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第3章 魔法使いとして 9 中央首都ウラジモスクの暗闘

 魔族の支配を失ったウラル東側の大陸勢力の軍事力や行政組織は、全てが崩壊しつつあった。それが、大陸勢力に今まで駆逐されてきた各国の反撃と領土回復の機会となった。ラーメックはそれを冷静に把握していた。

「今まで我々は、確かに飯倉の壊滅、大陸東沿岸戦線での激戦、ウラジアジア侵入を許した。ノボシビルスクでさえ、我々は失ってしまった。これについて、明らかにお前たちに責任があるものの......」

「は、はい」

 ジャバル王が再び冷や汗を流した。彼の表情を見て、ラーメックは言い直した。

「いや、そもそも、家畜人類と言われる程度の者たちを、敵にあてがったことに、つまり私の見立てに主な敗因がある......それは、私の責任だ.....すでに、ウラルから東側全領域が攻め込まれ、地脈が断たれててしまった今、我々カラコルムは壊滅寸前で孤立している......断絶している」

 ラーメックは自己分析のつもりでそう続けたのだが、彼の絶望的な分析は、彼の一族ばかりでなく神殿都市の魔族たちにも認識されているほどに明らかで、深刻なものだった。その後、彼らは、後に続く彼の小さいつぶやきを聞いたのだが、彼らが実行するには、それなりの時を要することとなった。

「ウラルの西側では大陸勢力がまだ健在だ......今だに、我々が支配するに最適な家畜人類が多数を占めている......いずれ、家畜人類たちが我々の復活の舞台を整えてくれるはずだから、彼らを十分に活用するさ.......その後、準備のできた我々魔族が直接彼らに対処すればよい」


 たしかに大陸勢力の領域は、ウラル山脈の西側でいまだ健在だった。ウラルの西ではまだ魔素を集め続けており、それを魔族たちとその統括である魔王妃ツィラがむさぼり、魔族に雷同する大陸勢力の人類たちも魔素を活用して、戦いを続けていた。また、ウラルの東側でも、いずれ魔素の収集が元に戻ってしまえば、魔族の支配が復活できるはずだった。

 魔王ラーメックの読みによれば、大陸勢力は一時的に攻め込まれているとはいえ、大陸勢力とその背後にいる魔族は、まだなんとか潜在的な力を有しているに違いなかった。


 他方、大陸勢力の敵の中で、直哉と智子、アリサも魔族の潜在的な力をおぼろげに認識していた。だが、今は、大陸勢力をさらに追い込む好機だった。それゆえ、直哉たちは、合流した反対派とともに大陸勢力中央政府のあるウラジモスクを目指していた。

 そんな直哉たちや反対派には、追手がかかった。ただ、カラコルム山中のゴグ、すなわち神殿都市、魔王ラーメックのおひざ元でも、魔素が絶えたことによって魔族が壊滅状態だった。代わりに追っ手となったのは、ウラル西側で健在だった大陸勢力人の部隊だった。

 大陸勢力人たちは、魔族の一言にすぐに雷同して従う家畜のような存在になっていたため、すぐに軍団や大衆運動に組織化することは容易だった。それゆえ、魔族たちはそのような大陸勢力の人類を魔族は「家畜人類」と呼んだ。それは、魔族の指導にすぐ雷同して従う家畜のような人類であったからだった。そんな家畜人類たちを魔族のもとで率いたのは、リン梓晴アズハの祖父林輝晴だった。彼は、ウラル西側に健在の大陸勢力領域で、反対派人類に対抗し追い立てる大規模戦闘部隊を整え、また、直哉たちをはじめとした反対派の追っ手を組織した。

 その中でも、直哉たちの追手を率いたのは、彼の娘 (リン)梓晴アズハだった。

____________________


 反対派軍団は、直哉たちと合流後、山岳地帯やタイガの道なき道を移動した。

 ウラジモスクから帰還した反対派の情報によれば、ウラジモスクの中央政府において、大陸勢力人の指導層の背後には、体中の肌が極度に乾燥して六角形の模様のようなひび割れが形成され、口には発達した犬歯さえ見え隠れする姿の別種の人間たちを見かけたという。智子たちは、それが大陸勢力人たちを操る魔族であることを指摘した。反対派は、破壊と暗殺活動のための小軍団を新たに多数組織し、指導層と背後の魔族たちを絶やすことによって、大陸勢力中央政府を崩壊させることを目標とした。智子たち三人は、特に背後の魔族たちを狙うことを担った。


