試験内容が違っても!?
「よし、そろそろ行くか」
自分が担当する午後の授業が全て終わり、デスクにあった業務を粗方片付けると、俺はバレー部の練習の為に体育館へと向かった。今日は白鳥の入部テストがある。俺は少し緊張しつつ、重たい体育館の扉を開けた。
「やるか……」
窓から射し込む夕焼けが地面を照らし、伸びた光には無数のホコリが舞っているのが見える。俺はその光景を見て、体育館らしいという感情と汚いという清掃側の意見がぶつかり合いつつ、モップを手に取って床を拭き始めた。それから数時間が経過し、ボールの点検やネットの設置を終えると、用意したパイプ椅子に腰を掛ける。この広い体育館に自分一人だけしかいない空間は、なんともノスタルジックな気分にさせるものだ。
「架谷先生、こんにちは」
「おっ、白鳥か。随分と早いな」
俺は体育館の窓から覗く景色を見ながら黄昏ていたら、重たい扉を開く音が聞こえてきた。シューズを片手に持ち、落ち着いた様子で歩いている白鳥は俺に気づくと、挨拶をする。座りながら白鳥の方を見た俺は、緊張しているかもしれないと思い気持ちをほぐそうとしたのだが、凛として澄んだ瞳から緊張で静かな訳では無いと気づき、喉の奥まで出かかった言葉を飲み込んだ。
「調子はどうだ?」
「うん、完璧」
「そうか。試験の内容とか教えれたら良かったんだが、咲夜先生から何も聞かされてないんだ……すまんな」
「謝らないでください。僕はどんな内容でも絶対に乗り越えてみせます」
「そう言ってくれると助かるな」
白鳥は俺に笑顔を向けると、すぐに真剣な表情へ移り変わる。俺のすぐ側でストレッチをし始め、体をいつでも動かせる状態へと仕上げている。
「よしお、おつかれ!」
「おつかれさまですな、青野」
「あれ?昨日の見学に来てた子じゃん!」
青野は俺の注意を聞くことなく、ストレッチしていた白鳥へ興味を移してしまった。俺はその変わりように呆れながらも、続々と青野に続いて来る部員を見る。
「あっ、白鳥来てるじゃん」
部員たちの中に埋もれていた小さなサイドテールの女生徒が、憎ったらしい八重歯が見える笑みを浮かべてこちらに滲み寄ってきた。
「は、はい!集合!」
俺の隣まで歩いてきた咲夜さんはそう呼びかけると、戸惑いながら主将は部員に集まるよう号令をかける。すると、俺と咲夜さんを囲うように楕円形に整列する。
「今日から、この女子バレー部の指導することになった黒葛原咲夜と言います」
『よろしくお願いします!』
「顧問の方は変わらず架谷先生にやってもらうので、よろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします……黒葛原先生」
咲夜さんのいつもとは違う、テキパキとした進行に生徒だけではなく俺までもが狼狽えていた。そして、ある程度そのことを考えてはいたが、いざ実際に指導役を拝命したという事実も驚かされた。
「各自アップは済ませといて、キャプテンよろしくね」
「はい!」
「後、白鳥さんと赤星さんはここに残って」
『はい』
そう咲夜さんが言い終えると、部員たちは指示通りに動き始めた。この光景は、今ままでのやる気だけがあったバレー部とは違い、緊張感が張り詰めていた。だが、それは悪いものではなく、良い刺激となって部員たちのやる気を底上げしていた。
「白鳥さん、ここに残ってもらった理由は分かるよね?」
「……準備なら、いつでもできてます」
「うん、よろしい」
咲夜さんと白鳥は向かい合い、言葉だけではなく目でも会話しているようだった。そして咲夜さんの目は、隣に立っていた赤星へと向けられる。何故咲夜さんが赤星をこの場に残したのかは分からなかったが、赤星は自分がこの場にいる訳を知っているようだった。
「赤星さん。見学に来るということは、やる気はあるみたいね。だけど――――」
「分かっています。一番自分が、分かっています。だけど、バレーから離れるなんて考えられないんです」
「……そう。それが聞けただけで十分よ」
咲夜さんと赤星の会話内容が、俺は全て聞いていたのにも関わらず理解することが出来なかった。と言うよりも、聞いていただけでは理解できないと言うのが正解だろう。それは、この場にいた俺だけが話についていけてなかったからだ。この話は大前提、何かを知っていなければ文字通り話にならないのだ。
「赤星さん、あなたにはバレー部のマネージャーになってもらいます。勿論、あなたがそれで良いならだけど」
「……少し、考えさせてください」
「ええ、分かったわ」
咲夜さんは赤星の返事を聞くと、話は終わりと告げる。それを聞いた赤星は、帰る事はせずバレー部の練習を何処か曇った表情で見届けていた。この様子から俺は、俺だけ知らない何かを知らなくてはいけないと考える。一教師として、一バレー部員として。
「……じゃあ、白鳥さん。これから試験を行うわね」
「はい」
一体咲夜さんは、どんな試験を白鳥に行うのだろうか。基礎体力を見るのか、技量を測るのか。素人の俺には、全く予想ができなかった。
「何故、白鳥さんはバレーをしたいの?」
「え……?」




