妖精を釣った
口いっぱいに寿司を頬張りこちらを覗いてくるどろこ
「かわいいな」
頭を撫でるとにこにこと笑っている
できる限り守っていきたいそう思えた
ピンポーン
唐突になったインターホンで俺は現実へと引き戻された
「なにあれ?」
どろこは指に付いた米粒を舌で取りながらインターホンの音について聞いてきた
「誰かがここに来たみたいだ、なんも頼んでないしな?誰だ?」
今日に届く荷物などないしうちに来るような友人もいないなぜ昼間にインターホンがなったのか理解ができない
リビングから玄関へと近づいていく
「むすっ」
気になるのか俺に着いてくるどろこは怪訝な表情だ
「どうした?なんかやなのか?」
玄関近くに差し掛かった頃どろこに聞いてみた
「なんか、や」
どろこが歩みを止めたと同時に袖を引いた
もう玄関のドアは目の前だった
どーしたんだ?そう聞こうとした時
ピンポーン
インターホンが再びなった
「出ちゃだめなの!」
どろこができる限り力を込めた外に聞こえないような声でこちらに話しかけてきた
「大丈夫だよ、俺が守るから後ろにいてくれ」
安心させようと振り返り、目線を合わせ優しく声をかけた
「けどけど、でも、」
「大丈夫」
わしわし
頭を撫で、進行方向に向き直る玄関ドアに手をかける
ガチャリギーっと音を立てドアが開いた
リビングに茶やらなんやろも出さずに雑に俺の前に座らせた男は“和田 菫”小学校からの親友で女っぽい名前だが男だ
「さては今日も家を出てないな」
絶妙にムカつくイケメンの顔でこちらを覗いてくる
「残念今日は釣りに行ったんだよ」
高校1年の頃不登校となってから釣りか散歩かでしか外に出ない生活をはじめたのももう昔だ
「ほーん、珍しいことでもあるもんだな空から槍でも降ってくるんじゃあないかって、いつも通りのを言いたいとこなんだけど、」
ちらっと俺の膝の上に日本人離れした碧眼の目を運ぶ
「なに」
ぶっきらぼうに敵意を出して答えたどろこは俺の膝の上を陣取るように座り菫をふくれっ面で睨んでいる
「その子、隠し子かい?」
神妙な顔でこちらを見ながらバカみたいなことを聞いてきた
「は、何言ってんだお前」
どろこの頭を撫でながらそう答えた
「いや、え?何はこっちのセリフだよ、どこのだれの子なんだよ?」
「そう言われてもなあ、俺にもよく分からないんだ、ただ池で釣っただけだ」
「、、、、、」
長い沈黙が流れた
「は?いけって、あの池かい?」
「そうだぞ?というかお前が教えてくれたあの公園の池だからな?」
「は、、あの」
「「池から?」」
菫とハモったところでどろこが
「つまんない!」
どんっと急に立ち上がった机の上に
「アホ毛ちゃん立っちゃダメだよ」
あたふたとどろこに手を伸ばし座らせようとする菫にどろこは
「や!触っちゃや!アホ毛ちゃんじゃないもん!どろこだもん!んべー」
菫のことがよほど嫌なのかあっかんべーと敵意むき出しで睨んでいた
「でも危ないし」
めげない菫
「やーだ!」
そういったその時どろこの手がこめかみに付き
みょんみょん
アホ毛が動き出した
「おまっ」
「いけすかないやつきらい!」