「まずは、指導者たちを屠って生きましょう」

「そうね、そこから魔族をあぶりだせるわね」

 ウラジモスクに潜入してから、アリサは智子とそう話した。最近は、直哉の制御下に入ることがほとんどなくなり、会話や分析も智子相手のことが多くなった。他方、直哉は智子の絶望感を感じることもなく、愚かな状態に落ちたままだった。

「え? 魔族か?」

 だが、愚かなためか、直哉はこのミッションに積極的ではなかった。彼の内心に何か躊躇いか、いやなにかを選別するような意識が芽生えていた。それは、潜在意識で絶えず討とうとする敵だけを求めるように心が目覚め始めたのかもしれなかった。

 確かに、直哉は啓典の主によっておろかにさせられた。しかし、多くの敵との会合を経て、彼の潜在意識は敵の中に優れた敵、上位の敵が存在することを薄々感じ始めていた。それは、彼が本物の敵を感じ始め、本当の宿敵の存在を感じ始めたことを表わしていた。しかも、愚かな彼がそんな宿敵を倒すことを、意識せずにまた誰にも知られずに、求め動き始めたことでもあった。

「やるよ、母さん......魔族だったら、その中に僕の敵がいるかもしれないから......」

 その日から、直哉は毎回そんなフレーズを言いながら、魔族狩りに参戦するようになった。


 ウラジモスクでは、反対派の小軍団が、大陸勢力の中央政府を構成する指導者や組織を、目立たぬように次々に屠った。直哉たちは、小軍団に同行して、指導者たちの隠れていた地下のさらに奥底へと突入した。そのような所は、まるで飯倉の地下迷宮の小型版のような小型迷宮を備えていた。そんな奥底には、指導者たちを統括する魔族が必ず潜んでいた。ウラジモスクは中央首都であるがゆえに、そのような細かい組織化を敷いたことにより、家畜人類を制御していたのだった。このようにして、反対派の小集団は組織と指導者を壊滅するとともに、直哉が率先して小型迷宮に突入して魔族たちを屠った。

 そんな直哉たちを、大陸勢力のりん梓晴(アズハ)は確実に追跡し始めていた。


 直哉たちの殲滅の仕方は魔族側にしてみれば、許しがたいものだった。本来の魔族たちの殺し方は、対象となる人間を、楽しみ、しゃぶり、悲鳴と叫びを吸収し、そして死の限界になった時の対象者の命そのものをなめ尽くすものだった。ところが、直哉たちの仕業は中途半端だった。直哉たちを追跡して来た大陸制御区側の梓晴(アズハからみても、直哉たちのためらいのある命の取り方は、理解できない、いや魔族に対する冒とくにしか感じられなかった。これらのことから、林梓晴は殺された魔族たちのありさまを見て、怒りを増していた。

「この、中途半端な殺し方、まるで最低限に動けないようにして辱めている......許せない」

 その横で、父の輝晴が訝し気な顔を娘に向けながら、たしなめるようにつづけた。

「辱めているというのか? 彼らが魔族に対してそんな感情を持っているというのか? 辱めるという行為は嘲笑という意味がこもっているのだが......」

「ええ、これらの仕打ちは、わたしたちに対する嘲笑です」

「いや、お前は嘲笑を指摘しているが、それは敵が有している敵意にとらわれすぎているのではないか?」

「え?..」

「この傷などから見えるのは、何か別の目的を感じる......ただ、それが何なのか分からないのだが......」

「父上、わたしには父上の言っていることが分からなくて......そこから先を分析できなくて......」

 

 確かに、梓晴の父が指摘している謎の目的のために、直哉たちは魔族たちを屠っていくだけで終わりにはしていなかった。実は、彼らの魔族の屠り方は、必ず尋問と精神干渉をした末の魂の抜けたような状態だった。それは、直哉たちが、直哉の木刀の電撃術を活用して、ウラジモスクの大陸勢力の集団ごとに魔族を潜在レベルまでほじくり出すような尋問だった。それによって、彼らは魔族たちによる大陸勢力の支配構造を把握しつつあった。


