから、コーラで」
二人の注文を聞いて、店員に今の注文を伝える。その後、英翔の妻の尻に敷かれてる話や、石田のヒモ事情などをつまみに、酒を飲み干した。