明日は明日の風が吹く!?
俺はいつものように支度を整え、自身が受け持つクラスへと足を運ぶ。昨日の件もあり、どういった視線が今度は向けられるのか怯えながらも、後ろで不完全燃焼に終わった緑川の落ち込んだ表情を見て、俺は先輩としてしっかりしなくてはと思い切りに扉を開いた。すると、昨日のような冷ややかな目ではなく、何だか可愛い生物を見るかのような視線に変わっていた。
「何だよ嘉人〜。恋愛相談なら俺らが乗ってやったのにヨォ〜」
「だよねっ!よしおの好きな人って誰なの!?」
「夏海慌て過ぎ……まっ、ウチも気になってはいるんだけどさ?」
俺は生徒たちの反応に少し面食らうも、様子が変わる事は分かっていた為、気持ちを整えいつも通りに振る舞う。
「馬鹿かお前ら。大人の俺が、ガキ相手に恋愛相談する訳ないだろ?」
「初心な男子ならともかく、私たち女性の意見は貴重だと思うけどなぁ〜?」
「おい、青野!誰が初心だって!」
そうクラス全体を巻き込んでのやり取りが繰り広げられ、笑いが巻き起こる。そのいつもの様子に戻り、安心から俺も笑顔をこぼすと、1人だけ置いていかれている緑川が耳打ちする。
「ちょっと、嘉人先輩。これはどういう事なんですか!?」
「まあ、落ち着けよ緑川。後で教えてやるから」
そう言った俺に、焦らさないで教えてくださいと言わんばかりに睨みを利かせる緑川へ、青野が話し掛ける。
「いやぁー、まさか緑川先生がよしおの相談相手だったとはねぇ〜?」
「……え?……私は、嘉人先生とは何も」
「――――何もなく、ただの恋愛相談相手だったんだよな?なっ!」
「え、ええ……そうよ?……」
馬鹿が付くほど真面目な緑川は、なんの事だか理解出来ず、訂正しようとしていた。だが、俺はそれを阻止するべく話し始め、緑川の方を向くと口パクで『俺に合わせろ』とだけ伝える。すると、困惑しながらも読み取った緑川は、ぎこちない様子で同意した。
「そんなことより、誰が嘉人の恋してる相手なんだ?緑川ちゃん!」
「み、緑川ちゃん!?」
「はーい、あんまり緑川先生を困らせるんじゃありませーん」
1人の男子生徒に詰め寄られ困っていた緑川を助けるようにそう切り出すと、タイミング良くチャイムが鳴り、朝のホームルームを開始した。男子生徒は悔しそうにしながらも諦めたのか席に座り、頭後ろで手を組んで気だるげに話を聞く姿勢を示す。
「……以上で、優秀な先生からの報告は終わりだ。丸井、ちゃんと課題提出しろよー」
「なんでバレてんだ!?」
「そりゃ、バレるだろ。担任舐めんなー?」
適当に本日の連絡を済まし、朝のホームルームを終えた俺は教室から出ると、その後を親鳥を追いかける雛のように、早足で眼鏡を押さえながら向かってきた。俺はその様子を確認しながらも、立ち止まる事なく職員室へと歩いて行くと、早足のせいか興奮のせいか分からないが、凄い形相で俺に問い詰める。
「嘉人先輩……!で、何でなんです?生徒たちの反応が変わった理由って」
「これだよ」
「これって、今日の分の毎日新聞ですよね?これが一体……」
俺は、職員室の横にある掲示板へ貼り出された毎日新聞を指差した。緑川は釈然としない様子で毎日新聞を覗き込むと、目を疑う記事の内容に唖然としていた。それもそのはず、昨日の熱愛報道は間違いであったと訂正されており、架谷 嘉人(年齢非公開)の恋愛相談に緑川は乗っていただけだった!?と記事の内容が変更されていたからだ。
「あの新渡戸さんを、どうやって脅したんですか!?」
「脅しって……人聞の悪い。脅したんじゃなくて、提案したんだよ。記事を取り消す代わりに、俺を出しに使ってくれても構わないとな」
「何でそんな大事な事、言ってくれなかったんですか!」
「なんだ、心配してくれるのか?」
「ば、バカ言わないでください!」
心配する緑川をそんな風に揶揄うと、顔を真っ赤にして怒鳴る。まさかそんなに怒られるとは思わなかった俺は、その場から逃げるように職員室へと駆け込んだ。その後、学長直々に呼び出され、今回は厳重注意という形で退職を免れたのだった。