「直哉、あんた、こんなことをずっと繰り返しているけど、いつまで続くの?」

「ああ、僕は、魔族を、魔族の心を探し回っている」

「それで、彼らの秘密はわかったの?」

「いや、もうすぐわかりそうなんだが……」

「それなら、今までの概要でも、共有しましょう」

「す、すまない、情報にはなっていないんだ......彼らの記憶の中には、殺した彼らが経験したイメージしか残っていない......殺した相手の数の分だけある様々なイメージが膨大過ぎて、まとめることが出来ていないんだ......」

 三人の議論で、直哉のイメージしかとらえられないというのは、魔族に対する接し方、情報の取り方、様々なことが考えられた。しかし、彼に制限があったのは、啓典の主に与えられた愚かさだった。それゆえに、魔族たちに直哉の恐ろしさを知らしめずに済んでいた。直哉はイメージをいくつも魔族たちの記憶から取り出すことを繰り返して、その度に驚愕し、その度に情報は握力が増した。それを限りなく繰り返すことで、直哉は魔族にも仲間にも誰にも意識できないほどにゆっくりと答えに近づいていくのだった。


 直哉は、潜在意識の下で、徐々に「前面に出ている魔族」「その背後にいる総括者たち」「総括者たちの背後にいる何か」というところまでイメージしつつあった。それは、大陸勢力の指導層の背後に、魔族が隠れて操っていることを示唆していた。そのイメージの後ろには、さらに支配者の姿が感じられた。この段階の直哉は、魔族たちにさらに彼らを支配する王が存在し、そればかりではなく、それぞれの王たちの上に君臨する者がいることも、おぼろげながら把握しつつあった。ただ、直哉たちは、それが何者なのかを知る手掛かりを必要としていた。そして、愚かであるがゆえに、この段階でようやく、直哉は啓典の主の働き掛けが顕在化し、潜在意識の下にある使命を明確に形成しつつあった。

____________________


 ある日のこと、直哉の目の前で起きたことだった。

 非常に背の高い魔族の男が、大陸勢力人の子供たちを捕まえて絡んでいた。どうやら、魔族は朝っぱらから子供たちを騙す口ぶりでいばりちらしていたようだった。

「お前、誰のおかげでこの町中で暮らしていけると思っているんだ?」

「はい、魔族様のおかげです」

「そうか、家畜人類たち、おっと失礼、未来の同志たちよ」

 魔族は増長し、周囲の大陸勢力の大人達も相槌を打った。

「はい、同志、魔族様」

 この時、魔族の視野にいきなり横切る母子の姿があった。

「おい、そこの女......その息子を此処によこせ......俺が此処でお前たち家畜人類に向けて、説教をしてやっているんだ」

 母親も、その幼い息子も顔を上げずに、そのまま通り過ぎようとした。

「待て、と言っている」

「お、お許しください」

「待て、と言っているのが聞こえないのか? 女!」

 魔族はそのまま背をかがめて、母親と思しき女の顎を人差し指で引きあげた。

「お前、美女ではないなあ......この醜悪さ、駆逐人類だな....この害虫どもめ」

「お、お許しを......」

 周囲の大陸勢力の人間たちが、大人もこどもも、その母子を助けようとはしなかった。それどころか、大人たちがハンサムな顔に担わず、口汚い言葉を発し始めた。

「醜悪な人間、醜悪な子供め」

 周囲の子供たちも、母親に庇われている幼子と同じ年齢のはずなのに、同様に醜悪な言葉で雷同し始めた。ただ一人のその幼子だけは、相槌を打たずに魔族を睨みつけていた。

「おかあさんをいじめるな! お父さんはそんなことをしたことなんてない! いったことない! そんないいお父さんだったのに、お父さんは強制的に連れて行かれ、『駆逐人類』といわれて野生の剣闘士として、なぶり殺しにされた。お母さんも、連れて行かれた。僕がそこへ行くと、お母さんの声が聞こえた。悲鳴だった。だから、ここまで僕が引っ張ってきたんだ」

 それが、その子供の訴えであり、ただ一人だけが相槌を打たないことの理由らしかった。

 魔族はそれを笑いながら眺め、さらに恐ろしく低音が地響きを増すように言葉を継いだ。

「幼子の極悪人よ、我々が一度捕らえた囚人を逃亡させるのかね」

「僕が、お母さんをまも......」

 この言葉が幼子から出た途端、魔族は人差し指で弾き飛ばした。

「駆逐人類め、お前たちは始末に値する」

 母親は涙を流しながら、幼い息子をかばおうとした。

「お慈悲を! お慈悲を!」

..................


