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大人の余裕には敵わない!?

 開かれたカーテンから夕暮れが差し込み、夜の始まりを告げようとしている。春はまだ日が落ちるのが早く、18時だというのにいつの間にか闇夜へと変わっていた。

「嘉人君」

「……はい、何でしょうか?」

 俺は生徒の課題を採点しており、それと同時並行しながら耳を傾けていたため雑に返事をしたのだが、咲夜さんはその事に突っかかることなく話を始める。

「教えてくれても良かったじゃない。私と嘉人くんの仲なんだし」

「……ああ、緑川との件ですか」

 俺はやっぱりそのことを話してきたかと思いため息を着くと、目の前の仕事を投げ捨てオフィスチェアを回転させて向かい合う。そのあからさまにテンションが下がっている俺をおかしく思ったのだろうか、咲夜さんはクスッと笑みを浮かべて俺とは反対に仕事へと取り掛かった。

「何がおかしいんですか……?」

「いや、何だか拗ねた子供みたいで可愛いなーってね」

「こ、子供扱いしないで下さいっ!」

 好きな人に噂を真に受けられてしまい、露骨に態度に出してしまった俺に腹を立てるどころか、その幼稚な態度を可愛らしいと頭をくしゃくしゃと撫でて褒めてくれる。俺はどこか咲夜さんの母性に触れ、結婚願望を強く感じる。この人と結婚したら幸せなのだろうと。周りからは、キモイだとか罵られるのだろうか、俺にとってはどうでもいいことだと思えてしまう程に、遺伝子レベルでそう思える事象だったのだ。

「私はね、その件信じてないの」

「生徒の悪ふざけ、だとでも?」

「うーん、内心そう思ってなくはないけど、それだけじゃなくて、私の中でもっと確信的に言えることがあるの」

「確信的に、ですか……?」

「うん、だってね……」

 咲夜さんは話しながらパソコンのキーボードを叩いていたのだが、その時だけ嬉しそうに目を窄めて目元へ皺を寄せる。

「嘉人くんって、私の事好きじゃない?」

「……え?」

 俺はその時、まるで深い眠りから覚めたようにハッとさせられる。胸の鼓動が嫌にも早く胸打つのを感じ、呼吸が浅くなっているのを感じている。俺は揺れ動く視界を必死に留め、何を考えているのか分からない咲夜さんの笑顔を捉える。

「なーんてね!」

「……はは、変な冗談はやめてくださいよ……」

 いきなりいつもの姿に戻った咲夜さんを見て、俺は胸に溜め込んだ息を思い出したかのように吐き出した。空気が抜けるのと同時に、落ち着きを取り戻しているのが分かる。

「でもまあ、葉月ちゃんと嘉人くんが付き合ってないことは見ればわかるよ。大学時代の後輩くんと後輩ちゃんだし?」

「なんで疑問形なんですか……」

 俺は、光を放つ画面に視線を戻した咲夜さんを見て、時計へと目をやる。今頃、緑川は新聞部の部長の元へと直談判しに行っているだろう。少し気にならなくもないし、一旦顔を出しにでも行ってみるか。

「ん?嘉人くん、お手洗い?それとも髭剃り?」

「いや、どっちでもなくて、強いて言えば……観戦?」

「かんせん?ま、なんでもいっか。仕事もまだ片付いてないんだし、早く戻ってくるんだよ」

「分かりました、失礼します」

 俺は咲夜さんに軽い会釈をしてその場を後にすると、職員室の反対側にある新聞部の部室へと足を運んだのだった。

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