第2章 術師への道 5 入学時実力考査 木刀(シェイベッド)の電撃技
「みなさん、本日は皆さんの能力別教育を行うに当たっての、様々な能力を考査します」
講堂に整列している生徒たちを前にして、学院長の建永は、そう言いながら自らの体力の一面を示すかのように腕まくりをすると、講堂の一角へ教師の一人を行かせた。そこには、さまざまな道具がしまい込まれている倉庫があった。倉庫の中でガチャガチャ音がしている間、建永は説明をつづけた。
「これは、異術発揮の基礎となる、術力の大まかの方向性とその強度を調べる測定器です……結構珍しい機器ですが、この学院は異術を専門とすることもあって、あと2台程保持しています」
建永がそういいおえると、先ほどの教師が、高さ2.5メートル幅1メートルほどの機械を全員の列の前に引き出してきた。その機械の測定セルは、被験者の身体全体を覆うようにできていた。その異様な形態を見て、体育館中の一年生たちにどよめきが走った。
「みなさんは、今までこのような装置での測定を行ったことはないと思います…まず、みなさんには知力と体力がありますね。そのほかにも、ここにいる皆さんには異術に関する術力があります……いわゆる魔力、法力、精霊使いの力ともいわれる類です……異術には、他の体力を増強する力がまず思い浮かびます……そのほか、電磁場能、神経霊能、物質能、槍剣能があります」
この説明で、生徒たちは、それぞれがどんな能力を持つのかと俄に考え出し、騒ぎ始めた。この種の話になると、特に男子生徒たちはうるさかった。
「へえ、俺はなにをもっているんだ?」
「俺はどうなんだろう?」
「こんな細い私にも、あるのかしら?」
彼らは口々に、自分に何か氏らの術力があるように語り合っていた。直哉は、しばらく周囲を見渡した後、ポツリと自信なさげに独り言を言った。
「僕には何もないよ。昔、夢な何かで「与えられる」とか言われていた力も、その後はよくわからないし......」
「では、入学時実力考査の初めにあたって、まずはこの測定器を使います…早速だが、落第生から始めます....もしかすると、術力の成長が観測できるかもしれないのでね…では、刈谷君」
担任となった釈紫陽はそう言いながら、総一郎を全員の前に呼び出した。総一郎は、測定器を見上げながら前に出てきた。紫陽は総一郎をセルの中へ入れこむと、測定プロシジャを開始させた。
「ここでは、体力がまず測定されます……その次に、術力が測定されます.......刈谷総一郎君の術力ベクトルの方向は複数ですね……体力増強術、電磁場能、物質能が示されていますねえ……忍術使いの伝統を受け継ぐ刈谷家らしい数値が、ますます拡大していますね」
測定の結果を、こう指摘されながら、総一郎は出てきた。その顔は、どうだとクラスメイト達を睥睨するような表情だった。
「次は、釈君」
次に呼び出されたのは、測定を担当している紫陽の息子悠然だった。
「釈悠然くん、君まで落第しているとは、嘆かわしいね……せめてこの測定で、成長していることを願うよ」
「うるせえ、親父」
「馬鹿垂れ、学院内では父子ではない! 教師と生徒だぞ!」
紫陽はそう言いながら悠然をセルの中へ導いた。
「術力ベクトルの方向は複数ですね、体力増強術、電磁場能、神経諸霊能、物質能の方向性が示されています……仙術使いの釈のメンバーたちと同様の値ですね……ただし、成長はしていないぞ、と」
こう指摘された悠然は、ふたたび担任である紫陽に食って掛かった
「余計なことをいいやがって....俺をダシに使うなよ!」
「次、趙虹洋さん」
虹洋は、手を振りながらセルの中へ入って行った。
「術力ベクトルの方向は、うーん、他者と比べて圧倒的に体力増強術と槍剣術が強いですね。それから、少しばかりの電磁場能が観測されています.......さすが、カンフーの第一人者だけはありますね」
こうして、クラスメイト達が順序良く測定を受けて行った。測定の終わったクラスメイト達は、次の実技考査が行われる校庭にでるために、講堂の出口付近に群れていた。直哉は自信がないこともあって、出来れば受けないで済ませたいと考えて、外へ出る準備をしているクラスメイト達の群の中に、紛れ込もうとした。だが、その彼の姿を担任の紫陽は見逃さなかった。
