告白されても動じない!?
「私ね、女バレのコーチをやって欲しいって校長に言われてたの。多分、私の経歴とか知ってるから頼み込んだんだと思う」
「だけど、それでもやらなかった……」
「うん、私ね……バレーに関わらないようにしてたの」
咲夜さんはそう告白すると、残りのグラスに残ったビールを飲み干した。まるで、覚悟を決めたかのように。
「高校の頃、私はバレーが好きで頑張ってた。部員の誰よりも練習したり、相手の高校の偵察したり」
「凄い……」
「それも実ってか、無名だった私たちの高校は、全国までこぎつけたの。勿論、私の力だけで来たとは思ってない。チームメイトがいたから来られたと思ってる」
咲夜さんは高校時代の自分を振り返り、今と比較してあの頃は輝いていたと言っているようだった。
「だけど、1回戦で負けちゃった。みんなはここまでよく来たねって、笑いあってたけど、私は1人で唇を噛んでた」
その時の咲夜さんは悔しさを押し殺してはいたが、表情に歪みが出ていた。1人、バレーが好きでチームメイトの誰よりも練習した分、負けた時の悔しさもそれに比例する。自己練習は自分が好きでするものだから構わないが、負けた時誰も悔しそうにしていなかったのが、今までの自分を否定されたようで、悲しかったのだという。
「それでね、好きなだけじゃダメなんだなって、バレーする意味ってなんなんだろうなって」
「…………」
「ごめんごめん!暗かったよね?まあ、そういう感じでさ、バレーに関わりたくないってなってたんだと思う」
俺は机に置いてあるビールがぬるくなってきているのに構わず、真剣に咲夜さんに向かい合った。正直に告白してくれた咲夜さんに、そうしなければ失礼だと思ったからだ。
「でさ、言っちゃ悪いんだけど……女バレって凄い弱いじゃない?」
「すいません……俺の力不足で」
咲夜さんは枯れた笑みを見せ、その姿に俺はがっかりした。尊敬していて、何より好意を寄せている人物に言われたからだけではなく、自分の不甲斐なさのせいで、女バレ全体の評価を下げてしまっているからだ。
「いや違うの!嘉人くんを責めてるわけでも、ましてや女バレのみんなを責めてる訳でもないの。ただ……」
「ただ?」
「一人一人の才能はあるし。何より、みんな勝利に貪欲なの」
「確かに、青野は負けず嫌いだし、須藤はバレーすごく好きだし……」
「それだけじゃないよ。嘉人くん、あなたもバレーの知識がないのにも関わらず、チームを勝たせるために頑張ってるでしょ?それも含めて貪欲なの、女バレは」
俺はその言葉を聞いて、曇っていた視界の靄が吹き飛んだ事に気づいた。俺のあの行いは、チームのためになっていたのかも知れないと。俺を含めて勝利に貪欲な女子バレー部なのだと。
「そのみんなの姿を見ててさ、私思ったの。好きだからで良いじゃんって」
「好きだから……」
先程までの引きつった笑顔から、咲夜さんは心の底から笑っているようだった。俺と同じく、咲夜さんの心の靄も晴れてたのだ。みんなの力によって。
「バレーやる理由も、頑張る理由も、バレーに関係する全ての理由は、好きだからで成り立つんだって」
好きという感情は、何事にも変え難い自分を動かすための原動力になるのだ。俺も確かにそうだ。咲夜さんと積極的に話そうとするのも好きだから、咲夜さんと対等になれるよう仕事を頑張るのも好きだから。行動する理由なんて、そんな単純なことでいい。だって、好きなんだから。
「だからさ、嘉人くんが納得するかどうかは分からないけど、試験って実力を知るためじゃなくて、白鳥さんがどれくらいバレーが好きなのか知るための試験なの」
「それを聞いて、納得しないはずないですよ。俺も知りたいです、白鳥がどれくらいバレーが好きなのか。1人の女子バレー部の一員として」
「そっか……嘉人くんに正直に言って良かったよ。やっぱり、優しいなぁ……嘉人くんは」
「……え?」
「んん?なんにも言ってないよ?さぁ、冷めちゃうし早く食べよ?」
「そうですね」
俺は手元に残っていたビールを飲み干す。生ぬるいビールは、火照った今の俺の体には十分すぎるほど冷たかった。