 智子はその情景を見て、はっとして直哉を見つめた。彼はまだ、彼らにとびかかってはいなかった。彼は王たちの背後にいる存在を探らなければならないはずだった。それゆえ、直哉が次第に体の震えを増している様子を見て、智子は直哉をたしなめた。

「だめよ!」

 直哉は、子供に対しても雷同を強制するという魔族に怒りを燃やしていた。さらに群衆達にも、それをあおる魔族にもさらに怒りの視線を受けた。

「お、おのれ......く、くそ、外道め......」

「だめよ!」

 智子とアリサは、感情を押し殺しながらも魔族から目をそらそうとしない直哉を、やっとの思いで引っ張り出すのだった。


 三人は、こんな状況を何度も見ては離脱を繰り返した。こんなことをところどころで繰り返しながら、暗殺者として魔族狩りを続けていた。智子にしてみれば、直哉が絶対に動いていることを知られてはならなかった。直哉は繰り返し繰り返し、魔族と彼らに雷同する人類に対する憎しみに苦しみ、声を上げた。智子とアリサは、そんな直哉の心を静めることに毎晩苦労した。彼らは、毎晩二人で直哉とともに小さく静かな歌を歌った。それだけが、毎晩非道を目にするがゆえに怒りの塊のなりつつある直哉の心、そして魔族たちの王たちの背後にいる影の存在に届かないがゆえにゆとりのない彼の心を、なんとか宥める唯一の方法であった。


「このまま、私たちは直哉を抑え続けられるのかしら......ここは、彼にとって怒りの風景ばかりが広がっている......私たち、いつまで彼をおとなしくさせて置けるかしら……彼の心はあまりに悲しみで満たされてしまったわ」

 毎晩、智子は、寝静まった直哉の顔を見つめながら、アリサとそんな会話を重ねていた。智子の心は、直哉の悪夢に苦悶し悲鳴する声にさいなまれすぎた。そんな智子の悲しみと絶望感が、ふたたび直哉を覚醒させた。

 ある夜のこと、むっくりと起きた直哉が、智子やアリサに大声で呼びかけた。

 「見つけたぞ.......この街の支配者たる王の場所..........迷宮宮殿だ......だが、この都市のどこにもない……そうだ、魔族狩りごとに、静かに街中を歩き回ったじゃないか......だから、駆除人類と呼ばれたかわいそうな人たちも、助けもせずに、人間の屑になることにも甘んじて......地下なのだろうかとそれらしいところも目を配ったさ……そうして、やっとわかったんだ......彼らは郊外の広大な野原の上に立てているのさ」

「でも、その野原って何もなかったはずでは?」

「彼らは魔法使いさ、そんなことは膨大な魔力がありさえすれば、異次元空間や透明城塞を作るなんて、軽いのさ....でも、その異常な魔素が消費されることが分かって、初めて僕も場所が推定で来たんだ」

 直哉の叫びに似た声と告白のようにして、智子とアリサは、直哉の示す宮殿のありかを知った。絶えず膨大な魔素を消費しつつ、眼に見えないように処理を魔力によって姿を隠し続ける迷宮宮殿がついに見つかった。それは、グレムランと呼ばれる迷宮宮殿だった。


 そのグレムラン宮殿では、あちこちで魔族が退避を急ぐ声が響いていた。

「ウラジモスクの街中で、次々に大陸勢力の指導層が亡きものにされ続けています」

「我々の街中や郊外の施設、小城塞、小迷宮が次々に襲われています……このグレムラン宮殿も、襲われることは時間の問題ではないかと考えられます」

 王妃ツィラの側近たちも、同じように浮足立っていた。だが、王妃ツィラは、なぜ自分が脱出しなければならないのかと疑問を強く持っていた。

「何を言うのか? このグレムラン宮殿が襲われることはないぞよ......透明化魔法によって、所在が分からなくなっている......誰にも発見されることはないはずだが......」