「高橋直哉君....君が最後ですよ......ダメですよ、隠れていてもこちらからはよく見えているんだから」
直哉は、クラスメイト達の群に隠れて壁際で頭を抱えていた。紫陽から見ると、尻だけを紫陽に向けており、これで隠れているつもりか、と言いたくなる格好だった。
紫陽はすたすたと直哉に近づき、嫌がる直哉の首根っこを押さえながら、測定セルへと引きずり出していた。
「昨日の初めての授業の後で受けた、身動きのできない特訓であちこちをいじめられて、あの、もう身が持たないんです......ど、どうしても測定しなければいけないのですか?」
「体をいじめることは、体力増強につながるからなあ...まあそう言うこともあるね…それに、入学したばかりだから、君の不安通りに術力が最低ということもある......それはそれでこれから成長するのだから、かまわないよ...いずれにしても、測定は受けてもらうよ!」
「僕、不可思議な術力なんて、持っていないですよ!」
「いいから、いいから! さあ、さあ、入って!」
直哉はいやいやながら測定セルの中に入って行った。中でもぞもぞ動いている間に、担任の紫陽は測定結果を指摘した。
「うーん、体力はありますね......ただし、術力になるとどの方向性も最低ライン……いや、測定限界以下ですか....うーん、これ以上測定しても、変わりません、検出できませんね……はい、それでは結構です」
紫陽は指摘すると独り言を言った。
「これじゃあ、一般人と同じ…ではない、一般人にも劣る数値だな...ということは、体力だけはあるノウキンだ、ということか......これは術力を鍛えても無駄だなあ...ただし本人には言わないでおこう」
このとき、直哉は、測定が終わったのだろうと思い、セルから出ようと力んだ。このとき、突然、セルと測定システムが勢いよく火を噴き、測定回路部分を吹き飛ばした。そればかりでなく、講堂の用具室でも似たような爆発音が聞こえ、見に行ってみると、やはり二台の測定器の回路部分が吹き飛んでいた。
この爆発音に気づいた建永は、急いで紫陽の許に駆け付けた。紫陽は驚きの余り吹き飛んだ測定機器の回路を見つめているばかりだった。
「何が起きたのかね?」
建永が訪ねると、紫陽はわからないという顔をしながら建永に振り返った。
「わかりません…高橋直哉君の測定が終わって力場を切る直前に、測定器の回路が吹き飛んだんです」
「ここの部分だね? うーん セルの中から回路に、許容限界をはるかに超えた入力があったんだね…ただし、体力増強術も電磁場能も神経諸霊能も物質能も槍剣術能もゼロのまま…つまり、測定されている被験者から未知の術力が瞬時に現われ、瞬時に消えたということだ......まるで電のように......これは高橋くんに関連する現象なのだろうか?」
学院長の建永から見ても、直哉は一瞬だけだが測定回路を破壊するほどの出力を示したということだった。しかも、先ほどまで彼らが測定対象としている各項目の値が検出限界以下のはずだったのが、その瞬間だけ測定機器を振り切らせるほどの数値を、一瞬だけ示したことは非常に不思議なことだった。
「これは、術力を測定できたというべきか、なかったというべきか、謎だ」
結局、直哉は体力だけはあるノウキンと判断された。彼が術力を持っていたのか、測定された現象が何だったのか、そもそもどんな術力によってこのような破壊がされたのか、一切は謎だった。教師たちはそんな現象に首をひねりながら「故障に違いない」と結論した。
次に、彼らは実技考査の準備に取り掛かった。
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実技考査は、生徒たちがそれぞれ得意な技を披露することで、測定された術力を実際に示す場だった。
実技は先の測定に準じた順番通りに披露されることになり、最初は総一郎の番だった。
「新一年生のお前たち、俺は落第生とはいえ、実力はお前たちより格段も上だからな…俺の術力を存分に見ておけよ」
総一郎はそう言うと、忍術の主要な遁法である五遁の術を次々に披露した。
