嫉妬のたまご
「第5回下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞」への応募作品です。
割り切った結婚だからこそ、お勤めしながら家事をこなし、夫にはみっともない事をさせなかった。
「結婚を機に評価が上がり、出世した」と夫自身も言っている。
それは私の内助の功によるものであるのは間違いない。
お見合いの席で初めて会った時の夫は……私が歯牙にもかけないタイプそのものだったから。
『先ずは見た目から』と髪型や服装、持ち物を整え、社会人として必要な知識、情報を毎日かみ砕いてレクチャーし、立ち振る舞いについても指導した。それも決して軋轢を生むやり方では無く『褒めて育てる』方法で、だ。
そればかりか、“反りの合わない”両家の調整は私がすべて請け負い、この5年間、両家の間で揉め事は毛ほども起こさせなかった。
こう言うと、私が家長で……夫を尻に敷いて操縦している様に聞こえるかもしれないが、そんな事は決して無い。
私は夫に基本従順だったし、何を求められても拒みはしなかった。
それなのに……両家からの『子供はまだか』の催促は私に集中した。
胸の内に秘めている事だが……私の側には落ち度は無い。
夫は、元々はだらしない性質だし積極的な協力はしてもらえなかったから『子供は授かりもの』と腹を括っていたのに……
目の前に飛んでもない物を置かれて声が大きくなる。
「あなた言ったわよね!『お互い割り切って結婚するのだから、結婚生活を維持する事を第一に考えよう』って!」
「ああ、確かにそう言った!! でも義務を果たさなかったのはお前の方だ!!」
「義務っていったい何なの?!! 家の事だってあなたの事だって私はないがしろにした覚えはないわ!!」
「子供を産んでない。その原因はお前の方にある!! オレの親も同じ意見だ!!」
そう!目の前に置かれた離婚届には、夫の名前の他に証人欄に舅姑の名前が書かれている。
「ふざけないで!! 子供は授かりものでしょ!! むしろ、非協力的だったのはあなたの方よ!」
「子供ができない原因はお前にあるのは間違いない!! 跡取り息子の母親が正妻になるのが筋だろう! 今ならお前は不能力者のそしりを受けず、金銭的にも有利な条件で離婚できるんだぞ!!」
ほんの昨日までは、結婚生活になんの意味も感じていなかった。
しかし今の私は、生い立ち不明の嫉妬のたまごを抱かされてしまい、荒波の中、小舟を漕ぎ出す羽目となった。
いつもの“月曜真っ黒シリーズ”ですが、なろラジ応募の関係でR15にならない様、オブラートに包むようにいたしました(^^;)
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