どこでそんな言葉覚えたんだ、そう思考したときには
ふわっ
菫は光に包まれ空中に浮き出した
「わっ、なんだよっ」
突然の出来事で混乱しているのだろう菫は声を荒らげた
「むーっ」
どろこがより険しい顔になると
ドンッ
菫は大きく弧を描きながら床にたたきつけられた
「ぬあっいだっああっ」
盛大に大声を上げたと思った次の瞬間ピクリとも動かなくなった
「、、、んさい、ごめ、、」
「もう、、るなよ」
「はい、」
意識が暗闇の中に沈んでいるとき頭に響くような甘美な女の声と共に聞き飽きた男の声が聞こえた
ぺちっ
「おーいすみれー」
男の声に乗って頬に微かな痛みが響いた
ぐっ
重い瞼を無理やりこじあけられた
「まぶしっ」
周囲の眩しさに目がなれると視界に
「あ起きたよ!」
艶のある黒髪、褐色の肌、美しい深い深い漆黒の瞳
愛おしいと形容できる人の顔がこちらを覗いていた
横から男の声が聞こえる
「お、起きたか、起きたんならとっとと立ち上がれ?」
ぺちぺちと俺の頬を軽くビンタするその顔には見覚えがあった
「大章」
「おう、親友のアキラさんだぞ」
「なーにが親友だ、腐れ縁だろうが」
上体を持ち上げ起き上がる
「いったた、何があったんだ、」
体が少し痛んだ
「ほーら、どろこ痛いってさ
とっととあやまれ、こいつちょろいからすぐ許してくれるさ」
アキラが見つめる方を見ると先程の少女がいた
「ごめんちゃい、」
多少アキラに締められたのだろうアホ毛と華奢な体がしょんぼりとしなびている
「いいよ、これくらいだいじょーぶだよ」
優しく声をかけると
「ほれ、ちょろい」
横から茶化された
「お前はつくづく、ガキだな」
「あァ?」
「邪魔だ」
グイッ
アキラを押しのけ立ったとき
ひゅい
視界の端に何かがふわりと横切ったように見えた
どろこちゃんではないだろう、何かが横切った端の反対にアホ毛が写っている
「なんだろ?」
ちらりとそちらに視線を移動させた
ふわふわ
大人の拳ほどの幼女、いや、妖精が浮かんでいる、
「なんだ、これは、?」
白色の妖精と目が合った
「「、、、」」
数秒の思い沈黙の後
「「わぁっ?!」」
とんっ
ひゅーどんっ
僕は腰を抜かした
妖精は飛び上がり天井に頭をぶつけた
「何してんだお前、幻覚でも見えたか?」
「あっくん、隠し子ってふたりいるのか、?」
不意に幼い頃の呼び方が出た
「おじさん、なんかいるよ」
どろこちゃんは妖精が見えているのか見つめていたが、敵意をむきだした睨みだった
妖精に目線を戻すとまたも目があった
「ふぇ?おじちゃんたちあたしのことみえるの?」
唇に指をあてがい首を傾げる
「わたし、あいつ嫌い」
どろこちゃんは先程よりも強い憎悪を向けた
「にゃによ、あほげちゃん、あたしになんかようにゃわけ?」
妖精側もそれに呼応するように睨み返した
突然
トンっ
と軽い音と共に会話に入っていなかったアキラがジャンプをした
ガシッ
「ギャッ」
アキラの右手は心底どうでもいいものを掴むように妖精を鷲掴みにした
「ガキ、ひとんちに穴開けたぁ、いい度胸だなぁ?」
は、?
穴、?
