ホームルーム!?
扉の前に立ちどまり、左手に付けてある腕時計を確認する。
七時五十七分。針は、ホームルームの三分前を指し示していた。
「行くか」
時間を確認した後、俺は勢い良く扉を大きく開けた。中をのぞき込むと、中にいた三十人の男女の視線が、一斉にこちらに集まる。
俺は、前に置いてある机に名簿を置き、自己紹介を始める。
「えー、皆さん二年A組を担当することになった、架谷嘉人と言います。これから一年間、よろしくお願いします」
後ろにあった黒板に名前を書き終え、振り返る。
「また嘉人かよー!」
「女の先生が良かったのに、ちくしょう!」
「声ガサガサ過ぎ!」
「架谷先生じゃん!よろしくね!」
「今年も嘉人先生で良かったー!」
一年間共にしてきた生徒達から、労いの言葉を沢山貰い、なんだか嬉しくなる。そう俺は、進学校である富士谷学園の教師をしている。しばらくの間、落ち着くのを待った後、口を開く。
「えー、皆さんが静かになるまで、五分も掛かりましたー︙︙偉い!今後もこの調子で頑張りましょう」
そんな軽いギャグで、生徒たちの笑いを掻っ攫う。少し経ってから静かになるのを確認すると、本題を切り出す。
「えー、ホームルームを始める前に、皆さんに紹介しなければいけない人がいます」
「先生、彼女ですかー?」
「それでは入ってきてください」
「先生無視はないよー」
生徒のイジリを無視して、教室の外で待つ人物に、入ってくるようにと促す。
「失礼します」
真面目なトーンで返事をした人物が扉を開け、姿勢よく入ってくる。
「緑川先生、自己紹介の方をお願いします」
「はい。緑川葉月です。二年A組の副担任を努めさせていただきます。これから一年間よろしくお願いします」
そう言うと、緑川先生は眼鏡を抑えながら生徒達に深く礼をした。その堅い様子を見たせいか、生徒たちも緑川先生に倣い、返礼する。
「緑川先生も来たことだし、早速ホームルームを始めます」
そう言うと生徒たちは姿勢を正し、視線を俺に向ける。それに答えるかのように、俺も気を引き締めて進行し始めた。