横山頭取
「ええ、間違いありません。
アリゾナの砂漠で水が出た事は
ランド不動産の社長、キャシーさんに
確認済みです」
内村は目で美也子を制し仕事の話が
間違いない事を横山に確約した。
「それで、今夜は元経済産業省の重森君を
連れてきたんだ。30歳そこそこでいなほ総研の
主任研究員をしている優秀な男だ」
「重森ですよろしくお願いします、
省に居たときは主に新エネルギーを
専門に研究していました」
重森が名刺を出すと亮は頭を下げた。
「すみません、今名刺を切らしておりまして」
「いいえ、名刺で仕事をするものではありませんので」
重森は慇懃無礼に返事をした
「ところで重森さんは工学部ですか?」
「いいえ経済学部です、どうしてですか?」
「研究をなさっていたとおっしゃったので」
亮はどこまで専門的な話をしていいか知りたかった。
「ああ、調査研究です」
重森はきつい口調で返事をした。
「そうだ、みんなに声を掛けたんだが、
遅くなるそうだ團君」
内村が言った。
「はい、倉沢さんも遅れるそうです」
亮が返事をすると重森が会話を無視して言った。
「早速ですが、内村社長」
「はい」
「バイオ燃料の研究で今最先端を行っているのが、
ボストンのD&R社です。ここは緑藻でバイオ燃料を
作っていまして化石燃料とほぼ同価格で
販売するところまで進んでいます」
重森は大事そうに持っていたファイルを内村に見せた。
「ほう、それで技術提携の話を進められるのかな」
内村は自信ありげに報告する重森に聞いた
「ええたぶん大丈夫です、同僚がハーバード大学の
大学院に留学中で彼に交渉を
頼もうと思っています」
「代表はどんな人物だ?」
内村はファイルで代表の英語のプロフィールを
見にくそうに見ていた。
「社長のデビッド・キャンベル40歳は
MITを卒業後ボストンバイオエネルギー研究所に勤め
5年前35歳の若さで独立しています」
「そのボストンバイオエネルギー研究所の親会社は?」
「確か自動車会社のGMです」
亮はその答えにクスッと笑った
それを聞いた重森はムッとして亮に聞いた
「なにかあるのか?」
「GMではなくフォードです」
「そんな事はない、GMだ」
亮が言った事を重森は否定した。
「それで、内村社長。この技術提携が
うまく行けばCO²排出で
問題の中国へプラント輸出が出来ます。
そうすれば大変な利益が入ってきます」
「うんうん」
横山はうれしそうに腕を組んで笑って言った。
「中国の方は私に任せなさい、劉泰平とは面識がある」
亮と劉泰平との関係を知っている内村は話を逸らした
「それで、社長の共同経営者は?
D&Rならデビッドと誰かだろう」
「ええ、それがよく分からないんです。
奥さんがローラさんなので
たぶんそこから取ったのでは」
重森が言葉弱く内村に答えると亮が後ろを
向いてあくびをした。
すると重森が亮を指差して怒鳴った
「君、そんなに僕の話が退屈なのか!」
「いいえ、ただもっと進んだ話をした方が
良いのではないですか」
「なんだ、君は何が言いたいんだ」
亮は気持ちを落ちつけるために息を吐くと
「たとえば、まず飲料水プラントに関する費用、
バイオ燃料プラントに関する費用
水、燃料販売会社は合弁で作るか否か。
いまさらバイオ燃料の概論の話じゃないですよ。
バイオ燃料はもう1つのメリットがあるんです」
「な、なんだ!」
「緑藻の植物発電です」
「植物発電?」
「植物発電で工場の電力になるんです。
御存じないですか?しかもバイオ燃料を
取った絞りかすは食料や肥料に出来るんです」
亮が言った事に内村はうなずいた。
「失礼なやつだな、君は」
横山が亮を怒鳴りつけた
「重森君は内村社長に分かり安く
説明しようとしただけじゃないか」
内村は亮の顔を見て首を横に振った
「すみません、内村社長に分かり安くですね。
申し訳ありませんでした重森さん」
亮は立ち上がって頭を下げた。
亮が謝ると重森は機嫌を直し続きを話そうとした
「一つ言わせてください」
亮が言うと重森は不機嫌に返事をした
「何ですか?」
「D&RのDはデビッド・キャンベルではなくて
ダニー・シェーファーのDじゃないですか」
亮が言うと内村は亮に聞いた
「ダニー・シェーファーとは?」
「MITの教授でデビッドの恩師です」
亮が言い切ると
「ふん、勝手に決め付けている」
重森は完全に亮を嫌った。
「それに同僚に頼むよりこちらからデビッドに
連絡をすれば良いじゃないですか」
「君はビジネスを知らないな、
何事にもした交渉がいるんだよ」
亮はため息をついた。
「だから日本のビジネスは世界に遅れを取るんだよ」
亮は心でささやき、だんだんいなほ銀行と
仕事をするのが嫌になってきた。
亮は時計を見て突然電話を取り
重森の前で電話を掛けた。
「おはようローラ、亮です」
「わあ、久しぶり元気?」
「はい元気です。早くすみません」
「ううん、うちが早いのはあなた知っているでしょう」
「お腹の子は?」
「順調よ」
「良かった、デビッドは?」
「いま、代わるわ」
電話をデビッドに代わった。
「おはようございます、デビッド」
「元気か?亮」
「もちろんです、早速ですがバイオ燃料の
プロジェクトをスタートさせます。
それと太陽光発電パネルのパネルカバー
を開発中です」
「おお、そうか。待っていたぞ」
「すみません、遅くなりました」
「逆に時間があって助かった、場所はどこだ?」
「まず、アリゾナで」
「あそこは・・・水があるのか?」
「はい、そこに大型施設を作ります」
「よし、亮いつこっちへ来る?」
「今月中に」
「OK」
「それで僕がデビッドと知り合いだと
日本のメンバーが信じてくれないもので
ちょっと話をしてもらえますか?」
「OK、まったく失礼なやつだ。
ただ君と僕は知り合いじゃないぞ、家族だ」
亮は重森にスマフォを渡した。
「デビッド・キャンベルです」
そう言って電話を渡した。
重森は驚きながらデビッドと話をした
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「内村社長、倉沢社長がお見えになりました」
絵里子が内村の耳元でささやいた
「隣の席に案内してくれ、今電話が終わる」
「はい」
重森が電話を終えると声を荒げた。
「そんな馬鹿な、亮って君か!」
重森が亮を指差した
「はい」
「なんでお前如きがデビッド・キャンベルと家族なんだ
名刺も出さないし失礼なやつだ」
重森は亮を指さした。
「どうせデビッド・キャンベルは偽者だろう、
この話もはなから怪しかった、
この男がたかが製薬会社の
係長が持ってきた話なんか信じられるものか」
横山は言ってはいけない事を言ってしまった。
亮は頭にきて立ち上がろうと思った瞬間
「頭取、彼を侮辱することは私を侮辱することです」
普段飄々としている内村が怒鳴った。
あっけに取られている横山に絵里子が噛み付いた
「そうです、亮は嘘をつきません」
「頭取、自分の物差しで計りきれない
人間は信じられないなどと言うから
日本はグローバルビジネスから取り残されるんです」
内村は続いて言った
「横山頭取、うちはおたくの銀行との
取引を止めさせてもらおう」
席に後ろに立っていた石橋工業の
社長の石橋が言った。
「石橋さん!」
横山は驚いて声を出すのがやっとだった。




