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能ある咲夜さんは経歴を隠す!?

「黒葛原選手……」

「黒葛原選手?」

 俺は白鳥が驚きながらそう言ったことに、正直困惑していた。バレー部になんの関連もない咲夜さんが実力を示すように言ったこともそうだが、咲夜さんに向かって白鳥が選手と敬称をつけて呼んだからである。

「……流石に気づくよね」

「気づかない訳ありません。黒葛原選手は、全国の女子バレー部の憧れなんですから……」

「憧れ…………何っ!?」

 バレーボールに詳しくない俺でも、そのやり取りから何となくではあったが、俺の先輩教師である咲夜さんが有名なバレー選手であるということが分かる。それも、相当の実力と知名度を兼ね備えて。

「私なんて、たかが全国1回戦に出場しただけ。そこまで尊敬される選手ではなかったはずなんだけど……」

「いえ、謙遜しないでください!黒葛原選手は、無名の高校を全国1回戦まで導いた大エース。それだけじゃなくて、1回戦では優勝候補の一校と当たったにも関わらず……」

「雪乃、喋りすぎ」

 先程まで静かであったのが嘘かのように饒舌になった白鳥を、八重歯を見せて笑いながらサイドテールの女の子はそこまでと止める。

「咲夜さ……先生は、全国出場経験があったんですか?」

「まあ……1回戦だけだけどね?」

「1回戦だけって……それでも凄いじゃないですか!なんで今まで教えてくれなかったんですか?」

「それは……」

 俺の質問に咲夜さんは口ごもると、その空気を壊すかのように体育館の扉が開く音が聞こえる。

「お?早速1年来てんじゃん」

「金山、どうしてここに……」

「いやあさー、おばあちゃん先生が腰痛めたらしくて、今日部活休みになったんだよねー」

「ああ……齋藤先生、また腰痛めたのか」

 扉を開いたのは、テニス部のユニフォームを着用し、ラケットや鞄を肩にかけた金山であった。

「んで、今どういう状況?これ」

「まあ、色々あってだな……」

 そう金山がこの状況に疑問を抱いて質問してきたため、どう説明したものかと悩んでいると、咲夜さんは白鳥へ話し始めていた。

「今日はまだ準備出来てないだろうし、明日またここに来て?」

「はい……それでは、今日のところは失礼します」

 そう言って一礼した白鳥は、どこか不安げな表情を見せながら、体育館の外へと出ていった。私も失礼しますと、隣にいたサイドテールの生徒も、白鳥の後を追いかけるように外へ出ていった。

「ふぅ……ごめんね、嘉人くん。勝手なことしちゃって」

「いや、それは大丈夫なんですけど……」

「うん、そうだよね……色々聞きたいこともあるだろうし、今日飲み行こう」

「はい、わかりました……」

 そう言って笑顔でその場を後にした咲夜さんの背中が消えたのを確認した俺は、しばらく思考が停止していた。そして……

「え、咲夜さんと一緒に飲み行けるの?」

「え……よっしーきもい」

 俺は今部活を指導していることを忘れ、咲夜さんと飲みに行ける嬉しさの悦に浸ってしまっていた。

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