まず、火遁の技を示し、校庭内に作っておいた塹壕を利用した土遁、校庭の先にある川にもぐりつつ高速で去っていく水遁、校庭の外に鬱蒼と茂る林に入りこんで紛れ込む木遁、その先で草木と風によって尿蜂のような轟音で惑わせつつ隠れる金遁......彼はいつの間にかクラスメイトや担任の目から完全に消えたように感じた。そう感じた途端、全員の後ろにふわっと立って涼しい顔をするのだった。
次は、釈悠然だった。
「俺の番なの? じゃあ、そうだな......みんなが知りたいことを此処で見てもらおうか」
彼は、クラスメイト達の真ん中に立つと、白い煙のようなものを立ち込めらせた。そこには、クラスメイト達がうわさをしていた直哉と梓晴の二人の立体投影が浮かんだ。そして、彼ら二人の周囲に見えたは夫婦寮の内部だった。
「え? ア、ダメ、やめて」
梓晴は途端に悠然の立体投影像へ駆け寄ろうとした。しかし、周囲の女子生徒たちがそれを阻止しながら笑っていた。
「いいじゃない、夫婦だったんでしょ?」
「彼、優しかったんでしょ?」
他方、直哉も立体投影像に駆け寄ろうとしたのだが、やはり男子たちに羽交い絞めにされていた。
「や、やめてくれ」
「なんだよ、隠さなくたっていいじゃないか」
「彼女に手を出さなかったんだろ?」
「女を目の前にして、一歩も動けなかったんだろ?」
周囲の男子生徒たちはそう言って直哉をちゃかした。
そう言っている間に、投影像は直哉と梓晴とが夫婦寮に案内され、直後に閉じ込められた場面が現れた。このとき、場面の中の直哉は歓声を上げていた。
「この部屋はすごいなあ、トイレ付きは当然だが、バスルームがアクリル製の透明な壁で、バスルームの外を監視できるんだな、つまりは泥棒を監視できるということか!」
「あ、あの、高橋直哉さん?」
「え? 林梓晴さん、だっけ、なぜここに残ったの?」
「私たち、ここに閉じ込められちゃったようね」
「え、なぜ? ど、どういうことだよ?」
「私にもわからないわ」
「そ、そこに、『部屋の使い方、注意点』と書いてある冊子があるぞ」
「え? これね……ねえ、この冊子にによると、ここは『夫婦寮』だって!」
「え? 夫婦寮? なんだそれは?」
「結婚した男女が一緒に住む寮でしょ!」
「け、結婚? なんだそれは?」
「結婚て、あの、夫婦として、一緒に過ごすことよ、例えば、食事をとる時とか、お出かけする時とか、お風呂に入るときとか、寝るときとか、いつも一緒に過ごすのよ」
「一緒に入るのか? 一緒に寝るのか? そ、そうか、だからベッドが広いのか...」
「それから、夫婦生活をするのよ」
「なんだ? その夫婦生活って?」
「あの、だから、二人で手を取り合って、キスして、それから体を重ねて一体になって......」
「体を重ねて? 一体になる? どういうことだ?」
「し、しらないわよ」
「でも、一体になると言ったのは、あんただぜ。知らないことを言うのか?......ぼくは、啓典で読んだことがある....しかし何のことやら?」
梓晴は、黙っていた。直哉は独り言をつづけた。
「あの時も、何のことだか、さっぱりわからなかった、母も父も教えてくれなかったし、智姉は聞いても教えてくれなかった......」
「あなた、それで高校生になったの?」
「あ、ああ」
「そ、そうなの? じゃあ、女の子と一緒に過ごしたことは無いの?」
「あ、あるさ! 智姉は優しいから耐えられた....でも、それは僕の望んだことじゃあなかった」
「耐えられた? 望んでいない? 貴方は女の子をどんな風に考えているの?」
「そんなことは小さい時からちゃんとわかっているさ……触ったら壊れてしまう、絶対不可侵の神聖な存在だ」
これを聞いた梓晴は、思わず笑った。
「フーン、そんな理解なら、それでもいいわ……謹慎が解けるまで、何とか過ごしていきましょ」
「ああ、そうだな」
二人は、こう言い合いながら、それぞれにあてがわれた机やタンスに、自分の持ってきた荷物をしまい込むのだった。
続いての投影像は、夕食のひと時のシーンを映していた。
「あの、高橋くん? 夕ご飯どうするの?」
「そうだね。林さんは?」
「そう、一食抜いてもかまわないけど......」
「いや、妙齢の女性が食事を抜いてはなりません...肌や体調をすぐに悪くしてしまう」
「でも、ここには食堂のようなものは無いし......」
「いや、冷蔵庫には一応、サラダに使えそうな野菜も、スープに仕えそうな根菜も肉もあるから...」