「確かにそうですが…しかし、何らかの現象で発見されないとも限りません」

「そんな可能性にもならない事象など、捨て置け」

 王妃は側近たちでさえも浮足立っている状況に、誇りを傷つけられて怒ったまま、まだぐずぐずしていた。だが、後に王妃はこのためらいを後悔することになった。

「ツィラ妃陛下、我々も直ちに撤退しましょう!」

「待ちなさいよ、あんたたち、何処へ撤退するというのよ?」

「陛下、とりあえず城外へ退避し、その後は......本国へ」

「本国、神殿都市? どんなルートで? そぅら、想定できないだろうが......我々は退路を断たれているんだよ!」

 ツィラがいら立ちを込めて側近を怒鳴った。そこに、最後の撤収を始めようとした警備兵の指令が飛び込んできた。

「陛下、反対派が大勢突入してきました……特に先頭の三人が『王はどこだ!』と叫んでいます……彼らはどうやら陛下を目標としているようです......状況から見て、宮殿全体が占領されるのは時間の問題です」

「私は、ここを死守するつもりだ......逃げ出したい奴は、逃げ出してかまわん!」

「陛下! 今はお逃げください!」

「何を言うか! 私は...」

 ツィラは我を張り続けていた。そのとき、謁見室にドドドッと警備兵たちが押し込まれてきた。

「敵兵中枢部に侵入」

「防御陣形形成!」

「敵兵、謁見室へ接近、突撃してきます」

「司令、敵の突撃兵、止まりません!」

「先頭の3人、わが方の攻撃をすべて撃破しました!」

「全員謁見室内へ退避!」

 この状況になって、第一王妃ツィラと側近たちはやっと退避路へ動き始めた。すでに反対派たちが突入してきている騒音が届いてきていた。

「さあ、陛下、此方へ!」

「わかった、とりあえず逃避することにしよう」

 こうして、退避通路へ警備兵の最後が飛び込んで重い金属製扉を閉じた時、謁見室に直哉たちが突入してきた。

「王はどこだ!」

「あっちに退避路が!......この金属製の重扉を開けないと!」

「直ちゃん、電撃で開けられない?」

「やってみよう、たぶん可能だよ」

 直哉は木刀を金属製扉に接触させると、火花が四方に散ってドアが煙を上げながらゆっくり開いた。開いた退避路は煙が充満しており、その先に、逃げていく者たちの足音が無数響いた。この足音を聞いた直哉は、発作的に彼が見殺しにしてきた者たちの惑う姿が浮かび上がった。それは、同時に彼の溢れる涙と深い悲しみと激烈な怒りを、同時に顔に表した。

「逃がすかよ!」

 そう言うと、直哉は木刀を振り、退避路の空間全体にすざまじい雷撃を満たした。

「あ‘‘-」

「ぎゃー」

 まるで一網打尽のイワシのように、直哉は退避路の先まで達していた警備兵たちを、すべて倒していた。

「魔族たちを探して! 直ちゃん、倒れているそいつらを調べれば、この宮殿に巣喰う王が誰だか分るでしょう!」

「わかった!」

 直哉は退避路の出口付近で倒れている魔族たちを捕まえて、彼らの記憶内のイメージを探した。そして、彼が魔族たちのイメージの中で、彼らの目の上に立っている王の姿を把握した。しかも、立っている王の背後には、彼がいつも見てきた王たちの背後にいる存在が、やはり蠢いていた。

 彼は記憶取得動作から急いで意識を取り戻し、周囲の魔族たちの姿を一人一人確認した。その中には、彼が得た王のイメージに合致した魔族の姿はなかった。

「倒れた此の奴らの中にはいない、王は逃げた!」

「追いましょう!」

 彼らは、退避路の先へ出た。しかし、そこには無数の足跡はあったものの、既にだれがどこへ逃げたのかはわからず、当然宮殿において王であった者の逃げた先はわからなかった。

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