ふと上を見ると先程ドンッと妖精がぶつかったとこ付近に拳大の穴が空いていた
「何すんのよ!?おっさん!離せよ!クソジジィ!」
アキラの右手の中で先程のふわふわした話し方はなんだったのかと思えるような罵声が響いてきた
「やっちゃえ!おじさん!」
どろこちゃんがかなりの情熱を持って応援をしていた
「とっとと離しやがれ!クソロリコンジジイ!クソド腐れぺドがよォ!」
「まてまてまてまて」
さすがにアキラを止めに入った時
ミシッ
ひとつの音から場が凍った
「おっさん!なんか鳴ったって!ちょ、!やめ、!」
流石に妖精も焦っているのか口調が優しくなっている
「分かったか?生殺与奪の権は他人《オレ》が握ってんだ」
「それはやめろ、どっかの少年たちが飛んでくるぞ」
ガシッ
とアキラの腕を握り手を開かせようとした
「どろこぉ!こいつなんか閉じ込めておけるだろぉ!?」
アキラは鬼気迫る表情でどろこちゃんに指示を出した
「あいよぉ!」
何故かノリノリのどろこちゃん
みょんみょんみょん
どろこちゃんのアホ毛がみょんみょんしだした
「3、2、1、で離すからなぁ!」
「あいあいさぁ!」
「ちょっとぉ!何する気なの!?やめてぇ!」
3人の覇気が僕を圧倒した
「3!2!1!」
グッ
とどろこちゃんのアホ毛が動きを止めた
「オラァ!」
どろこちゃんの方にアキラが妖精を投げつけた
「んーーー!」
んみょんっ
そのときどろこちゃんのアホ毛がかなりの速度で飛び出し、妖精を捕まえる檻となった
「ちょ!なに、?!」
俺と共に理解が追いついていない妖精ははてなマークを浮かべている
「何がしたいんだよ」
「そーよっ、、そーだよぉあたしににゃにするきにゃのスミレしゃまからもいってくだしゃい!」
口調が戻ったようだ
「天井の穴、修理費用ざっと20万だ」
ずいっと妖精に詰め寄りそう告げた
「は、?」
檻の中に閉じ込められかれこれ30分、目の前には薄汚い雌豚がこちらを観察している
しかもこの檻には何かの力が働きあたしは力や飛ぶことさえも使うことが出来なくなっている
「はぁ、結論を言えば、この妖精?は僕が預かってどーにかして20万を払わせると、それでいいんだな?」
「そーゆーことだな、はぁ、無駄に頭使って疲れたわ」
人間共があたしの処遇について話し合っている、話を聞いた限りあたしが天井の修理費用20万を稼ぎ、それをクソロリコンに払う、その間はスミレ様があたしを預かる、このようなことになった
コロッ
雌豚があたしの入った檻を転がした
「んぎゃっ、やめなさいよ!」
この雌豚はどろことよばれていたなんて品のない名前だ
「泥メス!やめなさいよ!」
泥メスは1度動きを止め、こちらを覗き、睨み、
ヒョイッ
軽く持ち上げられた
「なにするのよ!」
「よっと」
瞬間世界が無重力になった
「なぁに投げてんのよ!」
とんっ
「いったっ」
全身が痛みながらも檻の外を見ると
「大丈夫?」
スミレ様がいた
「うぅ、あいちゅがぁ、」
スミレ様は檻に指を入れ頭を撫でてくれた
「ところでこいつの名前なんなんだ?」
クソジジィの声が響いた
「こいつたぁなによ!あたしにだって名前くらいあるわよ!あたしの名前はフィー・フィッシャー高貴なるニンフの生まれよ!」
決まった、今のあたしめちゃくちゃかっこいい
「フィーちゃんか、可愛い名前だね」
「ひゃぁ、」
唐突に言われてしまって腰が抜けた
「高貴なる漁師さんよ、俺に賠償するのと、菫と暮らすなら出してやってもいいぞ」
「フィッシャーよ!そんな、直訳はださいじゃないの!とっとと出しなさい!クソジジィ!」
「俺はあーきーら、クソジジィじゃなくてアキラだ、次その呼び方したら折る」
「ふ、ふん!そんなこと出来りゅ、出来るわけないわ!」
全身から血の気が引いた
「どろこ」
「あいよぉ」
泥メスが返事をしたと同時に檻が今度はあたしの体に巻きついた
ミシッ
「んぎゃぁぁぁっ!ちょ!やめ!わかったから!アキラ!」
「ま、及第点だな」
アキラは泥メスの方を見た
「開けてやれどろこ」
「はぁい」
何故か不満気な泥メスは檻に指を近づけ
ひょいっ
と指を上にあげてそれに着いて檻だった髪は元の位置に戻った
「はぁ、あたしをこんな目に遭わせるなんて、不敬よ」
軽くアキラに文句を言ったと同時に突然
ふわっ
体が宙に浮いた
「きゃっ」
頭上を見るとスミレ様のご尊顔が見えた、私を優しく持ち上げたようだ
「あったかい、」
スミレ様の温もりに包まれていると不思議と瞼が重く、眠気が、、、