「え? そうなの? 私作ったことがないから......」
「じゃあ、僕が作るよ」
このとき、こう言った梓晴が、料理の順序を始めた直哉の後姿を見つめている場面が投影された。
「じゃ、私も手伝うわね」
こう言いながら、梓晴は何かをやろうとするのだが、何をしていいのかわからず、直哉を離れたところからずっと見つめるだけになった。
次に、食事の終わった後のシャワータイムのシーンが投影された。この時の梓晴は、浴室が透明な壁に覆われていることに戸惑っていた。
「あ、あの、シャワールームなんだけど」
「ああ、あんたが使っているときは、中を見ないさ」
「貴方が中を見ないと、言えるかしら? しかも毎晩のことよ! 約束されてても、それが守られる保証は無いわ」
「ああ、そうだな.......その透明な壁については、僕に一案があるんだ」
直哉は、持参していた木の棒を振り上げて、そこからサンドブラストのような電撃を繰り出した。すると、アクリル板が浴室の中から曇りガラスのように細かい傷がついた。これによって、アクリル板は一応不透明化処理がなされた。
この処置を見て、梓晴も納得した。
「その木の棒は不思議ね」
「ああ、土を耕す鍬にもなれば、様々な細かい作業につっかえるんだ......シェイベッドという木刀のような木の棒なんだけどね」
「へえ、これだけ曇っていれば、見えないわね……じゃあ」
「安心して、シャワーをどうぞ」
直哉は、自らが曇処置したアクリル板を見つめた。ちょうど、浴室の中からは鼻声とともにシャワーをかぶり始めた梓晴の雰囲気が伝わってきた。
ざざー、ざざー。浴室では梓晴が激しい湯量でシャワーを振り回すように使っていはじめた。それが、直哉にとって慌てさせ、自信を失わせる事態をもたらした。
「中の、この姿は何だ....え、は、裸の姿? これはまずい……そ、そうか......水がかかると表面が平らになって透明になるのか? だが、水が落ちれば再び曇る.......それなら見なければいいんだ...」
こう言って彼なりに納得したものの、それで解決する問題ではなかった。
「それなら、こちら側の明かりを消そう」
だが、これはまた、浴室の様子をさらに浮かび上がらせた。そうか、
「こ、これはいけない......だが、もうどうしようもなし……」
この投影の時、男子生徒たちから直哉に声がかかった。
「なんだ、直哉は慌てているぞ……曇りガラスが透明になって慌てていやがる」
「見える物体をなぜ素直に見ようとしないんだ?」
他方女子生徒たちからも声がかかった。
「曇りガラスだなんて言っておいて、中の無防備な姿が丸見えじゃないの」
「やだあ、高橋直哉君も結局、エッチだったのね」
「でも、高橋くんは、見えるのに見ようとしていないわね?」
「つまり、意気地なしなのね」
直哉が特にいろいろ言われ続けていた。そうしているうちに、今度は就寝している場面が現れた。
「ねえ」
梓晴が、深く眠っている直哉に声をかけていた。さらに彼女は目覚めない直哉を指でつつき、体をゆすった。
「ねえ、ねえってば」
「な、なに?」
「外から何か聞こえる」
「うーん、智姉、何だよ」
直哉は寝ぼけて梓晴の手を取って梓晴の身体を引き寄せて、智姉の名を読んでいた。
「誰よ、『智姉』って?」
「え? 誰? ここは? あ、林梓晴さん!?」
「そ、そうよ......それよりも、外から恐ろしい声が聞こえるのよ......死霊の声よ!」
この段階になって梓晴の耳には、先ほどまで恐ろしく響いていた声は、別の種類、すなわち男女の絡み合いの声であることが分かった。途端に梓晴は顔を真っ赤にほてらせた。
「あんな声が出るのかしら…これから毎晩あんな声が聞こえるのかしら……夫婦寮だからなの?」
ここで突然投影が終わった。教師である悠然の父紫陽が、はっと気がついたように投影を止めさせたのだった。
「お前、この術を覗きに使うなと言っておいたはずだ......ちょっとついてこい」
悠然は、父親に耳を掴まれて悲鳴を上げながら職員室へと引っ張って行かれてしまった。
しばらくたってから、教師である紫陽が実技考査を再開させた。
次は趙虹洋によるクンフーと青龍刀による演武が行われた。そして、その後は弾みがついたように、次々に生徒たちの実技が披露されていった。最後にいやいや出てきたのは、木刀を持った直哉だった。
「これから、この木刀を振り上げ振り下ろす練習をご覧にいれます……僕は、剣を鍬に代えることを常に考えていました。それが、これからやる演目です。
彼はそう言うと、木刀を振り上げ振り下ろす動作を繰り返した。たしかにビューという音とともに風が起きていた。この後、何か起きるのかと、クラスメイト達は色めきだった。しかし、直哉の説明はつまらないものだった。
「僕がひたすら続けてきたのは、この棒の振り上げ振り下ろしです」
これには、周囲のクラスメイト達は文句を言った。
「そんな程度で入学して来たのかよ」
「そんな戦いの意思も感じられない技なんか、やめちまえ」
この時、総一郎は、周囲のそんな声が響いたことで、新たな餌食を見つけたような顔をして、直哉の近くに寄ってきた。
「お前、さっきの測定でもゼロだったらしいな......だから、そんな棒を上下に振り回す芸当しかできないんだろ?」
「これは、剣を鍬に代えた運動で......平和を求めての...」
「何、寝ぼけたことを言っているんだ? ここは戦いの技を学ぶ学院だぜ」
「平和を求めて何がいけないのだろうか?」
直哉は抗議の意味を込めて、淡々と総一郎を見上げた。総一郎は、それを見返してさらに嘲笑をつづけた。
「お前は、あの時俺たちを不意打ちで叩きのめしたよな......そんな奴が、見かけによらず腰抜けなのか.......俺はこんな腰抜けにやられたのか? そうか、不意打ちでお前はここに入学できたんだな? それなら、俺が改めてお前の力を試してやるよ」
「ぼ、僕は、この棒を振ることしかできないのに......」
直哉は抗議の意味でそう言ったのだが、総一郎はそう言われて怒りを表わし、そのまま忍術の構えをとった。
「へえ、それなら不意打ちでない形で俺と渡り合えるかどうか、試そうぜ」
不意に、総一郎の周囲に土煙が立った。土煙が総一郎の姿をすっかり隠すと、そこからいくつもの小さな剣が、続けざまに直哉を襲った。金属が風を切る音がいくつも続くと、梓晴や虹洋たち女子生徒たちが悲鳴を上げた。直哉は顔色を変えずに木の棒を木刀として上下に振り、投げられたすべてを振り払った。
「へえ、運動能力だけはあったから、そんなこともできるのか? じゃあ、これはどうかな」
あたりが急に暗く暗闇に覆われると、そこに見たことの無い土色の怪物が押し寄せた。それは、総一郎と直哉にしか見えない幻術だった。直哉は驚いて飛びのくと、真っ直ぐに木刀を総一郎めがけてかざした。
「僕は、これからこの木の棒の先に、この金具をつけて、振り下ろしを繰り返すことにします」
それは鍬の動作だった。この動作が始まると、巻き上げられた土の粉塵が大量に舞い始めた。それは、辺りを薄暗く、濃霧のように視界と日光を遮り、これ以上屋外での作業ができないほどであった。
「土が問題なら、この鍬でさらに耕すんです」
直哉はそう言うと、土ぼこりをさらに巻き上げた。すると、怪物を制御していた総一郎が、急に発狂したように声を上げた。先ほどまで総一郎が制御していたはずの怪物が、今度は総一郎を襲い始めた。しかもそれは、一匹ではなく巻き上げた土ぼこりの数だけの無数の怪物となって総一郎を襲ったのだった。
やっとのことでしのいだ総一郎は、冷や汗をかきながらゼイゼイと肩で息をした。ただ、周囲には一切何が起こったのかわからなかった。単に土ぼこりが舞い始め、それに巻き込まれた総一郎が、急に暴れ出し、ゼイゼイ肩で息をしていただけだった。他方、直哉は涼しい顔をしながら、フーと深呼吸をして、平然と実技を終えましたと、その場にいた教師たちに報告したのだった。
周りのクラスメイト達は騒然としていた。
「何が起こったの?」
「急に土ぼこりが起きて、刈谷がその粉塵に巻かれるようにして、倒れたよな」
彼らの声を聴きながら、総一郎はその場でしばらく動けず、息も切れ切れに独り言を言った。
「あれは何だ。周りの連中には何も見えなかったのか? 幻影を俺に見せたのか? いや、幻影じゃあなかった......確かに土の色をした俺の怪物が無数になってもどってきやがった....」
実際には、直哉の木刀の先端から発した非常に小さな無数の電撃パルスが、総一郎の神経を惑わせ、幻覚を見せていたのだった。




